Webディレクター養成ギブス[03]【教育編】企業側のマネジメントスキル不足解消なくして優秀なWEBディレクターは生まれない
── 蓮井慎也 ──

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今回は、第1回【危機感編】でも書いた、WEBディレクターのスキル不足解消では片付かない問題までもが、スキル不足として片づけられてしまっている深刻な部分に触れてまいりたいと思います。

日本のWEB制作プロダクションは、およそ20〜30名を目安に、それを超えるくらいの規模になると「大きい」と言われると思います。少数精鋭の小規模組織は風通しもよく、WEBディレクターが何をやっていて、何について困っているかは誰が見ても明らかです。

ところが、従業員数が増えるにつれ、だんだんと見えなくなる部分が当然出てまいります。しかも、少人数組織だったころには起きなかった問題が、20名や30名を超えると出ててくるため、どこのWEB制作プロダクションの経営者からも「5〜10名くらいでやっていたときはよかった...」と口にしているのをよく聞きます。

10名のやり方が20名のやり方に、20名のやり方が30名のやり方にマッチしないのは当然です。それでも、どうして10名の頃と同じやり方でやろうとするのか?それは、過去の成功体験がそうさせてしまっているのではないかと思います。

創業時は少数精鋭の組織で、いつ、誰が、どこで、何を、なぜ、どのように...の5W1Hは常に明確で、トラブル時の対応や問題解決のシーンでも臨機応変かつ柔軟に迅速・的確な処理できたと思います。ところが、人数が増えるにしたがって明確だったものが不明確になってきて、結果その不明確さが現場の混乱を招いていると推測します。

組織の拡大は、売上の増加、そして企業としての安定につながり、実績とノウハウの蓄積によって業界をリードできます。しかしながら、次に進むべきWEB業界の企業内の運用の中身が伴っていないとしたら? 未だ5名〜10名程度の一番儲かっていた時代のやり方をそのままに、拡大した組織に適用しようとしていたら?

それは経営・マネジメント側もそこで制作業務をやめ、営業活動に専念していくにつれ、運用部分が過去のやり方に縛られてしまっていることに気づきにくいのだと思いますが、裏を返せば20〜30名以上に組織を大きくできない理由に置き換えることもできます。

これは、ある程度の規模以上の企業のサラリーマンで、かつマネジメントを経験してきた、経営・マネジメント層には当てはまらない問題だと思います。そうした組織でマネジメントに関わった方たちであるならば、私の指摘する問題には組織の拡大に伴い手を打ってきたと思われ、だからこそ50名、100名を超える組織運営ができていたり、優秀な人材を輩出している企業も数多く存在するからです。

ただ、ある程度の規模以上の企業でに在籍していたとしてもマネジメントのやり方を知らない、学んでいない、ある程度の規模以上の企業でに在籍した経験もない方がWEB制作プロダクションで経営・マネジメントをされている場合があり、少なくとも以下に挙げる問題点が現状にある以上、一部の経営・マネジメント層が組織の拡大に伴い、次の手を打てていないことは明らかです。

もはや、WEBディレクター自身のスキル不足で片づけられる問題ではありません。



■ケース1:バラバラな社内発注ルート

《問題点》
WEBディレクターは、WEBデザイナーにA社案件のデザインを依頼し、そのデザインをしていると思っていたら、社長の差込指示でB社案件をデザインさせられていることが分かった。

《解決方法》
社内(外)への発注元が不明確な場合の改善方法です。発注ルートを明確にしてください。

経営・マネジメント側が、この問題への言い訳をするとすれば、それは社員間のコミュニケーション不足を真っ先に挙げるでしょう。しかし、自分の知らないところでなされた決定事項に右往左往させられることを、誰もが好むはずありません。社員間のコミュニケーション不足というよりも、経営・マネジメント側の言ったつもりの情報伝達不足です。

またWEBディレクターも、自分以外の誰がどのWEBデザイナーに依頼しているのかが分からない場合、WEB制作スタッフひとりひとりに聞いて回るのはタイムロスに繋がります。WEBディレクターを含めたWEB制作スタッフ全員でミーティングを実施してもいいのですが、外部発注先のミーティング参加は難しく、場所と時間の共有を考えれば、WEBディレクター同士でのミーティングに留めておいた方が、スピーディかつフレキシブルに思われます。

経営・マネジメント側や営業側にとって、必ずWEBディレクターを通すと決めるなど、社内(外)への発注ルートを明確にすることは、WEBディレクターにとっても、WEB制作スタッフにとっても分かりやすく、5W1Hを明確にすることに繋がります。WEBディレクターの下、WEB制作スタッフは、トラブル時の対応や問題解決のシーンでも臨機応変かつ柔軟に迅速、的確に処理していくことができるでしょう。

