[3031] 世界は善意に充ちている

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《「希望」は人間の最後の砦だ》

■映画と夜と音楽と...[499]
 世界は善意に充ちている
 十河 進

■ところのほんとのところ[54]
 写真作家・所幸則としてできることはなにか
 所幸則 Tokoro Yukinori

■エンドユーザー大変記[04]
 風刺画のパラダイム・シフト
 ジョニー・タカ



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■映画と夜と音楽と...[499]
世界は善意に充ちている

十河 進
< https://bn.dgcr.com/archives/20110415140300.html
>
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〈エロス+虐殺/幻夜/容疑者Xの献身/手紙/さまよう刃〉

●大地震の翌日に経験したささやかだが心温まる善意

大地震の後、ひと晩会社で泊まり、そろそろ空いている頃かと思いながら正午近くに駅へいくと、総武線はそんなに混んでいなかったが、秋葉原ではホームに人があふれそうになっていた。山手線は外回りが動いていなくて、どんどん人が増えていく。つくばエクスプレス(TX)の方へいってみたら、割に空いていたのでそちらに乗り込んだ。

それでも徐々に混んできて、発車する頃にはほぼ満員だった。北千住を越すと、TXの駅の周辺はまだまだ開発されていなくて、普段はそんなに乗降客はいないのだが、やはりけっこうな人の乗り降りがある。その日は「流山おおたかの森」という駅までしか電車はいかず、その駅で多数の人が降りた。階段を降り改札を抜けるまで、10分近くかかるほどだった。

「流山おおたかの森」の駅に隣接する大型ショッピングセンターには、広い売り場面積を誇る紀伊國屋書店も入っているし、シネコンが10スクリーン以上あるのだけれど、その日はショッピングセンターそのものが臨時休業になっていた。そこのレストラン街で昼食を摂ろうと我慢してきたのに、当てが外れた。

胆石の手術で入院していたカミサンが退院する予定だったので、とりあえず病院へ向かおうと思ったが、タクシーがまったくいない。仕方なく満員の東武線に二駅乗って柏に出た。今では千葉県一の乗降客数を誇るターミナル駅だが、駅周辺には人が少ない。臨時休業の店が多いのだ。ブランドショップがいろいろ入ったステーションモールも閉まっていた。

病院に着くと、すでに入院費の精算も済ませたカミサンが待っていた。病院玄関に戻ると、いつもなら数台は客待ちしているタクシーが一台もいない。カミサンが近くのタクシー会社に電話して迎車を頼んだが、「今日は無理」と断られた。下腹部に四つの手術穴が開いている女を歩かせるわけにいかず、病院バスでターミナル駅に戻ることも考えたが、戻ったところでタクシーが掴まるかどうかはわからない。

一度帰宅して、車で迎えにくるんだったなあと後悔していると、カミサンの携帯が鳴った。さっき電話したタクシー会社からだった。「何とか手配できたので、そちらへ向かう」という連絡だった。病院前からの迎車依頼だったので、配車担当の人が優先してくれたらしい。ありがたいねえ、とカミサンと顔を見合わせた。

しばらくすると、年配の女性が運転するタクシーがやってきた。大きな荷物を抱えて乗り込む。走り出してから「今日は大変ですか?」と訊いたら、「食事もろくにできません」という返事。そこから、タクシードライバーの持つ様々な情報を話してくれた。「さっき乗せたお客さんは、茨城県まで帰る人だったんですが、JRの運転状況をいろいろ教えてくれました」と言う。

こういう口コミが災害時には役に立つんだなあ、と僕は思った。地域的であり、実際的な情報なのだ。その場所でしか役に立たないけど、そこから自宅に帰ろうとしている人には、ひどくありがたい情報である。しかし、口コミ情報にはデマが混じることがあるし、ときにはひどい流言飛語が飛び交うことがある。

