デジアナ逆十字固め...[132]トマソンと写真の狭間で
── 上原ゼンジ ──

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先日は九州電塾に呼んでいただき、自分の撮っている写真についていろいろお話したのだが、せっかくだからと熊本まで足を延ばし、ちょっと撮影をしてくることにした。

撮りたいシリーズはいろいろあるのだが、けっきょく撮ってきたのは超芸術トマソンの写真が多かった。なぜか熊本ではトマソンが多く目についたのだ。

トマソンに関しては何度か書いているが、「不動産に付着していて美しく保存されている無用の長物」のこと。ただ昇って降りるだけしか機能しない無用階段とか、窓がないのにヒサシだけがある無用ヒサシなどの物件がある。

1983年に美学校の赤瀬川原平さんの教室に通っていたが、その頃がちょうどトマソンの全盛期で、新しい物件が続々登場してくるという、ラッキーな時代だった。

その後、路上観察が抬頭してきて、トマソンはその一部のように扱われるようになってしまったが、それを良しとしないトマソ二アンは、ジッと耐え忍びながらトマソン探査を継続してきたのである。

というのはちょっと大袈裟かもしれないが、超芸術トマソンの探査自体はけっこう高度な観念の遊びなんじゃないかと思っている。




と、トマソン一筋30年のようなフリをしてみたが、実は私も一度トマソンを裏切ってしまっている。トマソンと赤瀬川さんと雑誌「写真時代」から写真の面白さを学んだ私は、1986年から森山大道さんに写真を見て貰うことになる。もっと写真と深く付き合いたいと思ったのだ。

そしてフォトセッションという写真のグループに所属して、月に一度集まり、森山さんに見ていただいたり、メンバー同士で互いの写真について意見を述べたり、罵倒しあったりということをしていた。

当時から私は毎回違うネタで勝負していたのだが、最初はトマソンの写真を持っていくことも多かった。するとそこでは「ああ、トマソンね」(それは写真じゃないよね)みたいな扱いを受けるわけだ。

当時写真のなんたるかが分かっていたわけではないけれど、「写真」がやりたいと思って参加しているので、写真扱いされないのは困る。そこで私は、モロにトマソンの物件写真ではないんだけど、なんかちょっと妙な感じがあるよね、といった辺りを志向するようになっていった。

●写真ではなく、物件に語らせる

トマソンを発見するアンテナと、「写真」を撮るためのアンテナは違うので、しばらくすると、街中で撮っていてもあまりトマソンが目に入らなくなってしまった。

そして長らくトマソン界から離脱していた私だったが、何年か前からまたトマソン観測センターのメンバーと行動を共にするようになった。トマソンから離れた後いろんな写真を撮ってきたが、ちょっと原点に返ってみたいという気になったのだ。

観測センターのメンバーとはたまにミーティングをして、互いの物件について話し合うのだが、報告書に付けた写真が主張していると、「これって写真だよね」というような扱いを受ける。これはフォトセッションの時とは逆の現象だ。

物件の写真はなるべく分かりやすく撮影をするというのが基本。引いた絵や寄った写真、角度を変えたりして、状況がよく分かるように気を配る。

この場合に構図を考えたり、光線の具合を考えたりして、一枚の写真として成立させようとすると、それは余計なことになってしまうのだ。質実剛健に物件の有り様が分ければそれで良し。写真に語らせるのではなく、物件に語らせるためには、いい写真にしようなどという邪な心は無用なのだ。

トマソンじゃなくても、「いい写真」にしようという心は曲者で、構図が良くて、光線をうまく捉えていて、写真的であればそれでいいのか? という問題がある。

確かにうまいけど、何も訴えてないよね。というようなケース。きれいな作例のような写真だけど、何が言いたいのか伝わってこないような写真。「それっぽいけど、中身なし」というのは注意しなければならない。

もともとトマソンには作者はいない。つまりいい物件を作ろうなどという下心を持った作者が存在しないということだ。これが普通の芸術と超芸術との大きな違い。作者がいないわけだから、意図というのもない。そこに撮影者の意図を潜り込ませようとするのは余計なこと。

ただ、物件には「美麗物件」というのも存在する。その佇まいが美しく、みんなが「おおお......」と感嘆の声を上げるような物件だ。

トマソン物件自体はそんなに珍しいものではないのだが、美麗で唸らせるようなものに出会うのはなかなか難しい。そこでトマソニアンは美麗物件や新種を求め、街を徘徊するのだ。

今でも、トマソンは写ってないんだけど「なんか妙だよね」という写真を撮りたいという気持ちは変わっていない。そして写真的な小細工をせずに、その妙な感じをすくい取りたいと思っている。

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