ところのほんとのところ[47]個展【上海1秒】無事(!?)オープン
── 所幸則 Tokoro Yukinori ──

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今年は半分近く海外で過ごしていたような気がするけれど、よく調べてみると3割前後、そんなものだった。外国にいることによるストレスで長く感じていたのか、いつもの渋谷にいるときよりモントリオールやNYや上海の方が印象が強いとか、リラックスできないからというのもあるんだろうか。やっぱり日本が一番であるとしみじみ思う。

とかいいながらも、11月4日から上海に行き、個展の会場であるepSITE Epson Imaging Gallery(中国上海莫干山路50号7号楼106室)の設営を見届けなければならない。

今回の個展は、去年写真雑誌の編集長の石田さんに上海に連れて来てもらって、撮影してみたところから話が始まった。上海のepSITEはあまりメーカーのギャラリーという印象も薄いし、M50(莫干山路50号)というアート村のような所にあるので、アート好きが集まるという話を北京のエプソンの川島さんから聞いていた。行ってみたらとてもいい場所だったので、当時の上海epSITEの館長の王さんに作品を見せたところ即個展が決まった。

随分たくさんの人の力を借りて決まったこの個展。さあ作品も揃ったしいよいよやるぞ、というところであの尖閣の漁船衝突があって、日中間の政治的問題や中国の国内情勢も急展開。できれば個展を止める方向に、という力が動いたこともあったのは事実。

個人なんてちっぽけなものだなーと痛切に感じた。それでもなんとかいろいろな難題を乗り越えて、個展開催にこぎつけたようなので、[ところ]は4日に上海の虹橋空港に到着。税関とか検査とか、この時期は日本人にたいして凄く厳しいのかなーと少なからず危惧していた。今回、渋谷のオリジナルプリントを13枚ほど持ち込んでいたので、スーツケースを開けていろいろ言われたらどうしよう、などと不安だった。



友人へのプレゼントとか、言い訳しようかなとか思ってたけど、事細かに調べられれば、個展やることも作品の値段もわかるだろう。関税33%取られた人の話も聞いたことあるし、小心者の[ところ]としてはビビるビビる。税関の出口に大きなX線の調査マシンが用意してあるし、あーやだなあとか思っていたら、そのまま外に出てよいとの指示。でかい荷物を大量に持ってる人とか、怪しそうな人だけ再度調べられるようで、ほっとした[ところ]でした。

さて、DMもできてないという話なので、ホテルに着いてすぐにoffice339の鳥本くんとギャラリーに向かう。個展の2日前の時点で、ポストカードもリーフレットもできていないというのは日本では考えられない。たぶん、ギリギリまで中止の可能性を考えていて遅らせたのだろう。開催中の展覧会会場には、次回の展示のDMが置いてあるのが普通だ。ミュージシャンまで日本から連れて来て、オープニングパーティをやるのに、これでは人が来ないじゃないか。かなり焦ったが、まあこれで挫けてたら個展なんかできない。

この日は会場で作品の設置スペースなどを決めるために行ったのだが、すでに出来ているはずの額縁がまだなかった(!)。しかも、会場の壁を塗りなおしている真っ最中だった(!)。結局、日本から持ってきたオリジナルプリントにサインをして、額装する業者に渡すだけで帰ることにした。

2日目の11月5日、13時にギャラリーに向かう。明日は13時に来てくれとギャラリー側の責任者に言われたからだが、行ってみると関係者は誰もいない。額縁はすべて揃っていて、それだけは安心した。しかし、中国語しかわからないギャラリーの関係者でもない人達と、黙々と液晶プロジェクターのセッティングをしている専門の業者がいるだけ。13時40分ぐらいに、やっとギャラリーのスタッフがコンビニ袋とか抱えて4人ほど入ってくるが、[ところ]のことは知らない顔して、自分たちだけスタッフルームに入っていく。ちょっと不思議。

14時前には鳥本くんも来て、額縁の並べ方を決め始めることにした。だが、液晶プロジェクターの関係者の道具が散らかっていて、そっちのエリアには置くことができない。もうセッティングはほぼ終わっているようなので、14時半ぐらいになって、どかしてくれないかとギャラリーの責任者にお願いしてみる(この人だけ日本語が少し喋れる)。

しかし、20分ぐらいたっても進展がないので、すぐにどかすように言ってくれと催促すると、しばらく待ってくださいと言う。「私は13時から待っている。もう15時になる。あなたが13時に来てくれと言ったのですよ。あなたは13時にはいなかった。14時まで顔も見せなかった。私はもう充分待った。今すぐ行動してください」これぐらい主張して初めて相手は動く。国民性の違いだろう。

[ところ]が順番や配置を決め終わった額縁を、13時に来ていて何者かわからなかった人達が、光の出る水準器で壁に線を照射して額縁を設置し始めた。凄く手際がいい。始まるとものの30分足らずで43枚の額縁が壁にかかった。いい仕事だ。彼らもこれで帰れるし、よかったよかった。

途中で「私は空間デザインの勉強をしていますが、この一列に並んでいるパートを4枚セットのブロックにした方が面白いと思うのでやっていいか」と、いままでろくに寄ってこなかった女性が主張してくる。そのパートは[ところ]にとってとくに大事な「渋谷1second」の作品だった。

「この一連のシリーズは、始まりから終りまですべて考え抜かれた順に並んでいる。なにも変えることは許しません」と毅然として答えた。これで終わりだ。大陸の人達は、ただの素人レベルの思いつきでも堂々と主張してくる。対する我々も、しっかり意見を言わないと無茶苦茶にされる場合もあるから気を付けないと。

次の日がオープニングだった。前夜に無事到着した、友人のMystic Floor(近江賢介、深見真帆)によるDJイベントも好評だったようだし、作品を見たお客さんが何人も値段を聞いたり、質問をしてきたりと、忙しい初日になった。[ところ]も鳥本君もホッと一安心。結果としては会場も素晴らしいし、大判のプリントアウトも素晴らしい品質のものを飾れた。いろいろあったが、中国のギャラリースタッフにも大感謝の[ところ]である。

鳥本君について、少しばかり説明をしておきます。上海にギャラリーも持つOffice339は、現代アート中心のアートマネージメントをしている会社で、そこの代表が鳥本君です。[ところ]のアジアでのマネージメントもしてもらうことになりました。今回、個展のDMが一枚も送られていなくても、彼が顧客にメールでオープニングの招待状を送っていたので、なんとかお客さんも来たというわけです。彼がいなかったら、マスコミをはじめ誰にも知られることなく寂しいオープニングになったと思う[ところ]です。

打ち上げでは最高に素敵な夜景スポットに連れて行ってもらいました。
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【ところ・ゆきのり】写真家
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