気になるデザイン[60]ジャケ買い、復活の日々[後編]
── 津田淳子 ──

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(前回、前編としなかったけど、今回後編です)

世の中はクールビズとか、サマータイムとか、夏の電力不足に向けていろいろ試行錯誤している中、当然我が社も冷房を控えたり、電気を消したりするわけですが、一番の不安は会社の窓がほとんど開かないということ。空気の入れ替えができないので、今も私の机の上にある簡易温度計(示温印刷されたアバウトな温度計)は、30度に......。いったいどうなることやら。

そんな中、『デザインのひきだし13』が発売となりました(場所によってはまだ書店店頭に並んでないかも......)。今回は「青焼き+箔押し」という貧乏なんだか金持ちなんだかわからない表紙になっていますので、ぜひ書店店頭でご覧下さい。
< http://dhikidashi.exblog.jp/
>

さて、書店店頭でいつも装丁が気になる本を、値段も見ずに買い、レジで涙目になている私ですが、のど元過ぎればナントやらで、相変わらず本のジャケ買いを続ける毎日です。毎回2冊ずつ気になる装丁の本をご紹介していくつもりのこの連載ですが、震災以降、ジャケ買いした本がかなり溜まってるため、前回・今回の2回でそれらをダーッとご紹介します。



『ヴォイド・シェイパ』(森博嗣著/中央公論新社/1800円+税)
ブックデザインは鈴木成一デザイン室。
< http://www.chuko.co.jp/tanko/2011/04/004227.html
>

森博嗣の新シリーズだが、同著者の『スカイ・クロラ』シリーズの後継と思えるブックデザイン。透明フィルムがカバーになり、写真とも絵とも思える表紙がそこから覗く。前シリーズは「空」の写真だったが、今回は山脈だ(それは内容を読めば納得)。それが表紙から見返しにまで続くのがまたいい(見返しのチリ部分が、見返しの山脈と微妙に繋がっていないのが残念ではあるが、しょうがないか)。静謐ででも強い。帯がある状態だと表紙にも背にもタイトルが見えないのが、書店では逆に目立つ。それにしても帯に箔押しが使えるのはうらやましい。

『六条御息所 源氏がたり 二、華の章』(林真理子著/小学館/1800円+税)
ブックデザインは木村裕二さん+金田一亜弥さん(木村デザイン事務所)。
< http://waraku-an.com/genji/index.html
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墨でタイトルや著者名が刷られたトレーシングペーパーのカバー。そしてその下に帯(?)がかかり、表紙とともにカバーから透けて見えるというしかけ。紗がかかって見えにくい感じが、現実ではない物語の雰囲気を醸し、なんとも惹かれてしまう。そしてカバーをとって驚くのは、表紙がクロス装、タイトルは箔押しという豪華な仕様なこと。クロス装の本は本当に美しく大好きだが、昨今はコストの関係などから新刊で見かけることはかなり減ってしまった。だがこうして美しく丁寧につくられた本を見ると、はやり本とはかくあるべき、などと思ってしまう。

『魯迅の言葉/魯迅箴言』(魯迅著/中村愿翻訳/平凡社/1700円+税)
ブックデザインは原研哉さん、程藜さん。
< http://www.heibonsha.co.jp/catalogue/exec/browse.cgi?code=482016
>

書店で平積みされた本書を見て、思わず目をこすってしまった。カバーから表紙、そして小口塗装まですべて濃い赤で統一されているのだが、カバーの赤がどうも少しムラに見える。手に取って裏なども見てみると、あっ、これは意図的にムラを刷っているのかとわかる。その大きなムラはカバーだけではなく表紙にも続き、シンプルながら箔押しされた強いタイトルと一緒になって、深いイメージを与えている。ついつい手に取ってしまう一冊だ。

それにしてもこのタイトルの箔は何色なんだろう。濃い茶色のような、見たことのない色に思える。そしてバーコードが限度ギリギリぐらいに思える赤茶色で刷られているのもこだわりを感じる。ちなみに本書は日中同時刊行で、どうやら中国語版は白い本のよう。こちらも入手してみたい。