金曜日の地震以来、携帯電話も固定電話も通じず、僕はツイッターで様々な情報を知った。ダイレクトメールで連絡がきたり、社員の安否が報告されたり、本当に役に立った。そこには、公的な情報と、正しい知識と、善意に充ちた人々の呼びかけがあった。しかし、中には善意を装いながら人々の不安を煽る情報も書き込まれていた。

●流言飛語が流れ朝鮮人虐殺が起こった歴史的事実

関東大震災のとき、朝鮮人が暴動を起こすという流言飛語が流れて、朝鮮人虐殺が起こったのは歴史的事実だ。その混乱に乗じて、大杉栄と伊藤野枝、それに大杉の甥の三人が憲兵隊の甘粕大尉によって虐殺された。僕は吉田喜重監督の「エロス+虐殺」(1970年)を見てその事実を知り、後に少し調べてみた。

最近では有名なノンフィクション・ライターによる甘粕大尉の評伝も出て、甘粕大尉に関しては違う評価もあるようだが、僕はやはり彼には好感は持てない。甘粕大尉は後に満州映画協会の理事長になり、その頃の姿は「ラストエンペラー」(1987年)で坂本龍一が演じたけれど、何となく得体の知れない満州の怪物という描かれ方だった。

最近の甘粕大尉擁護論の根拠として、虐殺は甘粕の単独犯とされてきたが実際に手を下したのは部下だということがある。満州映画協会にいた内田吐夢監督によると、甘粕理事長のそばには常に眼光鋭い大柄の部下が陰のように付き添っていたという。その男が大杉たちを...と内田吐夢も思った。しかし、そうだとしたら僕はさらに甘粕に好意は持てない。己の手を汚さず、部下に7歳の少年まで扼殺させる男なのか。

憲兵隊にとって大杉栄が以前から目障りだったアナーキストだったとしても、その愛人も甥も共に殺し死体を古井戸に投げ込んだのは、人間のやることだとは思えない。それは関東大震災の数日後のことだった。そのことも卑怯である。「混乱のどさくさ紛れ」に何かを行うのは、僕の美意識からすると卑劣な行為である。

先日のツイッターのタイムラインを見ていて、そんなことを思い出すツイートがいくつかあった。善意を装い、人々の不安と猜疑心を煽るツイートだ。文面は女性に注意を促しているような内容だったが、混乱に乗じてレイプ犯が跋扈するだの、神戸の震災のときにも多くの被害者が出ただのという、リツイートした人は善意であったとしても僕に言わせれば「流言飛語」である。

そんなツイートを見ていたら、僕は東野圭吾の「幻夜」を思い出した。「幻夜」は、神戸の大震災から物語が始まる。行き詰まった町工場の主人(主人公の父親)が首を吊り、その通夜の翌朝、大地震が起き父親が多額の借金をしていた叔父が瓦礫に埋まる。助けを求める叔父を、主人公は混乱に乗じて殺す。

その現場を見ていた女がいる。その女を避難場所で見付けた主人公は、夜、ひとりで出かける女の跡を尾け、女が数人の男たちに拉致されレイプされようとしたのを救う。そこから、主人公と謎の女の関係が生まれ、主人公は女の奴隷のようになっていく。女の野望の道具にされ、多くの人を殺し続ける。

「幻夜」は、昨年の暮れから今年の初めにかけてWOWOWで映像化され、何回か連続で放映された。文字通り「悪魔のような女」であるヒロインを演じたのは、深田恭子だった。僕は分厚い原作を読み出したら止まらなくなったので最後まで読み通したが、後味の悪さに辟易した。だから、映像作品は見ていない。

東野圭吾はベストセラー作家だけど、僕はあまり読んでいない。彼の小説を読んでいると(犯罪を描くのだから仕方がないのかもしれないが)、世の中には悪意が充ちているとしか思えなくなってくるからだ。しかし、見事などんでん返しを発想する才能には、「秘密」(1999年)、「手紙」(2006年)、「容疑者Xの献身」(2008年)を見て素直に感心している。

