気になるデザイン[32]紙媒体の魅力って?
── 津田淳子 ──

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皆さんの中で、電子ブックリーダーを持っていて、それで結構なタイトル数の書籍を読んでいる方って、どのくらいいらっしゃるんでしょうか。

Kindle Wireless Reading Device (6先週、amazon.comが販売する電子ブックリーダー「Kindle」が日本を含む100カ国ほどで、10月19日から販売開始されるというニュースが流れ、ちょっと話題になっていますね。「Kindle」自体はもう2年ほど前からアメリカでは販売されていて、何度か改良を重ねているようで、説明を読む限り、他社の電子ブックリーダーとはかなり違う特徴を持っているよう。

< http://www.amazon.com/gp/product/B0015T963C?tag=literaryawa06-20&ie=UTF8
>
< http://ja.wikipedia.org/wiki/アマゾン・キンドル
>

うーん、でもどんなに改良されていても、私は未だに電子ブックには馴染めないなぁ。私が紙好き、印刷物好きだから、ということももちろんあると思うが(それが講じて、『デザインのひきだし』という印刷や紙、加工に特化した媒体をつくっているので)、それを割り引いてもやはり、紙媒体だからこそもっている魅力、機能というものがあって、それがふさわしい内容のものもあると思うのだ。



もちろん、そこにどんなことが書かれているかが一番重要なことだと思うが、それを読ませるためにどう本に仕立ててあるか、ということも、その内容を味わうためには重要な一要素だと思っているので。

とはいいつつ、じゃあ、統一フォーマット(文字組みも、使用本文用紙も)である文庫や新書はどうなのかと問われると、これまた頭を悩ます。うーむ、そういうものは電子ブックでもいいのだろうか。同居している義母(76歳)は、本を読むのが大好きなのだが、常々「文字が小さくて読みにくい」と言っている。そういう人は、文字サイズが変えられるような電子ブックがあれば、自分の読みやすい文字サイズにできたら、今の文庫より、もっと本が読みやすくなるのかしら、とか。心は千々に乱れる(ってほどのことでもないか)。

まあ、実際に自分で使ってみないことには、ちゃんとした感想や評価はできないと思うので、何かの機会があれば、一度購入してみようかとも思っているところです。といっても、Kindle用の日本語コンテンツの発売は未定のようなので、購入するのはまだまだ先だと思いますが。読者の方で電子ブックリーダーを使っている方、過去に使われていた方など、そのご意見、ご感想をお聞かせいただければうれしいです。

こんなことを考えていたところ、先週後半、さらに「うーむ」と思うニュースを目にした。それが「コルシカ」というサービスが開始されたというもの。
< http://www.corseka.jp/
>

「全ての雑誌をオンラインへ」と書かれたこの「コルシカ」というサービス、ご存知ない方のために簡単に説明すると、このサービスを行っている会社エニグモが、雑誌をスキャンし、読者(購入者)は、その雑誌と同じ値段を支払うと、Webブラウザ上で動作する専用ビューワーでスキャンした雑誌を閲覧できる、というもの。また、読者は追加で配送料を支払えば、実際の雑誌も手に入れられるそうだ。

このサービスに対し、日本雑誌協会は「出版社に無許諾でスキャンして販売することは違法」として、中止要請が出され、今日現在、日本雑誌協会会員の雑誌は発売が中止になっている。エニグモは、ユーザーに販売する数の雑誌をあらかじめ取次を通じて購入し、その上で雑誌をスキャンし、購入した冊数分だけ販売しているとのことで、出版社の著作権を侵害するものではないと主張しているそうだ。

< http://internet.watch.impress.co.jp/docs/news/20091009_320745.html
>

私は、出版社に許可申請せずにスキャンして販売ということよりも、真っ先に「むむ」と思ったのは、雑誌は紙に印刷され、製本されたものでなくてもいいと考えられているのかしら、ということ。

前述したように、私は紙や印刷に目がない。だからこんなことを思うのかもしれないが、やはり雑誌は「紙」に「印刷」され「製本」されているからこそ、意味があるものだと思っている。

確かにWeb上でチラッと一読すればいい、というものもあるだろう。紙だから、印刷物だから、製本された本や雑誌であるから、といった特性を活かしていない媒体もあるでしょう。

でも、例えば、より内容が伝わるように、デザイナー、編集者、製版/印刷担当者ともに写真の色再現にこだわっている紙媒体はたくさんある。使う本文用紙にこだわって(決して高いものを使うという意味ではなく)、その内容に合った雰囲気を出そうと、用紙選定に悩み、それを入手するのに奔走し、そこに思った通りの印刷再現をしようとしている多くの人たちがいる。そのおかげで、より内容豊かになっている雑誌や書籍は数多くあると思う。また、製本された雑誌の操作性、閲覧性、携帯性なども、私は捨てがたいものだと思っている。

そうやってできた雑誌でも、スキャンして画面上で見る、ということにしてしまっていいのだろうか。紙媒体だからこその魅力が、Web上で見ることで、差し引かれてしまうということはないのだろうか。

こんなことを書いておきながらなんだが、私はこの「コルシカ」というサービスを否定しているわけではない。このエニグモのブログに書かれている「コルシカ」を始めようと思った記述を読んでみても、廃れていく雑誌というのものを少しでも広げようという気持ちからのサービスだろうということは感じるし、Web上で閲覧することで要は足りるという読者が多いのなら(権利関係などのコンセンサスがとれた上で)、こうして雑誌読者が増えるなら、つくる側にとっても歓迎すべきことなのだろう。

ただ、このサービスが広く世の中に受け入れられるならば、紙媒体をつくる者の一端として、大きく反省しなくてはならないとも思う。だって、受け入れられるということは、紙媒体でなくても構わないと思われるものしかつくれていない、ということでもあるわけだから。

というわけで、先週は、紙/印刷/書籍/雑誌など、私が好きなものについて、いろいろ考えさせられる一週間でした。私の頭は固いなぁ、とか、懐古主義なのかしらなどとも考えたり、まだ自分の中で考えがまとまっていない部分も多々ある。

でも、私はこれからも本をつくっていきたいなと思っているので、今後よりいっそう、「紙に印刷し製本した『本』」である必要があるもの、そしてその機能を活かした本づくりというものを、自分自身でも考えていかなくちゃいけないな、と、そんなことを考えさせられたいい機会でした。

【つだ・じゅんこ】tsuda@graphicsha.co.jp

今さらながらblogを始めました。
デザインのひきだし・制作日記 < http://dhikidashi.exblog.jp/
>

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