境界線の歩き方[01]動画投稿サイト「○○を踊ってみた」の系譜
── 出渕亮一朗 ──

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今回から、「境界線の歩き方」というテーマタイトルでデジクリに書かせていただきます。境界とは、サブカルチャー、現実と妄想、科学とトンデモ、クロスオーバージャンル、未来予測...なんかです。

今回のサブお題目は「縁起」です。

縁起とは仏教思想から来ており、すべてのことは何か原因があって起こり、それがまた次に影響していくということで、まあ明らかに宇宙の真理のひとつである。「縁起が悪い」とは、何か悪い兆候があると、よくない事がおこるのではないかと考えるということだ。

そういう訳でここに至るには、またいろんな事があったのだが、とにかく私はその時、YouTubeでAKB48の曲、Begginerのダンスカバーを見ていたところから始める。

そこにあった画像レスポンスを何気なく見てみた。それは、ケルシー(KimonoTime)というイギリスの18才の女の子のダンスカバー映像だった。それはなにやらパワーがあり衝撃的だった。彼女の他のダンス映像も見ていったのだが、どれも、「ルカルカ★ナイトフィーバー」など、日本語の曲を踊っていることや、ダンスの元気さや彼女のキャラの明るさ、自宅の一室で撮影した映像の編集がとても魅力的だった。また、どれも最後に日本式の深い一礼をしているので、どうやらこのスタイルの原型がありそうだった。

以下、知っている方にはいまさらの話ばかりだと思うのですが、私の探索を順にたどっていきたいと思います。



調べていくと、日本のみならず、世界中で女の子を中心とした「ルカルカ」等の曲の「○○を踊ってみた」とタイトルの付けられたダンスカバー映像が、数多くアップされているのを見つけた。いずれも、数千から数万の高ヒット数だ。

そのうち、愛川こずえ(xxxayu3)というダンサーに行きついた。当時たぶん高校生だった彼女の、自宅の一室で撮影したダンス映像、「ルカルカ★ナイトフィーバーを踊ってみた」(2009/7/2公開)は、現在(2011/1)YouTubeで250万ヒットを超えており、ここで、このダンスの彼女のオリジナル振り付けを公開していたのだ。その他、「ストロボナイツを踊ってみた」(2009/11/3公開)も彼女の振り付けのようだ。

私の推定であるが、もともと彼女はプロのダンサーではなく、当然、安室奈美恵や倖田來未レベルではなく、また、ダンスのインストラクターのレベルでもない。たぶん趣味で好きなダンスをまねて踊っていたか、もしかしたら、どこかでダンスやガールズヒップホップの基礎をかじっていたかもしれない。

しかし、それがゆえに彼女の元気いっぱいのダンスは覚えれば踊れそうで、私も踊ってみたい! という気持ちを見る人に起こさせるのだろう。踊りを覚えようとすると映像を何度も見ることになる。人によっては数十回、もしかすると百回以上見る人もいるだろう。彼女の映像のヒット数はイコール見た人数ではなく、こういうリピーターのからくりもあると思う。

こうして、世界中で女の子を中心に、「ルカルカ★ナイトフィーバー」や、「メグメグ★ファイヤーエンドレスナイト」、「ストロボナイツ」といったダンスカバーを、それぞれのお国柄の出た自宅や、思い思いの庭や公園で、時にはコスプレをして「踊ってみた」という映像がアップされ続けている。

日本の元気な女の子の始めた遊びが世界中に広まって、世界中の女の子が踊りだしてしまうという何とも楽しいシーンが広がって来ているのである。

ところで、愛川こずえさんのダンススタイルは何に入るのだろう? これも私の考えであるのだが、彼女のオリジナルというよりは、日本のアイドルの振り付けによく使われるスタイルで、パラパラとガールズヒップホップを合わせた感じだと思う。

パラパラは何かというと、これも諸説があると思うが、私は特に腕と手指の形に初めから最後まで振付が入った、手を大切にしたダンスだと思う。この辺は、インド舞踊〜インドネシア舞踊〜琉球舞踊〜日本舞踊と続く伝統が半無意識的に入っているのではなかろうか。この種のダンスを見るとき、一度手の形だけに注目して見ていただければわかると思う。

