デジアナ逆十字固め…[22]「RGB&CMYK レタッチ大全」刊行
── 上原ゼンジ ──

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RGB & CMYK レタッチ大全MD研究会で「RGB&CMYK レタッチ大全」(郡司秀明+MD研究会/ワークスコーポレーション刊)という本を作った。今までMD研究会では「図解カラーマネージメント実践ルールブック」という本を毎年作ってきたが、それと対になるもので、腰巻きには「注意! この本は普通のPhotoshop本ではありません。」と謳われている。

< http://www.wgn.co.jp/store/dat/3097/
>

カラーマネージメントというのは、ディスプレイやプリントアウトや印刷物での色をマッチングさせるためにひじょうに役立つ技術だ。色を合わせるために測定器を使い、測色した結果が近似することを目標とする。つまり重要なのは色がマッチングすることであり、色を良くするための技術ではない。色を良くするための環境を整えておくための技術と言ってもいいだろう。


よくPhotoshopでCMYKにプロファイル変換をしても色は良くならない、という意見があるがこれは当たり前のことだ。色を良くしようとしているわけではなくマッチングさせようとしているのだから……。いや、色が悪くなってしまったという印象を持つ場合もあるかもしれない。これも元画像上の色が印刷での色再現域を越えていれば、違う色で置き換えられても仕方のないことだ。

RGBデータというのは印刷の色再現域を越えているのだから、デジタルカメラで撮影した画像の色は再現できず、フィルムで撮影したものには勝てない、という意見もあるが、これも間違い。ハイエンドスキャナというのも入力時点ではRGB。それを出力するまでにCMYKにしているだけの話だ。

ではハイエンドスキャナとの違いはなんなのか? それはハイエンドスキャナには色を良くするための回路があり、スキャナオペレータが、絵柄によって設定を切り替えていたのだ。つまり、印刷に適したデータにするためには、ただ撮りっぱなしではなく、絵柄ごとの色演出が必要になってくるというわけだ。

カラーマッチングと色演出の部分はごっちゃにしたくないということで、「図解カラーマネージメント実践ルールブック」では色演出について触れてこなかったが、今回の「RGB&CMYK レタッチ大全」では「色を良くする」という部分にスポットを当てている。

レタッチのための本自体は、Photoshopのオペレーションマニュアルとしていっぱい出版されている。ただそれらに不足しているのは印刷に対する知識だ。やはり多少印刷知識がある程度のカメラマンやライターが書いたものには、はっきり言って限界がある……。

私自身がそういった製版現場に隠された秘密の知識を知りたくて、たどり着いたのがMD研究会だったというわけだが、今回の本ではそういった知識が惜しげもなく披露されている。スキャナを開発していた人、スキャナを回していた人、レタッチをしていた人が書いているんだから、そこいらのPhotoshop本とはちょっと違う。

たとえば、トーンカーブの場合だとハイエンドスキャナで使用されてきた網ポジカーブと比較しながら、ハイライトセットアップ、中間調、シャドウセットアップについて解説されている。「このスライダーをこっちへ動かすと明るくなります。こっちへ動かすと暗くなります」というレベルとは大分違う。

それから、USMのかけ方なんかもプロとアマチュアでは差が出るところだ。プロの場合は画面で見ていてウギャっと言うほどのUSMをかける。しかし、実際に印刷が上がってみるとちょうどよくなる。この辺のことが「USMはギリギリの強さを狙え」という感じで書かれている。

●レタッチ技術をオープンに

MD研究会のメンバーと出会って感じたことは、画像を見る目が確かだなということだ。たとえば画質の劣化ということに関しては、ひじょうに敏感だ。印刷物を評価する際に飽和したり、段つき、反転、縮退などが起こっていれば、すぐに分かる。

鮮やかなセーターの写真を指さし「サチってる」というのは飽和が起きているということ。彩度が上がりすぎて、限界を越えてしまいセーターの素材感が出せなくなってしまうケースだ。レタッチの初心者の場合だとどんどん彩度を上げてしまい、飽和に気づかない場合が多いのだ。

それから、人物写真のアゴの下の影の部分を指して「カタまってる」というのは、やはり中間部からシャドー部にかけての調子がなくなってしまい汚く見える場合だ。これも画像補正をしようと思って、いじっているうちに引き起こされるケースが良くある。

カメラマンは露出や色温度に関しては敏感だが、画質の劣化ということに関しては敏感とは言えない。それはいっつも色校正に赤字を書き込まれて文句を言われている人達と、ほとんど色校正を見せて貰う機会のない人との差だ。

しかし、自分で画像処理をしだせば、そういった画質の劣化にも敏感になってくる。すると今度は何が起こってくるのかと言えば、画質の劣化を恐れるあまり大胆さが失われてしまうのだ。たとえばハイライトセットアップで網点をギリギリまで飛ばしてやれば、写真は生き生きしてくるが、これを恐れればネムくて物足りない写真になってしまう。USMにしても然りだ。

DTPの時代になり、ブラックボックスであった印刷の知識が制作サイドにも伝わるようになってきた。しかし、系統立ててレタッチのテクニックを解説した本というのはなかったので、製版現場に伝わってきた技術がオープンになり、継承されていくということは意義のあることだと思う。

「注意! この本は普通のPhotoshop本ではありません。」と腰巻きに謳われているのは、「格が違うぜ」という意味ではない。オペレーションのためのテクニックは確かに書かれているが、製版現場に伝わってきた技術を文化として継承したいという思いが込められているのだ。

肌色のレタッチに関しては、「レトロなピンク肌」「ガングロ系日焼け肌」「日本の伝統の黄色肌」、お米のレタッチに関しては「おいしそうなご飯」「古いご飯」「冷たいご飯」という感じでパラメーター付きで紹介されている。ただし、この数値ばかりにとらわれるのではなく、紹介された技術をヒントに自分なりの色演出技術を磨くためのヒントにして欲しいというのが、腰巻きの文言の真意だ。

私自身、今まで製版・印刷関係のセミナーに出たり、本を買ったりして情報収集をしてきたが、こんな本がもっと前に出ていたら本当に便利だった。DTPオペレーターにもカメラマンにもデザイナーにもお薦めできる一冊です。

※フニャフニャシフトレンズで撮った写真もP220に勝手に載せてしまいました。

※「Imaging-Park」の画像フォーラムをMD研究会で担当することになりました。カラーマネージメントやレタッチに関して話し合う場にしたいと思っています。まだ開店したばかりで全然書き込みはないのですが、ぜひご参加下さい。
< http://www.imaging-park.jp/
>

【うえはらぜんじ】zenstudio@maminka.com
◇キッチュレンズ工房
< http://kitschlens.cocolog-nifty.com/blog/
>
◇カラーマネージメント情報室
< http://d.hatena.ne.jp/cmi/
>
◇ZEN STUDIO
< http://www.k5.dion.ne.jp/%7Ecolor/
>

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RGB & CMYK レタッチ大全
郡司 秀明 MD研究会
ワークスコーポレーション 2006-09-30

by G-Tools , 2006/10/05



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