空飛ぶ写真工房…[1]ミジンコの宇宙へ
── 上原ゼンジ ──

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天体望遠鏡を使い、土星の輪や木星の縞々を撮る、顕微鏡でミジンコや粘菌類を撮る、赤外線で血管美人を撮る、ミルククラウンの撮影に、ヘリウム気球による地球の撮影等々、撮ってみたい写真のアイディアは沢山浮かんだ。

しかし、思いつきはしたものの、何から手をつけていいものやら、ちょっと分からない。まず、天体写真というのは、ちょっと準備に時間がかかりそうだ。私が知っているのはカシオペア座と北斗七星ぐらい。土星や木星はどのあたりにいるのか? どの程度の望遠鏡を買えば、輪っかや縞々が見え、撮影ができるのか? 多少調べてからでないとちょっかいは出せない。

まあ、いけそうかな、と思えるのは顕微鏡写真とミルククラウン。顕微鏡というのは、小学生の時に好きで覗いていたことがある。どうやってカメラとくっつければいいのかは分からないが、とりあえず取り扱うことはできる。


ミルククラウンというのは、牛乳を一滴、牛乳の上に垂らし、王冠のような形にはねた状態を瞬間的に撮影すること。これはストロボを使って動きを止めればなんとかなりそうだ。ストロボというのは閃光時間が短いので、暗い中でストロボを光らせれば、その瞬間だけ写し止めることが出来る。

それから最近のカメラはかなり速いシャッタースピードでの撮影が可能だから、ストロボを焚かないでも、思いっきり速いシャッタースピードにすれば、ミルクの丸い滴をブラさずに撮影できるかもしれない。

とりあえずは、顕微鏡写真とミルククラウンあたりからちょっかいを出してみることにする。あとは同時並行的に天体写真やら、赤外線写真やらの下調べを進めていけばなんとかなるだろう。

●くじ引きで当てた顕微鏡

まず、顕微鏡の値段を調べてみる。検索で引っかかった一番安い顕微鏡はイチキュッパ。といっても一万九八〇〇円ではなく、一九八〇円。この値段の顕微鏡が果たして使い物になるのだろうか?

しかし、写真を見て驚いた。それは私が三十六年前に手に入れた顕微鏡にそっくりだったからだ。三十六年前というとお爺さんのように思われるかもしれないが、当時は小学校の二年生。今となってはオジサンではあるが、お爺さんではない。それに私はある時から年をとるのを止めてしまったので、三十才ぐらいにしか見えないということも付け加えておこう。

ちょうど万博の年のことでありました。ゼンジ少年は京都の山科に住んでおり、隣町の模型屋に行ったんだよ。そしてな、くじ引きで顕微鏡を当てたんだよ。後にも先にもそんな素晴らしいものを当てたことはないよ。考えてみればあれが私のくじ引き人生の中の頂点だったのかもしれないな……。

しかし、小学校2年生の私には顕微鏡は扱えず、宝の持ち腐れとなってしまった。そしてその宝物が役に立つようになったのは小学校の高学年になってからだ。何がきっかけだったのかは忘れてしまったが、たぶん当時の愛読誌であった「子供の科学」の影響だろう。ついに私はミクロの世界をのぞき見ることに成功したのだ。

当時私が好んで見ていたのは水中の中の微生物。ゾウリムシやミドリムシの動きに虜になった。べん毛やら繊毛を動かしながら、視界の中を横切っていくんですよ。それが楽しかった。

水中の生物を見る時にはホールグラスというプレパラートを使う。プレパラートというのは、覗きたいものを乗せる長細いガラスのこと。そのガラスの真ん中に窪みがあるのがホールグラス。その窪みに金魚鉢の中の水草の小さな葉っぱを一枚、水と一緒に入れて薄ーいガラスで蓋をする。そうすると葉っぱの周囲に棲息するさまざまな微生物を観察できるというわけだ。

今回、顕微鏡写真を撮ってみようと思って、真っ先に思いついたのはミジンコ。たぶんサックス奏者坂田明氏のエッセイに登場したのが、頭の片隅にあったからだろう。子供の頃はその存在は頭になく、観察したこともなかった。そこでまずは初ミジンコ体験からレポートしていきたいと思う。

●まずは水草から

水中の生物を観察してみようと思って、まず私がとった行動は水草を買うことだった。水草の周りにはいろんな微生物がいるという考えがあったからだった。本当はメダカやヌマエビなども欲しかったのだが、いきなり買って帰ると絶対に家人から文句を言われるので、水草だけで我慢した……。

ハムスターを飼いたいという娘には、「そんなの飼ったら、どこにも遊びに行けなくなっちゃうよ」と言って諫めているのだが、お父さんはメダカが飼いたい。今回のミジンコを突破口に、めくるめくメダカの世界へ到達したいものだ。でも、ミジンコはメダカに食べられちゃうか。

水草は買ったものの、どこからかミジンコを採集してこなければならない。とりあえずネットでミジンコ情報を検索してみる。するとかなりの人たちがミジンコの飼育をしていることが分かった。「あんたらミジンコなんて飼ってどうするの?」とも思うが、まあこれから自分もその世界に足を踏み入れようとしているわけだ。

検索してウロウロするうち、いくつかのことが分かってきた。たとえばミジンコというのは単細胞生物ではなく、多細胞生物で神経も持っているということ。エビやかカニの仲間の甲殻類で、大きさは0.2mmから4mm程度。4mmというのは凄くデカイね。そんなデカイものが今までは目に入らなかったということだ。

棲息地は田んぼや池。今の時期は稲刈りも済んで田んぼは干上がっているが、土だけ採取してきて水の中に溶かすと、何日か後に自然に誕生するんだそうだ。つまり干上がった土の中で卵として越冬するということだ。卵を水に入れると誕生するというのはシーモンキーのようだ。

田んぼは近所にあっただろうか? Googleの衛星写真を見て調べてみる。そしてけっこう近所に新田と名の付く田んぼ地帯を発見。ここで土を採取してこよう。

観察するためには水槽も必要だな。空気のブクブクは買ったほうがいいのだろうか? ミジンコレベルであれば、ペットボトルでもなんでも飼えそうだが、もう水槽が欲しくて欲しくてたまらない。ネットで色々見ているうちに、心は大きくアクアリウム方面へと吸い寄せられている。

しかし、ミジンコの顕微鏡写真を撮るのに、そんな大げさなものが必要だろうか? などというネガティブなことを考えてちゃいかんな。まあ良い。しばらくは自分を泳がせて、好きにさせておこう。

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by G-Tools , 2006/11/09