●「世の中は悪意に充ちている」と書いてあった若い頃のメモ

若い頃のメモを見返していたとき、「世の中は悪意に充ちている」と書いてあるのを見付け、そのフレーズを書いたときの気持ちがありありと甦ってきた。当時、僕は18で上京したばかり。東京になじめず、都会人のとげとげした態度に傷ついていた。それは電車に乗るときであったり、改札を抜けるときであったり、買い物をするときであったりした。

東京の交通機関の仕組みに不慣れで、切符を買うのにモタモタした。改札を出るとまた改札がある(乗り換え改札に迷い込んだのだ)という状況にパニックなった。あるレストランでチケットの自動販売機(そんなものは四国にはなかった)に気付かず、席に着こうとしたら「うちは食券制です」と冷たい目で睨まれた。要するに田舎者の僕には、「世の中のささいな悪意」ばかりが見えたのだ。

もちろん、世の中には悪意が存在する。犯罪は日常的に起こっている。しかも意識しない悪意もあり、本人たちは悪意を自覚しないまま他人に対して残酷な行為をする。子供たちは遊び半分でクラスメイトをいじめ、ときに自殺に追いやる。大人の職場でもハラスメントは起こっている。隣人間のトラブルは日常的にあり、(言われた本人にとっては)悪意に充ちた噂が広がる。

もしかしたら、東野圭吾という作家は、そうした人間のダークサイドに注目し、そこから人間を理解しようとしているのだろうか。「容疑者Xの献身」は直木賞を受賞した作品で、いつものように血なまぐさく悲劇的な結末を持つ物語である。しかし、一方、殺人に絡んで徹底的な自己犠牲を貫く人間の姿をも描いている。

ある母子がいる。暴力的な父親から逃げて暮らしている。その父親がアパートを見付けて乗り込んでくるが、母子ははずみで父親を殺してしまう。その物音に気付いた隣人の数学教師がやってくる。そこで、(どんでん返しのために重要な情報が遮断されるのだけど)なぜか数学教師は母子に献身的に尽くすのだ。

映画で数学教師を演じた堤真一は、原作の冴えない数学教師のイメージよりかっこよかったが、探偵役のガリレオ(福山雅治)に対抗しなければならないから、そういうキャスティングにしたのだろう。福山と堤は大学時代の友人で、共に相手に一目置く存在だったという設定なのである。このふたりの知恵比べの要素があり、最後のどんでん返しはさすがだと唸った。

「幻夜」のような徹底した悪女を描く作品もあるが、「容疑者Xの献身」のような自己犠牲、「さまよう刃」(2009年)の父親が娘に寄せる究極の愛情、「手紙」に登場する少女の献身的な想いなど、悪意に充ちた世界の中でキラリと輝く希望も存在する。特に「手紙」は殺人者の弟が世間の悪意に挫けそうになる話だが、最後のどんでん返しによって希望が生まれる。

仲のよい兄弟がいる。出来のよい弟のために金を作ろうとして、兄は民家に泥棒に入り、居合わせた婦人を殺してしまう。強盗殺人。重い刑が待っている。進学を断念した弟は工場で働きながら親友と組んでお笑い芸人をめざす。その稽古を見て、工場勤めの少女(沢尻エリカ)がファン第一号になる。

弟は兄が殺人者だとバレ、せっかく人気が出始めたコンビを解散しなければならなくなる。エリートの家に育った令嬢(吹石一恵)と婚約していたが、その父親に経歴を調べられ、結婚を反対される。婚約者も殺人者の弟と知って彼の元を去る。自暴自棄になった弟は、兄と決別する。だが、刑務所の兄からは愛情といたわりに充ちた手紙が届き続ける...。

