電子書籍に前向きになろうと考える出版社[06]著者と出版社と図書館と
── 沢辺 均 ──

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は〜、隔週の原稿はやっぱり結構しんどいな。柴田編集長のお誘いには「毎週でも隔週でも月一でも、なんでもどうぞ」と返信してた。こういう機会でもなければ、なかなか書かないから、いい機会にしようなぞと思っていたのだが、自分の無能の自覚がたりなかったようだ。

作家の樋口毅宏さんが、今年2月25日に新潮社から発行した『雑司ヶ谷R.I.P.』の巻末に、公共図書館での貸出しを半年間猶予するよう【公立図書館のみなさまへ この本は、著作者の希望により2011年8月25日まで、貸し出しを猶予していただくようお願い申し上げます。】という文章を載せた。読売新聞の翌日の報道では定価1,600円書刷り6,000部だそうだ。印税は96万円、樋口さんはこの執筆に一年かけたらしい。

図書館で発行直後からどんどん貸すので本が売れない──という認識人なんだな? 樋口さん。

「図書館で発行直後からどんどん貸すので本が売れない」という著作者は、どんどんこう書き込むのがいいと思う。そして、実際に他の著作と比べて、その方が売れるなら、あらためて図書館での貸出しのルールを考え直さなければならないと思う。



実際にこの樋口さんの著作を、発行時に買わないようにしたのか、買ったとしても貸し出さないようにしたのか、それとも買うところは買って著者の意思にかかわらずに貸し出しているのか、図書館の状況を僕はまったく知らない。だから、今回、これで書店での販売が、樋口さんのほかの著作と比べて売れるか売れないか試すことができるのかわからない。残念。

この一文は著作権法・図書館法の上で効力をもつようには思えない。逆に、図書館がこれに従ってみても、著作権法・図書館法を逸脱するとも考えられない。だから、図書館は樋口さん(と、もしそれに続く著者がいればその著者たち)の意思を一旦受け入れてみて、図書館が貸すから本が売れないのかどうか積極的に試すのがいいと思う。

試してみて、その結果からまた今後の良いルールを生み出していくというサイクルをもつのがいい。「売れない」「むしろ売れる」とかいった信念の対立はいい加減にやめて、実証的な検討をするべきだ。

この話とは別に、ここ何年ものあいだ図書館でよく「○○図書館のリクエストベスト10、この本をお持ちなら図書館に寄贈してください」といった張り紙やチラシを良く見かける。ベスト10には当然、本屋でもよく売れているベストセラーが並んでいる。この寄贈要請はいただけない。

図書館は書物を商売(いや、サービス?)のネタにしているわけだ。そのネタをつくる出版業という産業を、いかにして振興させるのかというのは図書館の大切な課題だと思う。そもそも、ベストセラーを大量に貸し出す無料貸本屋に堕してしまっていいのか? 一部の住民にすぎないヘビーユーザーが、佐伯泰英の文庫を何冊も一度に借りて行く、ことだけを追求するのが図書館サービスの中心ではない。

もちろん、娯楽向きの本を貸し出して、文字・活字に親しむ人を増やすことは大切だが、それって図書館の機能の一部分じゃないか。。米屋はうまい米をつくる百姓を大切にする、酒屋がいい酒をつくる酒蔵を大切にするのとおなじように、図書館は本の産業を大切にすべきだ。ましてそれは、税金で運営されている公共図書館なのだから。

これは商道徳としてそうなのだと思う。商道徳として、図書館で貸し出す本はちゃんと買いましょう、と思うのだ(さらに、その本は大量注文顧客だということで、10%を越える値引きをさせているのも、どうかと思う)だから、リクエストベスト10を寄贈してください、といったチラシや張り紙を見るたびに腹がたつ。

つくってヨシ、売ってヨシ、買ってヨシ、だろう。

◇気仙沼へ、日本図書館協会〈HELP-TOSHOKAN(被災地読書支援隊)〉にいってきます。
僕としては取材してこうと思ってるのだけど、応援作業優先で行ってきます。4月21日(木)から24日(日)まで。参加準備記からポット出版サイトに書き始めました。てか記録だな。よろしければご覧ください。
・日本図書館協会〈HELP-TOSHOKAN(被災地読書支援隊)〉参加準備記 01
< http://www.pot.co.jp/diary/20110415_221236493923292.html
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【沢辺 均/ポット出版代表】twittreは @sawabekin
< http://www.pot.co.jp/
>(問合せフォームあります)
ポット出版(出版業)とスタジオ・ポット(デザイン/編集制作請負)をやってます。版元ドットコム(書籍データ発信の出版社団体)の一員。
NPOげんきな図書館(公共図書館運営受託)に参加。
おやじバンドでギター(年とってから始めた)。
日本語書籍の全文検索一部表示のジャパニーズ・ブックダムが当面の目標。