【前回までのあらすじ】板ガラスの上に砕いたガラス片を乗せ、火で焙って溶かすことにより歪みフィルタを作ろうとしていたオレだったが、板ガラスは溶けることなく、ただ割れてしまうという運命の悪戯に翻弄される。傷心のまま帰国したオレを待ち受けていたのは……。
●ガラスを一体化させるには
そう。ガラスっていうのは、半端に焙ってみても溶けずに、「ビチッ!」と音を立てて割れちゃうんですよ。まあ、そうかもしれないねえ……。何でこういうアイディアを思いついたのかと言えば、米村でんじろう先生の「けんび鏡キット」というのがヒントになっている。でんじろう先生はテレビでいろんな科学実験をしているが、実験のキットなども商っている。「けんび鏡キット」はその中のひとつだ。
内容はと言えば、直径1mmもなさそうな細いガラス棒が入っていて、それを焙って溶かすことによりレンズを作り、その手作りレンズを使って小さなものを観察してみよう、というものだ。それが頭にあったもんで、小さなガラス片なら溶けるんじゃないかと思っちゃったわけだ。
ただよく考えてみたら、ちょっと焙ったぐらいでガラスが溶けちゃったら問題だよな。オレの考えが足りなかったよ。いつものことだけど……。柴田編集長はこういう失敗した話が好きみたいだけど、わざとやってるわけじゃないんだよ……。この間だって小さなガラス片が足の裏に刺さっちゃって、大変な思いをしたんだよ……。
ガラスの話を書くと必ずメールをくれる読者の方がいて、その人に相談してみたところ、たぶんその細いガラスというのは、低い温度でも溶ける低融点ガラスだろうとのこと。また、たとえ溶けたガラスを板ガラスの上に落としてみたところで、下の板ガラスの温度が上がっていないと、一体化しないだろうとのこと。ハンダ付けと同じ要領で、ただハンダを溶かすだけでなく、対象物を温めておく必要があるらしい。
そう言えば、ハンダというのは、そういうもんだったかもしれない。ただハンダを溶かしてボテッと落としただけではポロリと外れてしまうから、対象物の方を温めておいて、ハンダをツツっと滑らせるように溶かすというのがコツだった気がする。
小学校の頃は「子供の科学」を定期購読していて、トランジスタラジオとか、「ぴよぴよブザー」なんかを作っていた。あのまま半田ごてを握りしめていれば、今頃は高名な科学者になっていたことは想像に難くない。しかしその後すぐにドロップアウトしてしまったので、頭の中はぴよぴよレベルで止まってしまっている。まあ、少年のハートと頭脳を兼ね備えた中年というわけだ。
●地鶏は焼けるわ、ガラスは溶けるわ
板ガラスのほうも温めておけばいいということが分かったが、板ガラスをあっためたら割れちゃうんだよ。ということは、局所的に温めるライターのたぐいではなく、溶解炉のようなもので全体に溶かせばいいということか? しかしそれではいくら何でも大げさすぎはしないか? だいたい私はなんのためにガラスを溶かそうとしているのか?
なんかグニャグニャのガラスフィルターを使って撮影をしたら、世の中も歪んで見えて面白いのではなかろうか、という話だった。もともとこの連載のコンセプトとしても、なるべくお金をかけずに写真で遊ぶ、ということだった。それが、「もののけ姫」の「たたら製鉄」みたいな感じでガラスを溶かすとなると、ちょっと違う気がする。
でも、ガラス工芸とかやってるオバさんているじゃん。あんな感じでもう少し簡単にガラスの細工はできないものかね? と思っていろいろネットで検索をしていたら、電子レンジを使うキルン(炉)というのを発見した。キルンは円柱のケーキのような形をした箱で、電子レンジの中に入れると、箱の中が高温になり、炉の役割を果たすのだという。
オバさん達がこのキルンを使って何をしているのかといえば、フュージングという工芸らしい。板ガラスの上に砕いた色ガラスや棒状のガラスを乗せて溶かし、アクセサリーなんかを作るのだという。私がやりたいこととピッタリ合うではないか。これさえあれば、何でも溶かすことができる。
値段は小さいもので7000円ぐらい。ちょっと微妙な値段だな。というか、ただ歪んだガラスフィルターを作るためだけに買うのだとしたら高い。人にも勧められない。いろんなものを溶かしてオリジナルのフィルターを作ってみたいという欲求もあるが、すぐには飛びつけないという感じだ。
しかも説明を読んでいたら「電子レンジは食品調理用のものと兼用しないようにしてください」とある。わざわざこのために電子レンジまで買うことはできないよな。かといって、うちの電子レンジを使って壊したりしたら、愛妻が激怒することは想像に難くない。
さて、どうしてくれようかと思い、ガラスフェチ、じゃなくてガラス通の読者の方に相談してみた。そしたら七輪を使ってはどうかという返事がきた。七輪、いいじゃないか。炭火焼きのフィルターなんて、夢があるよね。
なにより私は七輪が欲しかったんだよ。宮崎地鶏を真っ黒にしながら焼いてみたかったんだよ。これからはサンマもうまいよな。ガラスは溶かせるわ、地鶏は焼けるわ、こんな素晴らしい道具はほかにあるまい。
「またそんな物買ってきて、どこに置く気っ!」と声を荒げる愛妻を想像し、今まで憧れの七輪を買えずにいたが、「仕事でどうしても必要なんだ」という、いい名目もできた。七輪で炭火焼き地鶏を焼く自分の姿を想像し、動悸が激しくなってきた私は、日本一の七輪を求め、また新たなる旅へと赴いたのだった。
【うえはらぜんじ】zenstudio@maminka.com
◇上原ゼンジ写真研究所
< http://www.maminka.com/zenlab/top.html