●ツイッターのタイムラインには人々の善意があふれていた

今回の大震災で僕が感激したのは、人々の善意だった。ツイッターのタイムラインには善意があふれていたし、泣きそうになるほどよい話があった。僕の会社の人間が歩いて帰宅している途中、車に乗せてくれたおじさんに「何かお礼を...」と言ったところ、「何もいらねぇよ。もしいつかオレが困っていることがあったら助けてくれい」と言って去ったという。

海外のマスコミは、パニックになっても当たり前の状況で、日本人の冷静で整然とした行動を賞賛しているという。棚に何もなくなった被災地のスーパーマーケットでも、人々はレジに静かに並んで精算していたし、パートのおばさんたちは家族が心配だろうにきちんと仕事をこなしていた。

東京で帰宅難民になった人たちは、改札規制に従って電車が動くまで何時間も並んだし、道を歩く人たちは女性や老人たちを気遣った。被災地では警察官や消防隊員や自衛隊員たちが、献身的に働いている。ボランティアの人たちも多数、駆けつけているという。地震を免れた地域では、献血のために人々の行列ができた。

外国で地震やハリケーンなどの天災の後、無秩序になり略奪や犯罪が横行するニュースに日本人たちは唖然としたと思う(毎回、僕もそう思う)が、今回、僕は改めて日本人であることを誇りに感じた。日本人の美学には「火事場泥棒は恥」という想いがある。それは日本人の血に共通に流れるものだ。

災害に乗じて儲けようとする輩がいる。先進国だと誇るアメリカでもハリケーン後の無秩序状態の中で、水の値段が跳ね上がったという。需要と供給の関係ではそうだろう。どんな場合もビジネスチャンスにしなければ、アメリカンドリームは実現できない。だが、今回、多くの日本企業は損得を度外視して、被災地の人々に協力しようとした。

人の弱みにつけ込むのは、みっともないことである。火事場泥棒は最も卑劣な行為である。こまったときはお互い様。そんな美学が日本人という民族には、ずっと流れているのではないか。何時間経っても帰れない疲れ果てた状況の中でも、人々は互いに声を掛けて励まし合い、弱者を気遣い、いたわり、かばう。

日本には、「敵に塩を送る」という言葉もある。正々堂々と闘うために、相手が自分と同等になるまで待ち、相手のダメージが回復するように塩を送る美意識が、東洋の果ての海に囲まれた小さな国にはあるのだ。困難な状況の中では、敵さえ気遣う言葉を持つ日本人である。同じように困っている人々なら、もっといたわり合う。

世の中には、間違いなく善意が充ちている。今回の地震で多くの方が亡くなり、すべてを失った人も数え切れない。しかし、そんな被災者を気遣う多くの声や、善意の人々の自然な行為に、「希望」だけは存在しているのだと励まされる想いだった。悲惨な事態だが、人々は「希望」まで失ったわけではない。「希望」は人間の最後の砦だ。「希望」さえ失わなければ、悲しみの中からでも未来に向かう何かが立ち上がる。世界が美しく見えてくる。

......ここまでは震災の翌々日に書いた原稿だった。その後、日が経つにつれて様々なことが報道されるようになった。火事場泥棒的な犯罪もあったという。原発事故による放射能不安が広がり、次第に人々の心がすさみ始めたのかもしれない。すし詰めの電車の中では、些細なことで諍いが起こることもある。

しかし、僕は言いたい。希望を失うな、夢を棄てるな、どんなに過酷で悲惨な状況に陥ったとしても、世界は生きるに値する...と。それは僕自身へ向ける言葉でもある。世の中には、無数の善意の人々が生きている。それを、今回の震災で改めて知った。そして、そのことが僕にとっての「希望」である。

【そごう・すすむ】sogo@mbf.nifty.com < http://twitter.com/sogo1951
>

震災で自宅は食器類の破片と大量の本で床が埋まり、モニタは落ち、パソコンも落ちていました。誰もいなかったからよかったのですが、自宅にいたら誰かが怪我をしていたところです。グラスや食器の破片を片付けて掃除機をかけ、その後、本を片付けていたら「何で、こんなに本があるのか」とうんざり。

