新連載 Webディレクター養成ギブス[01]【危機感編】このままだと絶滅危惧種だ!
── 蓮井慎也 ──

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私は、"雑用係"化し"板ばさみ"状態に悩むWEBディレクターを、たくさん見てきました。

求める品質や予定時刻にデザインが上がらず、WEBディレクター自らがデザインしてしまったり、クライアントの無理難題をお断りできずに承諾してしまい、WEBデザイナーに白い目で見られてしまったり......。抱えきれないほどの案件を上司から「やってね♪」と丸投げされて、なにも決まっていない状態から制作着手するWEBディレクターも......。

こんな状態となっていることの要因は、一部はWEBディレクターのスキル不足ですが、一部はWEBディレクターの仕事とは別の分野にあるように思えます。いわゆるスキル不足解消では片付かない問題までもが、スキル不足として片づけられてしまっていることが深刻なのです。



WEB制作フローが順調に流れている場合、WEBディレクター不在でもまったく問題ありません。しかしながら、制作現場ではトラブルや問題の発生はつきものです。WEBディレクターが不在、もしくは機能できていない現場で、一旦トラブル状態に陥ると、まるでひとつのボールを追いかける小学生の全員サッカーのように、こっちでトラブルが起こるとWEB制作者がワーッと問題処理に動き、次はあっちでもトラブルが発生して一斉にワーッと動いていきます。

WEBディレクターがいれば、幼稚な小学生の全員サッカーにならないのかと言えば、決してそうではなく、普段から一度に大量の案件を抱えていて首の回らない状態のWEBディレクターや、満足な教育を受けられずに経験が浅いまま現場に駆り出された未熟なWEBディレクターがほとんどと考えられ、結局、プロジェクトの中心にいるべきWEBディレクターが、最終防衛ラインで尻拭き仕事をやっていることが多いと思います。

どんなに優秀なWEBディレクターでも、一度に捌ける案件ボリュームには限りがあります。WEBディレクターのスキル不足や、自業自得の部分があるとはいえ、リソース配分を考えず、売上至上主義的にポンポン案件を丸投げする営業側の考え方や、労務管理面を無視したマネジメント側にも問題はあると思われます。よくないのは、そのWEBディレクターが最終防衛ラインとして機能せざるを得ない状態を不健全とも思わず、関係者全員が見て見ぬふりをしていることにあるでしょう。

こうしてWEBディレクターは、いつまで経っても本来あるべきポジションで持てる力を発揮することができず、成長機会もないままに、嫌気がさしてWEB屋としての看板を下ろしたり、最悪は鬱になって業界を去っていきます。そして、知識や経験が業界内に蓄積されないまま、新しく生まれたWEBデザイナーの浅い知識とスキルでしか成り立たない業界になっていくことが続けば、業界は底上げどころか、将来的には業界全体の地盤沈下が予想されます。

結果、WEBディレクターを取り巻く惨状を見たWEB制作者が、次のキャリアアップ先としてWEBディレクターになりたい! と思う人が、数年前に比べて少なくなっていると感じています。

もし、WEBデザイナーが次のキャリアとしてWEBディレクターを選ばず、WEBデザイナーであり続けるとしたら、新しい感性を持つ若手デザイナーの台頭に怯えることになるでしょうし、企業としても新芽を迎えづらく、組織としての新陳代謝が進みません。近い将来起こり得る様々な弊害に、制作者も、経営者も、WEBディレクター自身もが、一日も早く気づくべきです。

今日のWEBディレクターの惨状を、いわゆる"ふるい"にかかっている状態と捉えるならば、考えようによっては、それを乗り越えられる人材こそが優秀なWEBディレクターと言えるのかもしれません。

しかし、"雑用係"化と"板ばさみ"の常態化に耐えられるだけの人材は、そんなにはいないでしょう。毎年、各種学校を卒業して夥しい数のWEBデザイナーが生まれ、"ふるい"にかけられ、何十人かに一人がWEBディレクターになったとしても、次の"ふるい"がこの惨状では......。競争に勝ち抜ける優秀なポテンシャルを秘めながら、失望と共に業界を去られてもおかしくありません。

このままいくとWEBディレクターという職種は希少な存在となり、天然記念物になるかもしれません。あるいは絶滅種になるかもしれません。絶滅種になる前に、WEBディレクターのスキル不足の解消(自己研鑽)と、業界/企業として手の打てる部分(マネジメント)の両面から、WEBディレクターの意義というものを再定義していく必要があると思います。

「WEBディレクターになりたい!」
「あの人みたいなWEBディレクションをやりたい!」

明日のWEB業界興隆のためにも、WEBディレクターはそんな風に思われてほしいものです。
(【自己研鑽編】に続く)

【蓮井慎也 / Shinya Hasui】WEBディレクター
地元WEB制作プロダクションに所属。大手通販企業に常駐しWEB制作をしています。
オンライン名刺 < http://card.ly/hasui/
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