デジアナ逆十字固め…[90]CubicVRをグルグルしてみて!
── 上原ゼンジ ──

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現在エプサイトでやっている写真展の記録を残しておきたいと思った。自分でも初日に三脚を持っていっていろいろ撮ってみたのだが、いまいち会場の雰囲気が伝わらない。会場自体は40坪ぐらいあって広いのだが、パーティションが林立する不思議な空間になっている。そのゴチャゴチャッとした感じを出したいのだが、うまく撮影することができない。

魚眼レンズがあれば写せるかもしれないが、あいにく持っていない。しょうがないので玄関のドアスコープレンズを使って撮影してみた。たくさん照明が写りこんで、写真としては面白い感じになったのだが、記録ということで言うとクオリティーに不満が残る。

Photoshop CS4には、分割して撮影した画像をつなぎ合わせてくれる機能があるので、いちおう撮影ポイントを決めて分割撮影もしてみた。これは最近よくやるのだが、実際には撮るだけで、張り合わせるところまではやっていない。Photoshopがどんなに賢くても、たぶんつなぎ目が不自然になって、手作業が必要になるだろうなと思うと、なかなかやる気が起きなかったのだ。

でも、frickrなどで知り合った異国の友人達にも会場の雰囲気を味わって欲しいし、日本の写真史に残る展示だから、ぜひともきっちり残しておきたい。そこで思いついたのが、岩本朗さんに撮影をお願いしたいということだった。岩本さんの専門は料理写真だが、パノラマ写真の世界にのめり込み、たくさんの作品を産み出している。



岩本さんは、デジタル写真の技術ということで言うと抜きん出たものがあり、RGBデータのお手本となるような画像データを作成することができる。製版のエキスパートも絶賛するような、テクニックの持ち主が岩本さんなのだ。

そんな岩本さんが創りだすパノラマ写真や球面パノラマ写真というのも、すごくクオリティーが高い。最近では、コンシューマ機を使って簡単にパノラマ写真を作成できるようになってきた。球面パノラマ写真というのも、よくWEB上で見かける。写真の上でカーソルをドラッグすると、ぐるっと360度の風景を回転させることができるやつだ。

岩本さんの場合、あのグルグル画像のクオリティーがメチャクチャ高い。つなぎ目に違和感がないし、明るさの違う部分の馴染ませ方が自然。クリアで解像感があってシャープ。素晴らしい!

岩本さんの凄いところは、道具も自分で改造したり作ったりしてしまうこと。まあ、私も多少はやるけど、全然レベルが違う。たとえば、パノラマヘッドにカメラを取り付けるためのブラケットなんていうのも自分で作ってしまう。

私の紙やプラ板の工作とは違って、金属ですよ! 金属を切ったり曲げたり、ネジ穴を開けたりしてしまうんだから、尊敬してしまう。ネジ山をただバリバリと潰しているような人間とは、位が全然違うね。

そんな岩本さんに撮っていただいた会場写真は、以下から見られます。ぜひ、CubicVRをグルグルやってみてください(Quick Time Pluginが必要)。それとZoomify(ズーミファイ)というのも凄い。これは、見たい部分をクリックすると、どんどん画像が拡大されていくんだけど、写真の説明用に書いた文章なんかもはっきり読めます。イベントや舞台などの空間を記録しておくためには、本当に有効な技術ですね。

◇会場の様子
< http://www.zenji.info/exhibition/epsite2008.html
>

◇Pixel Artworx(岩本朗)
< http://homepage.mac.com/akira527/pixelartworx/web-content/
>

●写真の反射神経

今回は会場にいる時には、来てくれて人になるべく声をかけるようにしている。声をかけるポイントはいくつかあって、ビー玉レンズや万華鏡の前にいる人の所に行って、「こうやって写すんですよ」と言って実践して見せるのだ。するとけっこう簡単に写るので、みんなそれなりに感心してくれる。こういう話しかけやすいシチュエーションを作っておいて本当に良かったと思う。

それから、置いてあるレンズや万華鏡を使って「ご自由に撮影してください」という方式にしてあるので、けっこうみんな撮影していってくれる。そしてその写真を載せてブログで紹介してくれる人もけっこういるので、これはいい宣伝になる。携帯電話で撮影した画像に対して、著作権うんぬん言っても仕方のないことで、それよりも口コミで宣伝してもらった方が、こちらとしてはありがたい。

置いてあるレンズを見た時の、人々の反応は様々だ。関心ありそうに眺めてはいるのだが、実際には手にとらない人。レンズを使ってあちこち覗いてはみるが、写真は撮らない人など……。

新宿+そんな中で、レンズを見つけて実際に撮影してみるまでのスピードが一番早かったのが、森山大道さんだ。レンズを見つけたらさっと手に取り、すぐさま自分のカメラを取り出して撮影を始めた。その辺、まるで躊躇がなかったから、やっぱり達人は違うんだよ。写真に対して貪欲であり、反射神経がいい証拠だと思う。

森山さんからは「変わってないな」と言われた。真意は分からないけれど、褒めて貰ったことにしておこうと思う。いや「変わってないな」は別に褒め言葉じゃあないか(笑)。森山さんに写真を見ていただいた1986年、87年当時というのは、モノクロフィルムで撮影していたし、被写体なんかもかなり違っていたと思う。しかし変わっていないと言われた。

これはまあ、本質的な部分は何も変わっていないという意味なのだと思う。当時からそういう本質的な部分が、森山さんには見透かされていたということだ。しかし自分自身では、自分の本質的な部分なんていうものはよく分からない。どっちの方向に進むべきかもよく分からなかったので、あっちへ行ったり、こっちへ来たりを繰り返しながら、20年あまりが過ぎてしまった。

もう少し先を見通す能力があれば、自分の場所に早くたどり着くことができたのに。まあ、目端の利かない性格なんだから仕方がない。でも、遅まきながら自分のやるべきことが分かってきたよ。あとは確信犯として進むばかりだ。

◇上原ゼンジ写真展
「FANTASTIC REALISM 夢遊する現実」
エプサイト
会期:2008年12月3日(水)〜2009年1月18日(日)
< http://www.epson.jp/epsite/
>

◇1月12日(祝)のワークショップは定員となりました。
ありがとうございます!

【うえはらぜんじ】zenstudio@maminka.com
◇上原ゼンジの新刊
「うずらの惑星 身近に見つけた小さな宇宙」(雷鳥社刊)
< http://www.zenji.info/profile/uzura.html
>
◇上原ゼンジのWEBサイト
< http://www.zenji.info/
>

うずらの惑星―身近に見つけた小さな宇宙 カメラプラス