●306回〜446回のコラムをまとめた「映画がなければ生きていけない2007-2009」が新発売になりました。
< http://www.bookdom.net/suiyosha/1400yomim/1447ei2007.html
>
●305回までのコラムをまとめた二巻本「映画がなければ生きていけない1999-2002」「映画がなければ生きていけない2003-2006」が第25回日本冒険小説協会特別賞「最優秀映画コラム賞」を受賞しました。
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■ところのほんとのところ[54]
写真作家・所幸則としてできることはなにか

所幸則 Tokoro Yukinori
< https://bn.dgcr.com/archives/20110415140200.html
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この度の東日本大震災で被災された方々に心よりお見舞い申し上げます。

私の回りでも、繋がりのある人達の安否の確認などでパニック状態が続きました。311から始まった様々な非常事態が一日も早く収まっていくことを心から願います。

東日本大震災に対する義捐を目的として自分ができることは何かを考え、様々なチャリティー写真展への参加に加え、写真作家・所幸則個人としてできることとして、東京・渋谷の作品をチャリティーオリジナルサイズA5サイズ(148mm×210mm)に設定し、特別価格10,000円で販売したいと思います。

作品はA5サイズでも良さが伝わる3枚を選びました。各50枚程度を考えています。すべての作品にチャリティ企画としての、きちんとしたオリジナルプリント証明書をおつけします。一枚につき9,000円を日本赤十字に寄付し、約1,000円を送料等にします。それ以外にも、すべてのプリントの売上の25%を2011年末まで寄付することも決めました。4月18日(月)、以下に詳細を掲載します。
< http://www.tokoroyukinori.com/
>

[ところ]は去年末から体調を崩し、しばらく満足な作家活動ができなかったけれど、ギャラリー21のキュレーター太田菜穂子さんと岡山修平さんと三人で今後の活動、未来の展望の話をして、決意を新たにエネルギーを燃やして頑張ろうと、気持ちを立て直したのが311の前夜の3月10日でした。

次の日の夜(3月11日の夜)には、[ところ]を慕ってついてきて二年間作品を作り続けていた、写真家を目指す二人と、彼らの二人展の会場を見に行き、最終的な展示プランの確認をする予定でした。地震が起きた時点では、凄い地震だと思いましたが家には何も被害もなく、どれほどのものか理解できないまま普通に夜を迎えました。二人のうちの一人は夜に自転車に乗って現れましたが、もう一人は連絡がろくにとれないまま、その日から一週間が過ぎました。

展示場所は西麻布の老舗ギャラリーバーBAR AMRTA、申し込んでOKが出ても2年待ちという場所です。震災のあった翌週、BAR AMRITAに一応電話してみると、普通に営業していました。展示を中止にはできないと確認もしました。

その後、地震だけではなく日本ではおそらく最大級の津波もあって何万人という被害者が出て、原子力発電所が海沿いにあるという知識もそれまでなかったのですが、そこも大変なことになっているということを知って、少しずつ事態の大きさ、深刻さも理解し始めました。

311の夜、普通に過ごしていた[ところ]は渋谷、打ち合わせに訪ねてきた青年は中野、BAR AMRTAは西麻布、その次の夜スカイプで話していた友人たちも中目黒と自由が丘だったということもあり、電車が止まって都市機能が麻痺している感覚も、あまり実感としてなかったと思います。

打ち合わせに現れなかった写真家の卵の一人は、都心にバイクで通勤していたので埼玉の自宅に飛んで帰ったあと、停電のなか余震に耐えていたそうです。ガソリンもすぐに買えなくなり、水も食料も手に入らず、パニックになっていたことを数日後に知りました。ニュースで買い占め騒動がおきていると報道されていましたが、マスメディアをあまり信じていない[ところ]にも、実感として伝わってきました。

