気になるデザイン[40]紙じゃない紙幣もおもしろい!
── 津田淳子 ──

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「紙」というと、本をつくっている仕事柄、ついつい本文用紙とかファンシーペーパーとかを思い浮かべがちですが、実はそれよりも遥かに大量の紙が生活の中で使われていますよね。以前書いたティッシュペーパーもしかり、今手元にあるスターバックスのコーヒーカップもそうだし、そこに巻かれているダンボール(片側だけうねうねしたシングルダンボール)のスリーブも。

それ以外にも、例えば机。「机は紙でできてないでしょう」と思われるかもしれませんが、合板などのコストパフォーマンスのいい机は、木目を紙に印刷してそれを樹脂などで板に貼り合わせていたり。また溶接するときに目や顔を保護するマスク。これも熱にも強い、すごい分厚い紙が使われているものもあります。

そして、(たぶん)みんな大好きで身近にある紙といえば「お札」ですよね。『デザインのひきだし9』では、そのお札100枚毎に束ねる「札帯」用紙をご紹介しましたが(非常に強度がある和紙風の紙で、一般人である我々も平判で購入可能!)、お札自体を調べてみるといろいろ面白いことにつきあたります。



日本のお札は現在4種類。どれも楮(こうぞ)や三椏(みつまた)、マニラ麻などを原料にしてつくられた和紙で、そこに「黒すかし」が透き込まれている。黒すかしとは、一般的に透かしとは逆に、透かし部分を厚くすく、つまり光にかざしてみたときにそこが黒く(濃く)見える透かしのことで、「すき入紙製造取締法」という法律によって、政府の許可なく、すきこんだ紙をつくってはいけない、ということになっている、特殊な透かしなのだ。

なるほどねぇ、と思って、ちょっと世界のお札を眺めてみると(私、印刷/紙好きが高じて、世界の紙幣を集めているもので・笑)、実は「紙」でできていない紙幣というのが、かなりの国で発行されている。

例えば、オーストラリアやシンガポール、クエート、パプア・ニューギニア、ニュージーランド、ベトナム、ルーマニア、台湾のニュー台湾ドル、中国のミレニアム記念100人民元などのお札が手元にある方はぜひ見てみてほしい。これらの紙幣、紙じゃないものでできている。

では何でできているのかというと、「ポリマー」という合成樹脂でできてます。20年くらい前にオーストラリアで開発されて、今ではかなりの国で使われている。基本的には透明のポリマーに白を刷っているので不透明ですが(その上に各種印刷がなされている)、特殊ホログラムが施されたポリマー部分は白が刷られてないので、向こう側が透けて見えてホログラムになっている。

この「ポリマー紙幣」(別名プラスチック紙幣)、紙のお札に比べて偽造されにくく、耐用年数も長いので、採用国が増えているそう。一枚あたりの製造コストは、紙にくらべて高いものの、耐用年数が長いので、結果的には安くなるっていうこともその理由のひとつだ。

これは正式に理由としていわれているものではないが、海外ではお札をそのままポケットに入れてしまう人が多いが、ポリマー紙幣の採用が早かった国は、亜熱帯、熱帯地域が多く、そこでは特に、紙のお札は人の汗などを吸ってやわらかくなっていて、それをポケットにグシャッと入れると、破れたり壊れたりしやすくなるから、ポリマー紙幣への切り替えが早かった、という説もあるみたい。確かに、日本人はお札をお財布に入れてることが多いものなぁ。

と、紙からなぜか紙じゃない紙幣に話がとんでしまいましたが、紙や印刷、加工を調べていくと、どんどん知らないことを知ることができて、ホントおもしろい!

【つだ・じゅんこ】tsuda@graphicsha.co.jp
平日毎日、更新中! デザインのひきだし・制作日記
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