対してヒップホップは体幹、つまり、頭〜背骨〜腰〜足を結ぶラインを自由に曲げて大きなリズムを刻むことを基本としていて、手は体についてくるものであり、特に意図される所以外は手指の形は重要でなく、そこはダンサーにまかせられるダンスだと思う。

比較的単純なパラパラの振りに、ガールズヒップホップのダイナミックさをミックスすることにより、より見て楽しい踊って楽しいダンスとなり、これも世界で受けている一因だと思う。

なお、愛川こずえさんは、現在、いとくとら(いくら)さんといった動画ダンスサイトでの人気者と共にDANCEROIDというダンスグループを作って活躍中である。

さて、曲の「ルカルカ★ナイトフィーバー」であるが、これは、実谷ななさんによるボーカルカバーということである。さらにその原曲は、VOCALOID、巡音ルカを使った、samfree氏のオリジナル曲である。

VOCALOIDは、ご存知のように、クリプトン・フューチャー・メディア株式会社によるYAMAHAの音声合成技術をベースにした、バーチャル・ボーカリスト作成ソフト、「初音ミク」等を指している。

ニコニコ動画サイト等を通して、このソフトを使った数多くの曲が匿名のクリエーター達により公開されてきている。例えば「メグメグ★ファイヤーエンドレスナイト」もまた、samfree氏による曲である。

さらに、水色の長いツインテールがトレードマークの初音ミクキャラクターを、アニメ風3Dで踊らせる映像を作成することができるフリーソフト、MikuMikuDanceが、樋口優さんにより2008/2/24に公開された。モデル作成は「あにまさ」さん。このソフトは大ヒットし、数多くのそれで作成されたダンス映像がアップされた。

このソフトは、3Dモデルをボーンによりアニメ付けする。足にはインバースキネマティックスも入っている。2D的な表情やリップシンクも付けられる。描画はいわゆるトーンシェーダーで、3Dであるのにアニメのような2Dに見える。ムービーを見ると髪やネクタイに物理シミュレーションが入っているように見えるが、これは作成者の努力のようである。

確かにこのソフトを使えば比較的簡単にアニメーションを作れるようだが、指の関節のひとつひとつにまでキーフレームを入れてダンスのアニメーションを作成をしているのは、アニメーターの努力と執念の賜物といってよい。こうしてできあがった、初音ミクのCGキャラクターによるダンス映像のひとつが、「ルカルカ★ナイトフィーバー」なんかのパラパラ風ダンスだった。

また、「踊ってみた」という動画投稿は、そもそも、YouTubeが始まったころから、人気TVアニメ「涼宮ハルヒの憂鬱」の主題歌「ハレ晴レユカイ」を自室で踊ってみたもの等の映像投稿がなされてきた系譜がある。

このCGキャラクターによる「ルカルカ」のダンス映像を見た愛川こずえさんが、自分のオリジナル振付を作って「踊ってみた」として、画像アップしてみようと思い立ったのだろう。

愛川こずえさんの振り付け映像がアップされた後、またすぐに、MikuMikuDanceで彼女の振り付けをトレースしたCGキャラクターによる映像がアップされている。

なお、ベッキー・クルーエルというイギリスの少女が「踊ってみた」映像で日本で有名になり、ロッテのCM等で起用されていたということもこの探索中に知った。愛川こずえさんの「ルカルカ★ナイトフィーバー」が世界基準となり、ベッキー、ケルシーといった海外の多くの女の子も含めて、そのダンス映像が国内外から今でも動画サイトへのアップが続いているのだ。

こうして、インターネット上で世界中の実際に顔を合わせたことがない数多くのクリエイター達が出会い、次から次へと影響し合って連鎖反応のように、どんどんといろいろなものができてきているのだ。それはまさに縁起の原理そのものといってよい。

さて、次はいったいどんなものが生まれてくるのだろう?

【出渕亮一朗】ryoichiro.debuchi(a)gmail.com
コンピューターグラフィックス、インタラクティブアート分野のアーティストグラフィックス分野のプログラマー
< http://www.debuchi.com
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