その後、4月1日からの彼らの展示が始まるまではいろいろ大変でしたが、無事に展示ができて良かったと思います。BAR AMRITAもお店である以上、閉めれば従業員も働けなくなり給料も減ります。同じことが様々な業種で言えることで、東京でいつも通り仕事ができる人は働くべきで、そうしないと結局は被災地の人達への支援も満足にできなくなるのです。

事務の人、営業の人、飲食店の人、魚を売る人、仕事としてスポーツをやる人さまざまですが、もちろん今は電力不足という大きな問題もありますから、あまりに電力を使用する業種は工夫をしなければいけないのかと思いますが、被災地の人達を助けるにはまず自分たちが元気であることが大事です。

と、えらそうなことを書いている[ところ]ですが、実はツイッターやたまに見るテレビの報道にまいってしまって、数日前までほとんど倒れていたのですが......。実際、渋谷を撮ることがメインの[ところ]も、撮ってる場合か? と悩み、しばらく撮る気になれませんでしたが、ようやくまた撮ろうと思えるようになりました。

ニコニコ動画などで人と話すと、その間だけは少し起きていられる、そんな感じの大変な毎日でした(被災地の方々は比較にならないほど大変な状態なのに申し訳ない)。しかし、4月18日から渋谷のハチ公前にあるモニュメント(電車の車両)内での展示の打ち合わせに、渋谷の区役所に行かないともう間に合わないという催促もあり、2日前の水曜日に行って話をして、それは無事進んでいますが、体を無理やり動かしている感じです。

311以降、人々の意識もずいぶんと変わったように思います。政治のこともそうですし、本当にやりたいことが何なのか考え直す人も増えました。みんなの心の変革期になったかもしれないと思っています(特に東日本では)。今、この瞬間を大事に生きようという、当たり前のことを思う人が増えたのではないでしょうか。

[ところ]もいい加減立ち直って頑張ることが大事だと思っています。この世界はいつ何が起きて無になるかわからない、儚い存在だということを実感したからです。とりあえず、寝込んだ間に落ちた体力を回復させなければ、と思っています。

さて、それ以前に書こうと思っていたですが、フランスのオンラインマガジンで特集されています。デザインがなかなか秀逸なので是非ご覧になってください。インフォメーションのページにリンクがあります。それ以外にも、NYのオンラインマガジンでの特集もご覧いただけると思います。
< http://www.tokoroyukinori.com/
>

文中の二人展は「TJ二人展 夜 駆ける 夜 BAR AMRTA」が正式名称です。[ところ]がすべてキュレーションしました。なかなか見ごたえがある展示になっています。都会的で洗練されたフレーミングの布施有輝の交差点中心の作品と、実直な視点の立ち位置で撮る菅野健一の重機中心の作品の対比が面白い写真展です。詳しくはこちらに掲載されています。
< http://ichikojin.sakura.ne.jp/tokorojyuku/index.html
>

もうひとつは渋谷ハチ公前広場の展示「渋谷1秒in渋谷ハチ公前」は前半4月18日(月)から4月27日(水)、後半5月9日(月)から5月18日(水)を予定しています。朝10時から夕方18時までです。未発表作、新作等の展示も予定しています。渋谷にお寄りの時はごらんください。ただし、雨天の場合は閉まっていますのでご注意ください。

それと、4月10日に発売された「アイデア」。震災直前の入稿だったので出るかどうかわからないと思っていたのですが、羽良多平吉特集は豪華過ぎて奇跡のようです。ぜひご覧になってください。デザイン界における美の巨人の本領発揮です。表四と表二ともに[ところ]の撮りおろしの新作も見れます。[ところ]のブログに、デジクリがみなさんに届くまでに表紙等アップしておきますので取り合えずごらんください。印刷も紙も非常にこだわっているので、手に取らないとほんとのとのところはわからないかもしれませんが。
< http://tokoroyukinori.seesaa.net/
>

