気になるデザイン[61]ジメジメしたイヤ〜な気候を吹き飛ばす、シンプルでスッとした装丁
── 津田淳子 ──

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沖縄はもう梅雨が明けたとのこと。東京はまだまだじめじめと湿気が多い毎日で、紙持ち(?)の私としては、紙がうにょうにょ、湿ってしまうのではないかと憂い、あまり好きではない季節です。

2週間ほど前に、私が編集している『デザインのひきだし13』が発売となり、書店店頭に並ぶのが遅くなってしまう地域でも、そろそろ並んでいることかと思います。

今回は「少部数からでも使える、刷りも価格もステキな印刷」と題して、ピンクマスター(改めて考えるとすごい名前)やガリ版、デジタル孔版印刷、青焼きなどなど、ステキな印刷を実際のサンプルを豊富に綴じ込んでご紹介しています。青焼きに箔押しという、貧乏なんだかお金持ちなんだかわからない表紙が目印ですので、ぜひ書店でご覧下さいませ。

冒頭から宣伝ですみません。ここからが本題。今回ご紹介するジャケ買いした本をご紹介します。まず一冊目は『男友だちを作ろう』(山崎ナオコーラ著/筑摩書房/1,500円+税)。装幀は佐々木暁さん。
< http://www.chikumashobo.co.jp/product/9784480815101/
>



淡々としたカバーの感じ(表紙も同じ)が、どうにも書店で気になりました。ハーフエア(だと思います)という、非常にガッサリした嵩のある紙に、墨一色でシンプルにタイトルとイラストを印刷してあるのですが、この紙、風合いは大変いいものの、印刷適性が若干悪い。そのためイラストの墨ベタに少々ムラが出ているのですが、それがなんだか版画を刷ったような雰囲気になっていて、大変よい。装丁をしている佐々木暁さんは、それを狙っていたんだろうなぁ。表紙も同じ紙の厚物で、がんだれ表紙。

ビジュアルがシンプルなだけでなく、風合いもつくり方も、丁寧ながら素朴で淡々とした素っ気ない感じの本。すばらしくいい感じです。

難点をひとつ言えば、これは私だけかもしれませんが、電車内で本を読むことが多く、その場合片手で本の下部を持って本を開くので、本文の下部余白が大きい方が読みやすい。本書の本文は、上の余白が大きくとってあり、ノンブルも上に。これだとちょっと読みにくいのと、何となく落ち着かない......のです。

二冊目は、『編集者の食と酒と』(重金敦之著/左右社/1,800円+税)。装丁は著者自装。
< http://sayusha.com/sayusha/903500621.html
>

原稿用紙のます目が刷られ、そこに力のある書き文字でタイトルが入っている。そのタイトルは、題箋がはられたかのよう。気になって手に取ってみると、装丁は著者自らが行なわれていた。私、なんだか著者自装の本って、好きなのが多いのです(著者自装自体が、さほど多くないのですが)。ご自分の情熱や思いが、すごく溢れているように感じるので。

中を見てみると、このカバーに刷られた原稿用紙は、満寿屋の原稿用紙だそう。満寿屋とは、川端康成や三島由紀夫など名だたる文豪が愛用した原稿用紙。もちろん今でも販売されていて、私が作家だったら、名前入りの原稿用紙、絶対頼んでしまうんだろうなぁ、という老舗です。

華美な装飾のない、シンプルな装丁。なんといっても、このタイトル文字がすばらしくすてきです(タイトル文字は杉浦絳雲)。こちらも生意気にも欲を言えば、背のタイトル文字も、表紙と同じ文字にすればよかったのに......。

ちなみに本書、中身もおもしろく、「装丁は本の「包装」ではなく「皮膚」だ」などという章もあり、そこには「ジャケ買い」についても書かれている。装丁が気になる人も必読。

今回はここまで。でもあらためて見てみると、ここのところの私は、シンプルな装丁に心惹かれてるんですな。ジメジメした気候だから、そういうスッとしたものを求めているのかしら。

【つだ・じゅんこ】tsuda@graphicsha.co.jp  twitter: @tsudajunko
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