>
「カメラプラス トイカメラ風味の写真が簡単に」(雷鳥社刊)
< http://www.maminka.com/toycamera/plus.html
>
そう。ガラスっていうのは、半端に焙ってみても溶けずに、「ビチッ!」と音を立てて割れちゃうんですよ。まあ、そうかもしれないねえ……。何でこういうアイディアを思いついたのかと言えば、米村でんじろう先生の「けんび鏡キット」というのがヒントになっている。でんじろう先生はテレビでいろんな科学実験をしているが、実験のキットなども商っている。「けんび鏡キット」はその中のひとつだ。
内容はと言えば、直径1mmもなさそうな細いガラス棒が入っていて、それを焙って溶かすことによりレンズを作り、その手作りレンズを使って小さなものを観察してみよう、というものだ。それが頭にあったもんで、小さなガラス片なら溶けるんじゃないかと思っちゃったわけだ。
ただよく考えてみたら、ちょっと焙ったぐらいでガラスが溶けちゃったら問題だよな。オレの考えが足りなかったよ。いつものことだけど……。柴田編集長はこういう失敗した話が好きみたいだけど、わざとやってるわけじゃないんだよ……。この間だって小さなガラス片が足の裏に刺さっちゃって、大変な思いをしたんだよ……。
ガラスの話を書くと必ずメールをくれる読者の方がいて、その人に相談してみたところ、たぶんその細いガラスというのは、低い温度でも溶ける低融点ガラスだろうとのこと。また、たとえ溶けたガラスを板ガラスの上に落としてみたところで、下の板ガラスの温度が上がっていないと、一体化しないだろうとのこと。ハンダ付けと同じ要領で、ただハンダを溶かすだけでなく、対象物を温めておく必要があるらしい。
そう言えば、ハンダというのは、そういうもんだったかもしれない。ただハンダを溶かしてボテッと落としただけではポロリと外れてしまうから、対象物の方を温めておいて、ハンダをツツっと滑らせるように溶かすというのがコツだった気がする。
小学校の頃は「子供の科学」を定期購読していて、トランジスタラジオとか、「ぴよぴよブザー」なんかを作っていた。あのまま半田ごてを握りしめていれば、今頃は高名な科学者になっていたことは想像に難くない。しかしその後すぐにドロップアウトしてしまったので、頭の中はぴよぴよレベルで止まってしまっている。まあ、少年のハートと頭脳を兼ね備えた中年というわけだ。
●地鶏は焼けるわ、ガラスは溶けるわ
板ガラスのほうも温めておけばいいということが分かったが、板ガラスをあっためたら割れちゃうんだよ。ということは、局所的に温めるライターのたぐいではなく、溶解炉のようなもので全体に溶かせばいいということか? しかしそれではいくら何でも大げさすぎはしないか? だいたい私はなんのためにガラスを溶かそうとしているのか?
なんかグニャグニャのガラスフィルターを使って撮影をしたら、世の中も歪んで見えて面白いのではなかろうか、という話だった。もともとこの連載のコンセプトとしても、なるべくお金をかけずに写真で遊ぶ、ということだった。それが、「もののけ姫」の「たたら製鉄」みたいな感じでガラスを溶かすとなると、ちょっと違う気がする。
でも、ガラス工芸とかやってるオバさんているじゃん。あんな感じでもう少し簡単にガラスの細工はできないものかね? と思っていろいろネットで検索をしていたら、電子レンジを使うキルン(炉)というのを発見した。キルンは円柱のケーキのような形をした箱で、電子レンジの中に入れると、箱の中が高温になり、炉の役割を果たすのだという。
オバさん達がこのキルンを使って何をしているのかといえば、フュージングという工芸らしい。板ガラスの上に砕いた色ガラスや棒状のガラスを乗せて溶かし、アクセサリーなんかを作るのだという。私がやりたいこととピッタリ合うではないか。これさえあれば、何でも溶かすことができる。
値段は小さいもので7000円ぐらい。ちょっと微妙な値段だな。というか、ただ歪んだガラスフィルターを作るためだけに買うのだとしたら高い。人にも勧められない。いろんなものを溶かしてオリジナルのフィルターを作ってみたいという欲求もあるが、すぐには飛びつけないという感じだ。
しかも説明を読んでいたら「電子レンジは食品調理用のものと兼用しないようにしてください」とある。わざわざこのために電子レンジまで買うことはできないよな。かといって、うちの電子レンジを使って壊したりしたら、愛妻が激怒することは想像に難くない。
さて、どうしてくれようかと思い、ガラスフェチ、じゃなくてガラス通の読者の方に相談してみた。そしたら七輪を使ってはどうかという返事がきた。七輪、いいじゃないか。炭火焼きのフィルターなんて、夢があるよね。
なにより私は七輪が欲しかったんだよ。宮崎地鶏を真っ黒にしながら焼いてみたかったんだよ。これからはサンマもうまいよな。ガラスは溶かせるわ、地鶏は焼けるわ、こんな素晴らしい道具はほかにあるまい。
「またそんな物買ってきて、どこに置く気っ!」と声を荒げる愛妻を想像し、今まで憧れの七輪を買えずにいたが、「仕事でどうしても必要なんだ」という、いい名目もできた。七輪で炭火焼き地鶏を焼く自分の姿を想像し、動悸が激しくなってきた私は、日本一の七輪を求め、また新たなる旅へと赴いたのだった。
【うえはらぜんじ】zenstudio@maminka.com
◇上原ゼンジ写真研究所
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by G-Tools , 2007/09/13