ニコニコ動画では芸術と未来を中心にいろんなアーティストとの話を放送していますが、近々大物の映画監督が登場します。
< http://com.nicovideo.jp/community/co60744
>
多分来週と思われますが、混雑の場合プレミア会員やコミュ会員が優先されて見れないこともあるのでご了承ください。ちなみに、今週日曜日夜も放送はあります。そのとき誰なのか言えるといいのですが。

【ところ・ゆきのり】写真家
CHIAROSCUARO所幸則 < http://tokoroyukinori.seesaa.net/
>
所幸則公式サイト  < http://tokoroyukinori.com/
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■エンドユーザー大変記[04]
風刺画のパラダイム・シフト

ジョニー・タカ
< https://bn.dgcr.com/archives/20110415140100.html
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東日本大震災から一か月を迎える前日にこのテキストを書いてます。

こんな未曾有の震災に遭ったのは、当然初めてです(未曾有ですから)。阪神大震災、新潟中越地震の時も、ある意味遠目で見てました。しかし、現実に震災に遭遇した上、私の住んでいる横浜の被害状況をまざまざと見せつけられると、改めて自然の猛威と人間の無力ぶりを思い知らされた感があります。

とにかく、この震災下での状況を書こうと思いましたが、書くことが多すぎてまとまりません。ここでは、イラストコミュニケーションSNS「pixiv」であった状況を書きたいと思います。私の連載主題と異なりますが、お許し下さい。< http://www.pixiv.net
>

震災から一週間はテレビのCMは自粛されていました。しかし、一週間経つとACのCMが多くなりました。「え〜し〜」というサウンドロゴを連発されると不快極まりない上、耳で感じる周波数が緊急地震速報の不協和音と同じくらいなので、抗議が殺到して、結局サウンドロゴがカットされました。
< http://www.ad-c.or.jp/information.html
>

サウンドロゴはカットされたものの、今度はCM自体のストックが不足している状況になり、同じCMを連発するようになりました。特に「あいさつの魔法」。
(youtube)<
>
(ニコニコ動画)< http://www.nicovideo.jp/watch/sm13872944
>

気を楽にするつもりで深夜アニメを見たいのに、このCMを連発されるとたまりません。

ここで本題に戻りますが、それを逆手にとってpixiv上でこのCMを戯画化する動きが始まりました。
< http://www.pixiv.net/
>

これに関してはpixivへのユーザー登録が必要ですが(もちろん無料)、"ぽぽぽぽーん"や"あいさつの魔法"というタグに集中していますのでそちらをご覧いただいた方が早いと思います。それを2次加工して戯画化することが加速しています。

「あいさつの魔法」を戯画化することは、一種の風刺絵になるのだと思います。今まで風刺絵は新聞がやるものだと思っていたのですが、今や風刺絵でさえネットの時代に移った感があります。

絵で笑い飛ばした上に、更に2次加工してやろうというのは、新聞に連載している風刺漫画家を超越している感がありました。高学歴をウリにしてテレビに出まくっている某漫画家には、絶対出来ない芸当だと思いました(尊敬してたのにね......)。

【ジョニー・タカ】johnnytaka32@gmail.com

1976年、横浜・関内に生まれ、上州と越後の風を受けて育ち、来世でもFUNKを踊り続けるフリーランサー。ヴァーチャル・キャラクターに曲をつけて選曲する"コンピレーション"を1998年から展開している。
< http://music.ap.teacup.com/cafedejohnny/
>

最近ノートパソコンをもらいました。Acer AspireONE 533です。
< http://www.acer.co.jp/ac/ja/JP/content/model/LU.SCA0D.018
>

