気になるデザイン[47]紙の本を冒涜するな!
── 津田淳子 ──

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8月も下旬に入ってるというのに、なんなんだ、この暑さは。朝起きてもさわやかさは皆無。おまけに仕事も捗ってないし(これは自分の責任だけど)、どうもスカッとしない毎日です。

出版業界にいる私の周りでは、昨今、電子書籍の話題が非常に多い。その多くは電子書籍に対して、自分はどう関わっていけばいいのか、紙媒体だけつくってるんじゃダメなんだろうか、とか、とりあえず話題になっていて、今回こそ本当に電子化の波が来そうな感じだし、何もしないとまずいのかも、という焦燥感に駆られた意見が多いようだ。

私自身の意見はというと、特に目新しい考えもないけど、まず定期的に出している『デザインのひきだし』は、どう考えても電子書籍化は無理。だって紙や印刷加工の魅力を中心として、その実物をできるだけ綴じ込んでいる本なので......。まあ、これは誰しもわかっていただけることかな、と。

それ以外の本については、電子書籍でつくったほうが、紙の本より便利だったり、使い易かったり、魅力をより堪能できるものであれば、電子書籍としてつくってみたいなぁと思っている。今は2種類ほどつくってみたいと思っているものがあるんですが、ひとつは本というよりなんかアプリケーションとかデータベースとかそっちの方が近いようなもの。もうひとつは、説明するときに静止画と文章、それに併せてところどころ動画もあった方が、よりわかりやすいだろうなぁ、と思うもの。



ただ、現時点では、ちゃんと利益を出せるのかということが見えないので、まずは会社に「テスト的に出させてほしい」と頼んでいるところ。でも、最初に「儲からない」ということになってしまうと、会社としても、その後の展開がしづらくなってくると思うので、つくるなら著者にも会社にもちゃんと収益があがるように考えたいなぁ、と漠然と思っています。

まあそんな感じで電子書籍に対して考えており、自分でも試しにiPadで小説を読んでみているような状況なのですが、電子書籍の話題をネットやtwitterで読んでいて、ちょっとそれはどうなのかなぁ、と思うことがけっこうある。それは電子書籍化に、より積極的な人の意見に見えることなのですが、紙の本について非常に軽々しいことを書かれている。私からすると「紙の本を冒涜するな!」と言いたくなる意見だ。

それは例えば、紙の本は、スキャンして電子化しやすいように、最初からペラで出せばいいとか、紙で読みたければ、ルーズリーフのように穴をあけておいて、それをバインダーに綴じればいいとか。あとは、紙で読みたければ、プリンタ出力すればいいではないか、とか。それって、本気で言っているのだろうか。うーん、紙の本を馬鹿にしているとしか思えない。それじゃあ、堪能できない本はたくさんあるのだ。

紙の本は、手にとってもらえるように、読みやすいように、読んだときよりよく内容が堪能できるように、たくさんの工夫がこらされている(そうじゃないのも、もちろんあるけど)。紙に印刷されてれば何でもいい、綴じてあればどんなものでもいい、というわけではないのだ。

前述したように、私は電子書籍に反対というわけではないが、紙や印刷物の力をより強く感じて、日々仕事をしているので、そんな意見を見ると非常に腹が立つ。紙の本で出すのなら、そのいいところを活かして、「紙の本であるからこそ」のものを作っていくべきだし、電子書籍なら、ただ紙をスキャンしたデータの集積ではなく、電子書籍ならではのメリットを生かした本(っていうのかな?)づくりをすべきでは、と思うだけ。紙の本と電子書籍は、考え方もつくりかたもアプローチも、全然違うと思うのだ。

頭が固いとか、考え方が古いとか思われるかもしれないけど、紙の本ならではの良さはある。それは現状、オンデマンド印刷でつくった本や、プリントアウトしたものを束ねただけでは、到底かなわない。本を読んでいるとき、その本の装丁や判型、重さ、におい、色、書体、本文組版などを、読者は特に意識していないと思うが(というか、そんなこと意識させてはいけないと思うし)、無意識にそれらの情報は「本を読む」という行為に付加されていて、それも含めて「読書」ということだと思っている。

私はやっぱり「紙の本」が好きなんだなということを、最近より感じている。この暑い中、なんだかより暑苦しくなるような話になってしまいましたが、私の本への愛ということで、ご勘弁を。さあ、その本愛がてんこ盛りな『デザインのひきだし11』、これから追い込み開始です!

【つだ・じゅんこ】tsuda@graphicsha.co.jp

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