『白桃』(野呂邦暢著/豊田健次編/みすず書房/2800円+税)
ブックデザインはみすず書房の編集者・尾方邦緒さん。
< http://www.msz.co.jp/book/detail/08089.html
>

みすず書房の「大人の本棚」シリーズは、この『白桃』だけに限らず、どれもすてきな装丁だ。シリーズすべて、カバーは凸版で色ベタが印刷され、そこに題箋を模したタイトルが刷られている。紙自体に細いエンボスラインが入ったNTストライプGAを使っていて、そのエンボスラインもまた、この教養高いシリーズに合っている。薄表紙でしなやかな造本も、読みやすくてすきなところ。シリーズ通していいのだが、この『白桃』はカバーのビンクが何とも言えずいい色。

『死んでも何も残さない 中原昌也自伝』(中原昌也著/新潮社/1400円+税)
装画とタイトルは100%ORANGE/及川賢治、装丁は新潮社装幀室。
< http://www.shinchosha.co.jp/book/447203/
>

この本は、カバーと帯の色の激しさ、そして装画の強さ、その2点で手に取ったもの。すごいパワーを感じる。でもそれだけだったらこの本は買わずに棚に残したかも。最後の決め手となったのは本扉の文字。著者本人が書いたかのような不器用で強い文字。これで完璧にこの本を読みたくなりました。

『志村正彦全詩集』(志村正彦著/PARCO出版/2000円)
ブックデザインは名久井直子さん。
< http://www.amazon.co.jp/志村正彦全詩集-志村正彦/dp/4891948809
>

今回2冊目のクロス装の本。紙管原紙のような粗野なボール紙でつくられた函、これは留めてあるステッチ(ホチキスのようなもの)が銅色なのもすてき。本体はブルーのサテンが使われたクロス装で、そこに著者が描いたヤクザネコが空押しされている。白くてしなやかな本文もよく、各詩のタイトルの入り方が自由なところも、なんだか本書に合っているような気がして好き。そして花切れがアクセントになっているところも、細部まで丁寧につくられたことが伝わって高感度大。

『箱庭図書館』(乙一著/集英社/1300円+税)
ブックデザインは松田行正さん+日向麻梨子さん。
< http://www.amazon.co.jp/箱庭図書館-乙一/dp/4087713865
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ホントのことを言うと、こういう尖ったデザインの本はあまり好きではないのだが、本書は別。どこが別だと問われると困るのだが、全体から出る雰囲気が尖りすぎておらず、どうにも書店で気になってしまった。目次まで気を配ったレイアウトも、見返しのキャストコート紙によるツルッツルな感じも、どれもなんだか欲しくなってしまう感じを高めていた。気になるところとしては、帯の「乙一」という文字の字間がくっつきすぎでは......というところと、カバーのやはり「乙一」というタイポグラフィ。画数が少ない文字の組み方、見せ方は難しいですね。

今回紹介した本に多く見られたのが、「本文用紙が白い」ということ。『箱庭図書館』『志村正彦全詩集』『魯迅の言葉』『ヴォイド・シェイパ』どれも白い。基本的にはクリーム色の本文用紙が好きなのだが、これだけ多くなってくると目も慣れたもので、以前より気にならないな。内容やブックデザインによっては、白い本文用紙が似合う場合も多いですしね。

よし、これで溜まっていた本をいろいろご紹介できたので、またジャケ買いがどんどんできるぞ(笑)。

【つだ・じゅんこ】tsuda@graphicsha.co.jp  twitter: @tsudajunko

『デザインのひきだし13』がようやく書店に並び始めました。名久井直子さんがさまざまな本づくりの現場を訪ねたデザインのひきだしの連載をまとめた『本づくりの匠たち』が好評発売中です。

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デザインのひきだし・制作日記 < http://dhikidashi.exblog.jp/
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