デジアナ逆十字固め...[113]「宙玉」小ブレイクの一年
── 上原ゼンジ ──

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今年私が一番つぶやいた言葉は「宙」だそうだ。そうか、Twitterでも「宙玉、宙玉」とつぶやいていたんだな。「そらたま」という言葉を思いついてまだ一年経ってないんだけど、自分にとってはかなり大きな展開のあった年だった。

デジクリで私の文章を読んでくれてる方はご存知のことと思うが、私がいろんな写真の実験をやることになったのは、このデジクリのせいだ。「せいだ」っていうことはないな、「おかげだ」に訂正。カラーマネージメントネタの後、いろんな写真に関するアイディアを実行してみるという企画を考えて、書かせてもらうようになった。

ただ、問題は連載のスパンが1週間だったということ。1週間なんてすぐに経ってしまうので、次から次へとネタを出していくうちに、なんかそれが専門のようになっていった。ある編集者が「実験写真家」という肩書きを考えてくれたので、最近はずっとそれで通している。

私はもともといろんなことをやっているから、「何をやっているのか?」と面と向かって問われると言葉に窮することがある。しかし「実験写真家」と言っておかば、相手は不審に思いつつもスルーしてくれるのだ。これは便利な肩書きだ。以前の私は、分からなかればそれでいい! というような態度だったが、最近は少しサービスをするようにしている。

名刺も分かりやすいものにした。片面を10個に分割して、宙玉レンズや蛇腹レンズなどの写真を入れて、「こんな写真を撮ってるんですよ」という説明ができるようにした。これはすごく便利。どんな写真を撮っているのかと問われても、写真なしで説明するのはなかなか難しいけど、小さいながらも写真があれば、簡単に分かって貰える。これがあればiPadもいらない。



それから、パーティーなんかでは、宙玉レンズの現物を持っていくようにした。カメラを首から下げておけば、「さっきから気になってたんですけど」などと言って相手から声をかけて貰える。初対面の人にこちらから声をかけていくなんていうことは、ほぼしないタイプの人間なのでこれはありがたい。スイッチさえ入れてくれれば、動作はするんだよ。

プロフィールもニッコリ笑った写真をホームページに出すようにした。営業が出来ない人間なので、せめてホームページを訪れた人に「悪いヤツじゃないんだよ」ということをアピールするための作戦だ。自分が依頼する立場だったら、訳の分からない、おっかなそうな人に連絡取るのはためらうもんな。

●ワークショップがきっかけとなった

宙玉レンズが形になっていったのは、ワークショップがきっかけになっている。自分では面白いと思って、ほかの人達にも広めたかったのだが、工作をするという部分でハードルがあるらしく、著作や雑誌でも紹介をしたが、反応はいまいちだった。

そこでワークショップなどの機会に、参加者に体験して貰うようにした。最初は、hanaさんとデイズフォト通信が主催する撮影会「目で歩く」で使って貰った。この時はリコーのGX200を借りてきて、GXに合うように自分で手作りした宙玉レンズを持っていった。

参加者の反応は良かったんだけど、問題は特定の機種でしか使えないということ。たまたま直径50mmの紙管がGXのアダプターにぴったりあったこと。GXの最短撮影距離は約1センチと短く、クローズアップ撮影が必要な宙玉レンズには最適だったので、GX200を使ったわけだが、やっぱりいろんな機種で使えるようにしたい。そこで考えついたのが、チップスターの空き箱を使った工作だ。

チップスターの空き箱なら、安く簡単に入手することができる。そこで今度はチップスターにぴったり合うような宙玉レンズを加工業者に依頼して作って貰うことにした。自分で作るとあまりきれいに出来ないし、面倒だからだ。4月から始めたワークショップ用にとりあえず10個発注してみた。

そして、今度は一眼レフカメラを対象に宙玉を装着できるようにした。ワークショップをやってみて良かったと思ったのは、いろんなカメラやレンズを持っている人が集まったということ。やってみると問題点が出てくるのだが、それをクリアしていけば、さらに広がりが出てくる。つまりいろんなカメラに対応できるようになっていったのだ。

●宙玉レンズでの撮影法

撮影に関しても、いろんな人からヒントを貰っている。私が宙玉を始めた頃は、望遠系のマクロを使っていた。さらに手持ちで接写をすることが多かったので、絞りは浅くピントが合うのは一点であとはボケボケだった。透明球の輪郭もはっきりしていなかったけど、それが当たり前と思っていた。

しかし、いろんな人が撮影を始めると、球の輪郭をハッキリさせたいという人が出てきた。あんまり絞りこむと、球の接着面やフィルター部分の汚れなども写ってしまうので、美しくなくなってしまうのだが、球が浮かんでいる感じ、というのはボケている場合よりも面白い。

一方、絞り込むと宙玉の持ち味である周囲のボケがくっきりしてきてしまい、つまらない。そこで、ある程度球の輪郭をはっきりさせつつ、周囲のボケを損なわない、という絞り値を見つけるというのが、ポイントになってくる。

あるいは、球の内側の絵柄は面白いんだけど、外側が無地だったりするとつまらないので、球の内と外とで、絵柄や配色などのバランスを考えてみると面白い。最初はただ、宙に浮かんだような絵に喜んでいたけど、突き詰めていけば、まだまだ面白そうなことはできそうだ。

●宙玉写真のコミュニティー

宙玉写真のコミュニティーを作ってみた。flickrとフォト蔵だ。まだ人が集まっていないので、ぜひ参加して写真をアップしてみて欲しい。flickrの方は海外の人達ばかりだから、やりとりがちょっと面倒だけど、世界中の人たちに宙玉レンズを広めるというのが現在の野望だ。

flickr Soratama
< http://www.flickr.com/groups/soratama/
>

フォト蔵 宙玉人[そらたまんちゅ]
< http://photozou.jp/community/show/2896
>

【うえはらぜんじ】zenji@maminka.com
< http://www.zenji.info/
>
< http://twitter.com/Zenji_Uehara
>
Soratama─宙玉レンズの専門サイト
< http://www.soratama.org/
>