しかしWindowsがWindows7 starterで、逆にストレス増大。フルパッケージにするとPC自体にかなり負担がかかるので、それはやめにしました。やっぱり、Macに渇望してやっとMacを買った身としては(註:1996年、大学1年の時にMacを買おうと思った当初、ギル・アメリオがCEOで、購入先からも薦められなかった。1997年に富士通のDESKPOWERを購入した時、ジョブズが復帰し、ボンダイiMacを発表。その悔しさは忘れない。それをバネにして2000年にPowerMacG4を購入。しかし2008年にご臨終......)、やっぱりMacがいいと感じました。Antecの650W電源はあるけれど、中古でいいからPowerPCベースのMacが欲しいです。今もこのAspire上で、Evernoteを使ってこのテキストを書いてますが、キーピッチの狭さに悪戦苦闘。

ツイッターは再開しても結局やめました。地震により取引で利用していたみずほ銀行のシステム障害が響き、取引先から怒られる始末。そうなると地震以前にお金、ということになります。「結局こいつは金かよ」という方は切りました。mixiでノイズが止まないため、mixiもやめました。余震で参っている以上に、ノイズは大敵だと知りました。

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■編集後記(4/15)

・MacのTIMEMACHINEはじつにすばらしい機能だが、すでにHDDを3台潰してくれた。中でも3台目は、いやだいやだというのに何度もバックアップを指令し、一時は言うことを聞かせたが、3月中頃とうとう異音発生と同時に反応拒否された。あわてて外付けHDDを物色したが、もはやわたしのPowerPCプロセッサG4に対応しているのが少数ではないか。レグザのハイビジョン録画で使われている、I-O DATAのHDC-EUKシリーズは対応できそうだったから購入、ものすごく安い。黒いコンパクトボディでファンレス、かっこいい。電源連動機能も便利だ。MacとはUSB接続で、OSX初期化も簡単。さあ、TIMEMACHINEの設定だ。4月7日の10:30にバックアップ開始、以降は延々と実行中。12時間後でまだ1/3程度、一晩そのまま放置、朝になっても終わらない。24時間後で1/2程度。やっと完了したのが21:30だからじつに35時間を要した。今までは遥かに短時間で終わっていたのはFireWire接続だからか。師匠に聞いてみると「仕様上はUSB2もFirewire 400も似たような速度ですが、Firewireだと実効速度が2倍とはいかないまでもかなり速度が違います。USBは期待を裏切る政治家のようなものです」とのこと、なるほど。それ以後、TIMEMACHINEは順調だが、定時のバックアップに要する時間はとても長い。あまりにも長い。G4がUSB2じゃないのがさらなるネックなのね。そろそろ新しいMacにするか。(柴田)
< http://www.iodata.jp/product/hdd/hdd/hdc-euk/
>  HDC-EUKシリーズ

・所さん、大阪のも撮って欲しいなぁ。18日にチェックせねば。/今日はまつむらさんのお誕生日。/自分の年齢を一つ勘違いしていた。聞かれても計算しないとわからない。年齢がわからないと言われて、またまた〜と返していた方だったが、実際に自分がそうなるとは思ってもみなかった。/個人で赤十字に寄付した後も、何かイベントがある度に寄付している。これがけっこうきつい。いや、きついなんて言っていたらダメよね。その分頑張るから仕事たくさん来ますように。いろいろあって、仕事を縮小気味にしていたのだ。復興に向けて、世の中みんな切り詰めることになるから(使うなら被災地に向かうことになるから)、Webサイト制作やリニューアルって減っちゃうのかしら。どなたかお仕事紹介してください〜!/学生らが一生懸命声をはりあげ、頭を下げる街頭募金の横を通り過ぎるのもけっこうきつい。心の中で「何カ所かやってるし、たぶんこれからもすることになるから許してね」とか、どこに寄付されるかわからないしとか、世の中冷たい人ばかりだと思わないで欲しいなぁとか思ったり。/どかーんと寄付できるぐらいになりたい。どかーんと寄付している人も、もっとどかーんと寄付したいって思っていそうだけど。(hammer.mule)
< http://www.yukawanet.com/archives/3672096.html
>
iPhoneアプリ「いつでもポポポポ〜ン」削除されたのか。落としてた。