緊急トラブル時に、WEBディレクターが席外しなど不在だったらどうしたらいいんだ? という声が聞こえてきそうですが、誰から発注を受けるか? が明確になっているため、臨機応変にトラブル対応は可能であり、WEB制作者はWEBディレクターに事後に報告を上げるスキームも作っておけば安心です。

■ケース2:WEBディレクター自身がボトルネック

《問題点》
WEBディレクターには「君も制作・プログラミングができるから」という理由で、役員からWEBデザインを依頼されている。しかし、別のWEBディレクション案件もあり、早くWEB制作者に依頼してしまわないといけないのに、自分の制作業務のために、完全に自分自身がボトルネック化している。

《解決方法》
WEBディレクターにWEB制作業務をさせないでください。

創業時は1人2役、3役をこなすことは当たり前でしたが、経営側・マネジメント側は、創業時にやっていた業務内容を、現在の規模に合わせた適正なやり方に改善するときがきていると思います。

WEBディレクターの業務は、ドキュメント類をまとめたり、素材を手配したり、案件が途中でストップしないように安定稼働させることです。WEBディレクション業務に加え、WEB制作業務を兼務しさせてしまうと、自身のWEB制作にかかりっきりになるときがあり、問題点同様ボトルネックを起こしてしまいます。

WEB制作業務を禁止していたとしても、WEBディレクターの段取りの悪さから陰でこっそりWEB制作業務をするなど、ひとり相撲をとっているケースも考えられます。なぜかそのまま被害妄想に陥る危険性も予測できますので、ボトルネック化解消を目指し、思い切ってWEBディレクターのパソコンからWEB制作アプリケーションをすべて、アンインストールしてしまうのが手っ取り早いと思います。

素材確認等でWEB制作アプリケーションは必要になるでしょうが、それは共有パソコンなどを用意しておけば充分事足りるでしょう。数名に1台分のWEB制作アプリケーション購入で済みますので、経費も圧縮することができます。

そうするうちにWEBディレクターは、自分のディレクション(段取り)の悪さを、自らのWEB制作スキルで隠すことができなくなります。一見、WEBディレクターの個人的問題とも思えますが、問題は制作フロー全体のボトルネック化と捉え、制作プリケーションのアンインストールを率先垂範してください。

最終的にWEBディレクターが最終防衛ラインに立たせないことは、結果として経営者自身が、クレーム処理やトラブル対応の矢面に立つ必要のない状態へと健全化していくことと思います。


以上のような経営・マネジメント側の問題は他にも山積しており、要改善箇所はこれ以外にたくさんあります。今回、私がこのテーマを書いたのには、経営・マネジメント側になんとか手を打っていただきたいとは思うと同時に、WEBディレクターにも、現在の惨状を問題視し、解決に果敢に立ち向かって欲しい、という2つの側面があります。

WEBディレクターは、WEB制作スタッフはもとより、クライアント、クライアントの先のユーザと、様々な利害関係者に気を配れなければ務まりません。どちらに偏ってもいけませんし、本当の意味でのバランス感覚が求められる職種であると思っています。そうしたバランス感覚が求められるこそ、社内外の問題に敏感に気づくことができ、あるべき方向に導いていける存在なのです。つまり、自社の課題くらい、その気になればいくらでも見つかると思います。

もしも創業当時と変わらないような、全員サッカー状態になるような制作フローを採っているWEB制作プロダクションがあるなら、今一度、WEBディレクターを再定義し、現状の組織規模に照らし合わせて、WEBディレクターと一緒に社内体制を見直しや業務内容の因数分解をしてみてもいいのかもしれません。

WEBディレクターのスキル不足解消では片付かない問題までを、スキル不足として片づけるのではなく、経営・マネジメントスキル不足の可能性を少しは疑ってみるくらいが、ちょうどいいのです。もしくは「一番よかった...」時代の5名〜10名の規模に戻したほうが、不幸なWEBディレクターを生まずに済むと思います。

WEBディレクターのスキル不足解消なくして、企業・業界なし。同様に、企業側のマネジメントスキル不足解消なくして、優秀なWEBディレクターは生まれません。

【蓮井慎也 / Shinya Hasui】WEBディレクター
地元WEB制作プロダクションに所属。大手通販企業に常駐し、WEB制作をしています。
オンライン名刺 < http://card.ly/hasui/
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