エセー物語(エッセイ+超短編ストーリー)[28]超短編の話 脳内亭/海音寺ジョー

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◎超短編の話

超短編とは超短編小説の略で、本田透さんやタカスギシンタロさんが興した新しい文学様式である。500文字以内、という規定がある。500文字以内で成立する小説を超短編と呼んでる。

詩、自由詩との差異、明確な違いは定義が難しい。詩よりも物語性に富んだもの。一般にショートショートと呼ばれる、とても短い短編小説より短歌や俳句に近い。わざと文章を閉じないことで、読者の空想領域をつつきイメージの広がりを狙う。

ぼくは超短編を知らない人に紹介する時は、このような説明ではわかりづらいから、『500文字の心臓』という超短編小説の競作サイトにアーカイブされてる二つの作品を読んでもらい、「こうゆうのなんです」と直に超短編小説を読んでもらうことにしている。

そのうちの一つがこれ、脳内亭さんの1996年の時発表した作品、タイトルは『その他多数』だ。




◎その他多数

脳内亭

足が降りてくるのだという。そのためのくつ下を編んだのだという。履かせるのはただ一人、それがわたしの意中の相手なのという。何の話かさっぱりわからず、ええとこれはフラれたと解釈すればいいのかなとぽかんとしていると、「ほら、きた」と彼女が上空を指さした。つられて見あげると、そこには空を埋めつくさんばかりにたくさんの巨大な足、足、足。おもわず腰をぬかした。呆気にとられるぼくをよそに、彼女はきょろきょろと何かを探す仕種で、そのうちに「あなた」と手をのばして足の一本をつかんだ。そしてそのすねにキスをし、くつ下をていねいに履かせてからぎゅうと抱きついた。すると彼女はあっというまに上空たかく引っぱられ、次の瞬間、フラれた他の足たちがいっせいに地団太を踏んだ。そこから先はおぼえちゃいないが、おそらく世界は、彼女以外はことごとく踏みつぶされてしまったいら。


どうだろう? ぼくは、この、いきなり巨大な足が空から落ちてくる冒頭のシーンからビュワッと心を持って行かれ、ラスト、少女と共に踏みつぶされ、壊滅した。

このような爽快さ、カタストロフを見舞ったことはかつて無かったし、少ない文字数で瞬時に畳みかけられたドライブ感を味わった。

この物語を読んだ10年後。たまたま大阪の中之島で脳内亭さんと直接話す機会ができ、この物語のことを尋ねてみた。『その他多数』は一気にイメージが降りてきて、そのままさっと書き上げたとのことだった。

タイトル競作はお題をまず決めて、希望者がその題に基づく超短編作品を書き、互選による投票で出来栄えを競うという催しだが、このタイトルで冒頭のイメージを良く想起できたなー! というワンダーがあった。

ラストの〈踏みつぶされてしまったいら。〉は〈踏みつぶされてしまい、まったいら。〉ではないの? と良く訊かれた。500文字以内に仕立てるためのギミックだ、と勝手に説明してたのだが、今回そのことも脳内亭さんに尋ねてみた。

これはリズムを整えるため、とのことだった。つまり韻をそろえるために敢えてそういう末尾にしたとのことだった。そうだったのか。何年も「これこそ最高傑作」と周りに標榜しまくっといて、初めて知る真実だった。

しかし、もしそのような脳内亭さん、作者自身の狙いが読み切れなくても、巨大な足がドカドカーッと落ちてくるラストシーンを、文末をつづめたこの異色の表現にしたことにより、凄い迫力が生じてとても良いと思う。

ぼくはもう一つ、同じ年に発表されたオギさんの正選王作品『誰よりも速く』、この二つが超短編の名作だと思っている。

この『500文字の心臓』には他にもたくさんの作品が収録されてて、全ては読み切れてない。未読の分にさらなる面白い作品が眠っているかもしれない。エセー物語で超短編に興味をもたれたら、ぜひ一度覗きに行ってみてください。

超短編作家の一人空虹桜さんが作成した、超短編をテーマごとに分類した『超短編の折り詰め』というサイトもあり、こちらからアプローチするのもお勧めです。もしあなたにとっての最高のストーリーが見つかったら、是非ぼくにも教えて下さい。


◎彼方彼方

オールトの雲の中で、流星の胎児が目を覚ます。
すぐさまはじまる飢餓と排泄欲とで思考が定まらない。

我々の感知できない銀河の裏側で、
アステロイドをかいくぐりながら星間飛脚便が速度を上げ、
『納期』『納期』と叫びながら航路を行き交っている。

安全圏。
安全圏には誰もいない。


【海音寺ジョー】kareido111@gmail.com

ツイッターアカウント
kaionjijoe@
kareido1111@

500文字の心臓のアドレス http://microrrelato.net/
超短編の折り詰めのアドレス https://www.wicurio.com/microstory/

(訂正とお詫び)先日書いた記事「城に泊まった話」で、誤記がありました。村田幸三さん→村田英雄さんの誤りです。また「舞台女優・杉村誠子の話」で書いた映画のタイトル「ランナー」は「サード」の間違いでした。すみませんでした。つつしんで訂正いたします。