KNNエンパワーメントコラム 全録時代の前にテレビ業界がやっておくべきこと
── 神田敏晶 ──

投稿:  著者:


KNN神田です。

先週、まったく別の知人二人から「NHK特集の沸騰都市シリーズ」の録画はないですか? と声をかけられ、びっくりした。見過ごした番組ほど視聴するのは非常に難しいからだ。

一週間前の番組はすべて録画されているし、常に3台のハードディスクレコーダーがなんらかの番組を録画してくれている。しかし、テレビを視聴するというよりも、HDDの容量が少なくなり、新しく保存ができなくなるから、消去するために視聴するというスタイルになってしまった。

DVDやブルーレイに保存するということも行ってきたが、DVDのようなパッケージに保存したとすると、永遠に見ないという法則性があらわれている。すでに、光学ディスクを出し入れすることすら面倒になってしまった。ハードディスクの低廉化と共に、HDDへの全録テレビ時代はもうそこまで来ている。



1994年から250万倍もHDD容量は増えている。すでにバルクのHDDは1TBが8,000円台である。1GBあたりのコストはたったの8円だ。ブルーレイディスク50GBの5枚パックで4,000円くらいになってきたが、1GBあたり16円だ。HDDに残しておいた方が安くなる計算だ(4.7GBのDVDだと8円でちょうどHDDと同等である)。まだバルクのHDDが増設できるHDDレコーダーは少ない。しかし、PCであれば簡単だ。これからはHDMI接続が標準装備となるはずで、テレビとPCはますます近くなる。

つまり、ブルーレイに焼くよりも、HDDを増設して残した方がコストも安く、再生するハンドリングが楽になる現象があらわれてくる。Appleと東芝がブルーレイ市場に参入しない理由は、そこにあるのかもしれない。

おそらく、2010年南アW杯開催の頃には、HDDの増設可能な全録ビデオが多数登場していることだろう。その前に、録画率や再生率、番組のブログEmbed率なども測定する必要があるのではないだろうか。

そうなってくると、今やっているNHKオンデマンドやTBS無料見逃しサービスは意味をなさなくなってしまう。有料でテレビ番組を見せるというよりも、新たな広告体験を生み出すプラットフォームを、テレビコンテンツで作る必要性があるだろう。

2008年12月、NHKオンデマンドが有料で開始された。
< https://www.nhk-ondemand.jp/
>

「今までの視聴率ランキングにあらわれる視聴とはまったくちがった視聴パターンが確認できた。欧米では、オンデマンドによって、翌週のテレビドラマの視聴率にも好影響を及ぼしている」とNHKオンデマンド室小原正光部長は語る。

有料放送であるNHKが、さらにオンデマンドで料金を徴収する部分については、「権利処理費用やサーバーの運用費などである」と同部長は語る。
<
>

TBSは、2009年02月「TBSオンデマンド無料見逃しサービス」を開始。
< http://www.tbs.co.jp/minogashi09/
>

TBSは、広告挿入での視聴モデルを展開している。試験的ではあるが、先週、先々週などの人気ドラマをウェブで視聴でき、今週の放送に対しての番組宣伝が可能となった。

注目されるのはCMが挿入型となっており、工夫されているところだ。ネットの特性では、テレビのように4本も6本もCMを流されると、見ていられない。約10分ごとに、CMがたったの1本だけ挿入される。これは非常にいいアイデアだ。しかし、クリックしてスポンサーにリンクさせるというアイデアはなかった。

ただし、NHKは公共放送なので、民放よりも先に無料サービスを展開するわけには、道義上いかない。やりたくてもできない。民放は民放で、民放連の枠の中でのサービスのチョイだしでしか対応できない。少なくともないよりはましであり、成果をすべての民放で共有すべきだろう。

米国のHulu.comは、
< http://www.hulu.com/
>
News CorpとNBC Universalが設立したテレビ業界側からのアプローチである。無料広告モデルで、テレビと同様のVODで視聴させている。

つまりこれは、個々のユーザーがHDDで全録するのではなく、HDDの容量を節約している、クラウドコンピューティング的な全録システムになろうとしている点に注目してほしい。お勧めや人気番組なども、自分とのマッチングも進化し、行動ターゲティング広告と連動していくことは目に見えている。

CBSも人気ドラマをでネット配信している。
< http://www.cbs.com/hd/
>

もちろん、ABCでも…。
< http://abc.go.com/
>

Joost.comも専用アプリケーションではなくウェブブラウザで視聴が可能となり、iPhoneアプリケーションもすでに100万本以上ダウンロードされている。
< http://www.joost.com/
>

※Joostについてはこちらも参考までに
< https://bn.dgcr.com/archives/20070521140400.html
>

残念ながら、海外のテレビ局の配信の関係上、これらは米国内だけのサービスである(NHKのテレビ放送の海外版は無料で視聴できる)。しかし、インターネットでVPNをPCでインストールして視聴できる方法がある。

動画配信サービス「Hulu」の動画を日本から視聴する方法
< http://tokuna.blog40.fc2.com/blog-entry-1184.html
>

Hotspot Shield(PCのみ)という無料VPNソフトをインストールすれば、日本国内でも簡単に視聴ができてしまう。
< http://anchorfree.com/downloads/hotspot-shield/
>

国を識別するIPもVPNというネットワークでセキュアにすることによって、意味を全くなくしてしまえるのだ。ただし、無料VPNソフトなだけに、おびただしい広告とスローモーでヘビーな動画環境は覚悟が必要だ。それでも、米国のサービスを疑似体験するには十分だ。リサーチには十分に使える。

インターネット技術は、今までのいろいろな枠組みを思いもよらない方法のマッシュアップで変化させてしまう。すでに、国境というガイドラインそのものが、ウェブの世界では無意味化してきていることを象徴している。むしろ、言語による国境しか作れないと認識を変えたほうが良い。

米Yahoo,Incは、connected.tvでウィジットをテレビに搭載して、テレビ画面をスクリーンセーバー化してしまい、ディズニーABCテレビジョングループのアン・スイーニー社長は、「番組をどれだけ見られているかで広告を売るのをやめ、広告をどれだけ見ているかで販売する」と方針を変更した。

さらに、NBC Universalは、TAMiという新たなクロスメディアの視聴調査を実施しはじめた。
Total Audience Measurement Index(統合視聴者測定インデックス)
< http://www.jiten.com/dicmi/docs/t/29051s.htm
>

2008年北京オリンピックで、この測定によるとテレビだけよりも2割も視聴者が増えていることがわかる。

画像で見るとさらにインパクトがある。
< http://techon.nikkeibp.co.jp/article/NEWS/20090114/164041/
>

つまり、テレビはテレビだけではダメな時代が、すでに米国でははじまっているのだ。もちろん、CATVの中心の米国と、地上波中心の日本のテレビは同じ環境ではない。しかし、テレビ業界の価値を自ら高めるための、ネット活用を真剣に取り組まないと本当にマズいことになってしまうことだけは一緒だと思う。


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< http://www.mxtv.co.jp/it_news/
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