デジアナ逆十字固め...[121]愛の真空パック
── 上原ゼンジ ──

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PHOTOGRAPHER HALさんの写真展「Flesh Love」(ギャラリー冬青)を観てきた。同シリーズは、今年の5月にニコンサロンで行われたものも観たが、ニコンサロンでは大判プリントだったのに対し、今回はコンパクトなサイズにプリントして展示を行なっている。同じシリーズでも、サイズの大小で与えるイメージ変わってくるのでなかなか面白い。

「Flesh Love」の撮影はカップルを布団の圧縮袋に入れて空気を抜き、食品の真空パックのようにした状態で行われる。ヌードの場合もあるし、派手な衣装に身を包んでいる場合もある。被写体はある時点から息を留めているので、2〜3回シャッターを切ったら、すぐに袋を開けて解放する、というかなり緊張感のある撮影現場になるとのこと。

この写真の面白いところは、撮影前に服装やポーズなどの打ち合わせはするものの、圧縮することによって変なふうに体が歪み、想定外の状況になってしまうということだ。やっぱり絵コンテを書いてそれをなぞるような写真よりも、偶然の面白さが加わった方が、写真は魅力的になる。またストロボ光がビニールで反射する様子がチープでポップで艶かしい。

同シリーズは写真集にもなっているが、iPad版が出来たということで、帰ってから早速ダウンロードしてみた。このiPad版もなかなかいいです。いい理由はiPadの光沢感のある液晶画面に、作品がマッチしているということ。ビニールのテカリ感は紙に再現するよりも、iPadで観るほうがよりリアルな感じになる。

それに紙は光らないけど、iPadは光るということも大きい。今後ディスプレイの輝度がさらに上がったり、広色域化したり、解像度が上がったりすることを考えれば、ディスプレイで鑑賞した方が面白い写真というのも増えてくるんだろうなと思わせられた。また、この撮影のメイキング映像なども含まれているのでおすすめです。




今回はちょうどHALさんにも会って説明していただけたので、より面白く観ることができた。在廊予定は冬青社のサイトにアップされるので、できたらご本人の説明を聞きながら鑑賞することをおすすめします。

PHOTOGRAPHER HAL「Flesh Love」
会期:12月2日(金)〜12月24日(土)11:00〜19:00 日月祝休
会場:ギャラリー冬青(東京都中野区中央5-18-20 TEL.03-3380-7123)
< http://www.tosei-sha.jp/TOSEI-NEW-HP/html/EXHIBITIONS/j_exhibitions.html
>

◇Photographer's File #9(デジカメWatch/HARUKI)
< http://dc.watch.impress.co.jp/docs/culture/photographer/20111202_495506.html
>

●被災地域のストリートビューが公開

Googleにより、東日本大震災の被災地域のストリートビューが公開された。これはストリートビュー撮影車を使って被災地域を回り、震災の前と後の様子をパノラマ写真によりアーカイブ化し、公開するという試みだ。

◇未来へのキオク
< http://www.miraikioku.com/streetview/
>

私は被災地を訪れていないので、写真や動画でしか被災地の状況に触れていないわけだが、あらためてGoogle Mapでパソコンを操作しながら現地の状況に接してみると、あまりに規模の大きな災害だったことにに驚かされる。

初めにストリートビューで現地のパノラマ写真にアクセスした時は、一見普通の風景にも見えた。しかし、元々家やビルがあった場所に何もなくなり、瓦礫ばかりが積み重ねられている状況に気づくと愕然とさせられた。

そしてその光景が360°つながっているのだから、平面の写真とはまるで臨場感が違う。またすでに道路は開通して車も写っていたりするので日常感もあるのだが、それがかえって恐ろしさを増幅させる。

通常報道写真というのは、撮影者が意図を持って四角いフレームに収めるわけだが、撮影者が自分のイメージに合わせて切り取った非日常的な光景よりも、ストリートビュー車によりオートマティックに撮影されたパノラマ写真の方が、よりリアルに感じさせられる。

震災直後には、海外からたくさんのカメラマンが訪れて震災地の写真を撮っていった。そして、それらの写真が掲載された海外のWEBサイトでは、日本のメディアではあまり見かけないような報道写真が見られた。たぶんあの時期の日本には、世界中の著名報道カメラマン達が集結していたのだろう。

それらの写真を見て、クオリティーの高さにびっくりするとともに、何か違和感を覚えていた。報道カメラマンとしては当たり前のことだと思うが、その場の光を生かし、構図がバッチリ決まった写真はどこかウソ臭く、逆にリアリティーが損なわれているように見えたのだ。

もちろん360°のパノラマ写真によって一瞬を切り取るスチル写真が駆逐されるとは思わないが、閲覧する側が能動的に見たい場所を選び、拡大できる機能というのは非常に魅力的だ。また、とりあえずムービーやパノラマで撮影しておき、後から瞬間や部分を切り取るという手法は一般的になっていくんだろうなと思わせられたのだった。

●尾仲浩二「海町」展

尾仲浩二さんの写真展「海町」がギャラリー街道で開催される。これは尾仲さんが20年前から撮影してきた三陸地方の写真をセレクトした展示。キャビネサイズの写真をは一点10,000円で販売し、売り上げの50%を今回の震災で親をなくした子供たちへの一時金、奨学金「あしなが東日本大地震・津波遺児募金」へ寄付されるとのこと。

会期:12月17日(土)・18(日)・23(金)・24(土)・25日(日)
11:00〜19:00
会場:ギャラリー街道(東京都杉並区成田東5-23-2 いわとうアパートメント2F TEL.080-4404-5232)
< http://www.kaido-onaka.com/
>

●「第15回写真家達によるチャリティー写真展」への参加

私もチャリティー写真展に参加させていただく。こちらは225名の写真家のオリジナル作品を展示、即売するもの。やはり一点一万円で販売されるが、その場で持ち帰りとなるので、興味のある方は早めのご来場をお勧めします。
< http://www.stbears.com/pvj/
>

「第15回写真家達によるチャリティー写真展」
12月16日(金)〜18日(日)10:00〜19:00
富士フイルムフォトサロン・東京(六本木ミッドタウン)
< http://www.fujifilm.co.jp/photosalon/tokyo/s12/111216012.html
>

「写真家達によるチャリティー写真展15 Part.2」
会期延長で、12月21日(水)〜25日(日)10:00〜19:00
フレームマン・ギンザ・ショールーム(東京都中央区銀座5-1 銀座ファイブ2F)
< http://www.frameman.co.jp/ginzasalon.html
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