気になるデザイン[57]上下巻ともに買いたくなる『翼のある猫』と、ん? と思わず本文を触ってしまった『北斎漫画』
── 津田淳子 ──

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東京は昨日は何と雪もちらつくほど。3月になったけど、まだまだ寒い毎日です。皆さんのお住まいの地域はいかがでしょうか?

私が勤めている出版社は東京の九段下というところにあり、周りには靖国神社や日本武道館、千鳥が淵など、有名な場所がたくさんあります。春になると、武道館では多くの大学の卒業式、入学式が行なわれ、そして靖国神社や千鳥が淵は、桜の名所。ということで、春は大変、人が多く集まる地域です。

そんな九段下から歩いて数分で、本の街・神保町に辿り着きます。新刊・古書ともに、目もくらむ数の本が売られていて、日々散財をしているわけですが、今回ジャケ買いした本は、『翼のある猫』上下(イザベル・ホーフィング著/河出書房新社/2,200円+税)。ブックデザインは永松大剛さん。
< http://www.kawade.co.jp/np/isbn/9784309205557
>
< http://www.kawade.co.jp/np/isbn/9784309205564
>



淡いサーモンピンクの上巻と、ペパーミントグリーン(っていう言葉、久しぶりに思い出しました)の下巻が仲良く並んで置かれていた姿が気になって、思わず手を伸ばしました。手に取って本全体を見て、またうっとり。

というのも、上下巻の色が背のところでグラデーションになって反転しているんです。詳しく書くと、上巻は表面はサーモンピンクで、背はサーモンピンクからペパーミントグリーンへのグラデーションになっていて、裏面はペパーミントグリーンに。下巻はその逆です。

装画(佐藤正樹さん)も、子どもから大人まで親しめる感じを高めていてすばらしい。本というものが愛おしく感じられて、そして「時空を越えた冒険」という内容にふさわしいブックデザイン。

私は内容が気になる本で上下巻や上中下巻になっているものは、とりあえず上巻を買って読み、おもしろければ続きを買うんですが、この本はどうしても上下巻を並べておきたくて、つい上下巻とも一緒に買ってしまいました。

今回の2冊目は『北斎漫画』第一巻「江戸百態」/第二巻「森羅万象」(葛飾北斎著/青幻舎/1,500円+税)ブックデザインは祖父江慎さん+鯉沼恵一さん(コズフィッシュ)。
< http://www.seigensha.com/
>

北斎漫画は、いろいろな版元がいくつもの本を出していますが、それらはどれも、ちょっと手に取りにくい感じがしていました。浮世絵に詳しくもない私がちょっと買うというには敷居が高い感じとでもいうんでしょうか。

でも今回、青幻舎から出た『北斎漫画』は、文庫本サイズという判型の手軽さもありますが、何と言ってもカバーに印刷された装画のインパクト! 第一巻の両手で目や口をビローンと伸ばして変な顔をしている装画を見て、思わず腰が砕けました。

そして気になって手に取り、中を見てみると......。ん? 和紙に刷ってるの?いや、違う。思わずスリスリ触ってみるも、うーん、普通の書籍用紙っぽい(OKソフトクリーム バニラかな?)。

よく見ると、元の和本の感じを出すために、紙の質感というか少し汚れた感じが、印刷されてる! うわ! すごい!!

これ、私の説明ではよくわからないと思うので、ぜひ近くの本屋さんで実物を眺めてみてください。ざらっとした和紙に刷っているように見えて、絶対、紙の表面をさわっちゃいますよ。

私は古書も好きで、昔の図案集とか印刷見本とか書体見本なんかを見つけると、お小遣いの許す限り買ってしまうのですが、たまにそうした古書が復刻されて発売されることがあります。でもなぜかその復刻には、食指が動かないことが多いんです。

なんでかなぁと考えたんですが、復刻になると、ツルッとしてしまうというか、元の本に潜んでいる時代感とか、元々の力みたいなものがそがれてしまっているような気がして、復刻にはワクワクしないんだなと思い至りました。

でもこの北斎漫画は、元の和本のような感じ(といっても、元を知っている訳じゃないんですが......)がしっかりとこもっていて、木版で刷った底本に近い感じを受けました。これ、製版がものすごく大変そう。その労が大きく開花した『北斎漫画』、一見の価値ありです。

【つだ・じゅんこ】tsuda@graphicsha.co.jp  twitter: @tsudajunko
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