気になるデザイン[55]勝手に「今週のベスト装丁」始めます
── 津田淳子 ──

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日本各地で大雪が降ったり、宮崎では新燃岳が噴火したりと、大変な地域も多く心が痛みます。東京は寒いとは言っても、生活に何の支障もないことを考えると、ありがたいなと思っています。被害に遭われている方々の、一日も早い復興をお祈りします。

なんでこんなことを書いたかと言うと、だいたいいつも「寒いですね。嫌になっちゃう」とか「もう一年も12分の1が終わってしまったとは!」とか、嘆いてばかりいる文頭な気がして、あらためて自分の境遇を思ってみると、何て恵まれているんだろう、ということに気がつき、今年は必要以上に嘆かないように、心に決めた次第です。はい。

さて、心に決めた、ということで言うと、デジクリに書かせていただく原稿、今年は自分で勝手にテーマを設けました(デジクリ編集部のみなさま、勝手すぎてすみません)。それが「今週のベスト装丁」について、毎回書かせていただく、ということです。

私は本は内容も造本も、愛してやまず、九段下という立地を活かしきって(笑)、神田の書店街での買い物も大変多い。そこで、一番気になったブックデザインの本を週一冊、ピックアップしようと思います。週一冊ということは、私のデジクリでの連載は2週に一度なので、一度のコラムで2冊ご紹介させていただきます。もちろん、それ以外に気になるデザインがあれば、それも併せて、今まで通り書かせていただきます(できれば、年末には「私的装丁ベスト1」を決めたい気もしています)。



今回の一冊目は、ハヤカワ・ポケット・ミステリ『午前零時のフーガ』(レジナルド ヒル著/松下祥子翻訳/早川書房/1800円+税)装丁は水戸部功さん。
< http://www.hayakawa-online.co.jp/product/books/211843.html
>

これはもちろん、『午前零時のフーガ』自体も、フーガにかかった五線譜に、「Midnight Fugue」が音符のようにレイアウトされたベース、そして消えそうな気配を持ったタイトル文字など、ステキな装丁なのですが、私はこのハヤカワ・ポケット・ミステリシリーズ全体が大変好きなんです。

ハヤカワ・ポケット・ミステリ、通称ポケミスは、勝呂忠さんの装画が印象的なシリーズだったが、勝呂忠さんが昨年3月に亡くなり、昨年8月に発売された『卵をめぐる祖父の戦争』から、水戸部功さんがブックデザインを手掛けるようになった。その際デザインがリニューアルされ、本文の文字サイズが少し大きくなり、ポケミスのロゴも新たにつくられたのだ。

こうした、長年続いているシリーズのブックデザインをリニューアルするということは、大変難しいことだと思います。慣れ親しんだものというのは、どうしても愛着があるし、変化を好まない人もいるでしょうし。

でもこのリニューアルは、そうして長年の読者にも受け入れられる、静かででもステキなデザインだなと思っています。実を言うと、今まであまりポケミスを買っていなかった私ですが、リニューアルしてから、全冊買ってしまっていますし......。

そして、リニューアルしても変わらなかった、特徴的なビニールカバー、そして黄色く塗られた小口塗装(本文用紙がこんなに黄色っぽいのは昔からでしたっけ? 小口と相まって、ミステリ感が高まり、私は非常に好きです)。こうした造本はお金がかかるでしょうし、また小口塗装してあると、小口を磨いて再出荷するということが難しい。そんなハードルがありつつも、この体裁を続けているところもしびれます。

というわけで、今回は『午前零時のフーガ』がポケミス最新刊なので取りあげましたが、このシリーズはどれも大変すばらしいです。読みやすいサイズ、カバンに入れても本が傷まず、小口塗装と本文用紙の黄色さが、ミステリの雰囲気を高めてくれる。ぜひ一度、手に取ってみていただきたいシリーズです。

今回のもう一冊は、『逃げる中高年、欲望のない若者たち』(村上龍著/KKベストセラーズ/1300円+税)。ブックデザインは鈴木成一デザイン室。
< http://www.kk-bestsellers.com/cgi-bin/detail.cgi?isbn=978-4-584-13279-1
>

これは昨年発売された本ですが、私は先日初めて目にしました。ボール紙がそのまま上製本の表紙になり、天地小口が本文、表紙もろともにガツンと断裁されています。そして、カバーはなく、村上龍氏のポートレートが4色刷りされ、グロスPPがかかった幅の広い帯がかかっています。

帯コピーに「村上龍の挑発エッセイ!」とありますが、通常よりかなり厚いボールの表紙が、本文と一緒にガツンと断裁されている無骨な感じが、その内容と合っていていいなぁ、と思いました。

本文用紙はアドニスラフ(ブルー)で、新聞紙のようなグレーで、嵩高で軽い。そこに本文はゴシック体で横組みされています。これ、なんで横組みにしたのか、気になるな。

この本は、村上龍氏の本のブックデザインを多く手掛けている、鈴木成一さんによるものですが、同じく鈴木さんが手掛けられた、一昨年刊行の『すべての男は消耗品である。vol.10』もグレーのカバーに、本文用紙は『逃げる中高年、欲望のない若者たち』と同じアドニスラフ(ブルー)、その前に刊行された『無趣味のすすめ』は、カバーから本文用紙まですべて同じ白い紙(包装紙などによく使われる「アカシア」という紙)と、どれも無骨で無彩色な感じが共通しています。鈴木さんが抱く村上龍氏の著作のイメージが、一貫してそんな感じなんでしょうか? 興味深いです。


コラムはここで終了ですが、ちょっとだけ告知させてください。明日から池袋のサンシャインシティ コンベンションセンターで開かれる、「PAGE2011」。私は、明後日2月3日の15:20〜ちょっとだけお話させていただきます。PAGEにご来場の際には、お立ち寄り頂ければ幸いです(誰もいないと寂しい......)。
< http://www.jagat.or.jp/PAGE/2011/zone/dws.asp
>


【つだ・じゅんこ】tsuda@graphicsha.co.jp  twitter: @tsudajunko

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