ところのほんとのところ[10]「渋谷1secシリーズ」撮影再開と雑誌編集者の反応
── 所 幸則 ──

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●「渋谷1secシリーズ」の追加撮影を再開

12月に「渋谷1secシリーズ」の追加の撮影を再開した。とはいっても、このシリーズは、歩きながら行き当たりばったりで撮りまくるスタイルではない。日が出ている間は渋谷駅回りをうろうろして、撮りたいポジションを探し、ベストな撮影時間の見当をつけるといった感じかな、ところスタイルとしては。

渋谷に繰り出すのは朝だったり、昼だったりするんだけど、冬の日差しは弱く感じるからNDフィルターもいつも8番(3絞り暗くなる。いいかえれば1/60秒で絞りが11だったのが、それをつけると1/8秒で絞り11にすることができる)だったが、4番(2絞り分暗くなるやつ。1/30秒で絞りが11だったのが、それをつけると1/8秒で絞り11にすることができる)に変えた。

実際撮ってみると、晴天で一番明るい時間だと、意外に暗くない。冬だからもっと暗いだろうと思っていたので、ちょっと不思議な気分になった。この12月の撮影は、ポイントと時間がはっきりしてる事もあるけど、慣れて来たせいなのか、出動した日は一日2カットずつは物にできたので気分がよかった。

今回の撮影で、同じ場所でも、季節によって光はずいぶん違うんだなーと改めて実感した。ビルの窓や壁に反射する太陽光がどんどん変わって行き、4〜5日経つとまったく同じ時間に行っても全然おもしろくなかったりとか。すべてのポイントで旬といえる日数が少なくて、せかされるように撮った感じですね。HPにアップしてあるので、ぜひ見て下さい。



●対照的だった写真雑誌の対応

ひとまず順調に進んでいる撮影に対し、ヨーロッパとのやりとりはもの凄く大変。特に、ギャラリーの人達はマガジンや広告の人達と時間の流れが違うようで、ひと月やふた月のズレはあたりまえなのかなと思った。

イタリアのwavephotogalleryから、やっと連絡が来た。これは正式な依頼で、9月に個展が決まった。何日から始まるかはまだ調整してるらしい。オランダのフォトアート誌「Eyemazing」では、14ページにわたる特集も決まった。こちらはメールに対するレスポンスが本当に早くて、ストレスはない。パリの有名なギャラリーもやっと連絡はきたけれど、まだまだ時間がかかりそうだ。

僕もじっくり作品を増やして行くしかないか。いらいらしてもなにもいい事はない。年末にいくつかの写真雑誌と森美術館にアポをとり、年明けに作品を見てもらった。

森美術館のエグゼクティブマネージャーには評判がよく、こういうアプローチの風景は世界的にみてもあまり例がないとのこと、うれしいですね。日本のいくつかの、思い当たるギャラリーに紹介することも考えてくれるという。ありがたいことです。そして、プリントはもっと大きくするべきだという意見が出た。僕もそう思っていたのでうれしかった。

写真雑誌の対応は、けっこう対照的だった。最初は、わりと新しい写真雑誌の編集長に見てもらった。おもしろがってくれたようだったが、そのあとの会話がちょっと頭でっかちな印象だった。彼は写真が好きで、勉強も頑張ってやっている感じもしたけれど、風景撮ってる人はゴマンといて、似たようなアプローチで渋谷を撮っている有名なカメラマンもいるし〜、みたいな事をいわれびっくりした。後日、同じ名前が別の雑誌でも出て来たが、全然違うといわれてほっとした。

それから、こういう作品は何年も積み上げないと評価されない、とも言われた。ヨーロッパのギャラリーからも、ヨーロッパの老舗フォトアートマガジンからも既に評価されてるんだけどなあ、と言いたかったけれど……。こういうタイプのギャラリストもパリにはいる、とパリに行ってる時に画家の友人から聞いた事がある。10年くらいタッチが固定してないと見ない、という人もいるんだそうだ。

それと、漫画家と編集者の関係のように、作品内容にも関わって、ここはこうしたほうが凄くおもしろくなると思う、というようなことも言う。僕の写真を見て、世界のフォトアートマガジンでもそんなことは言わない。でも、実際こういう人の話を聞くのも面白い経験だった。

個展の時に、もう個展の紹介のページは埋まってると告知を断られたが、後に雑誌を見るとしっかり紹介してくれていた。真面目で誠実なのがわかる。頭がいいなと思ったのは、写真の機材やテクニックにおいて、マネだとか方法論が似てるなんてことはまったく関係ないって語ってたのが印象的で、まさに彼の言う通りです。撮影テクといっても、いままでの写真家がいろんな手法を積み上げて来たものの組み合わせでしかないんだから、カメラが同じで、撮影スタイルが似てるなんて言ってる人がどうかしてる。この編集長には、また見てもらって、いろいろ話してみたいと思った。

次の雑誌にて。写真雑誌編集歴ゆうに30年近い(?)という副編集長さんは、日本人写真家(コマーシャル&ファッション系は別として)のことで知らない人はいないっていう感じで、根っからの写真雑誌編集者。かなりおもしろがってくれた。ただ、その雑誌の誌面で横位置写真は片ページの真ん中に入れる事が多いらしく、見開きでバンバンみせるようなことはあまりしないらしい。「渋谷1secシリーズ」はできるだけ大きいほうがより良さが発揮できるから、このシリーズはうちの本には向かないかもしれないなあと、残念そうにいわれた。新しい時空間表現でおもしろい、という感想だっただけに残念。別シリーズを始めたら是非いろいろやりたいですねと言われて、僕も少し残念だったけどいい感じで編集室をあとにした。

実は今回、この誌面に載せてもらいたくて訪ねたのではなかったんだ。去年の2月後半ごろ、明け方の渋谷をあるコンセプトのもと、スナップ感覚で白黒で撮ってプリントし、ためしに見せに行ったら、もう少し撮っておいてもらえれば、秋ぐらいから連載を考えてもいいねって話になったのに、僕のわがままでそれはやめてしまったのだった。そして「渋谷1sec」に走ったので、申し訳なくおもいつつも、個展告知のためにいろんな写真雑誌にリリースを送ったのを不快に思ってるように感じたので、お詫びの意味も込めて副編集長に見せに行ったんですよ、雨の日に重い巨大ブックを持って。だから、喜んで貰えただけで充分でした。

その夜、取材依頼のメールが家に届いたのは意外だった。インタビューの形をとれば、定番レイアウトというお決まりの枠から外せるのだろう。なんとかして載せたいという気持ちがうれしかった。早速、週明けにライターと一緒に来られて、メインの写真を選び、他の雑誌でまだ出てない新作をセレクトしていた。当然だけど3人とも写真の話は大好きなので、インタビュー後も1時間半ぐらい一緒に喋ってた。こういうのって楽しいよね。

【ところ・ゆきのり】写真家
CHIAROSCUARO所幸則
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所幸則公式サイト
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by G-Tools , 2009/01/23