気になるデザイン[79]手前味噌ながら、私が編集した本のちょっと凝った造本
── 津田淳子 ──

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一時期、自分で編集を担当する本は、(定期的に出している、デザイン・印刷・紙・加工に関する実践情報誌『デザインのひきだし』は別にして)あまり特殊な紙をつかったり、印刷加工に凝ったりということをしないことが多かった。

それは、一番には予算の問題があるのだが、やりくりすれば予算はなんとかなる場合でも、「この本にはそういうことは必要ないな」とか、「私が担当する本は、特殊印刷加工ばっかりやっていると思われるのも嫌だな」とか、変な邪念があって、ムキになっていた、ということも否定できない。

でも、やっぱり、ちょっと変わったカバーや造本のものは、書店で目につく。そして気になって手に取る。実際、自分でも、他社や海外のおもしろい造本のものは、内容がなんであれ、とりあえず手に取ってみる。そしてパラパラ中身を見て気に入れば買っているのである。

そんなシンプルなことに気づいて以来、また、適材適所、その本に似合った仕様であれば、予算をやりくりして許される限り、造本に凝った本をつくるようにしている。

今回は手前味噌ながら、最近、私が編集した本で、ちょっと凝った造本にした本を二冊ご紹介させていただきます。

一冊名は、定期刊行している『デザインのひきだし16』(グラフィック社編集部編/2,000円+税)デザインはアジール。
< http://www.graphicsha.co.jp/book_data.php?snumber3=1187
>




Web上で書影を見ても、ぜんぜんわからないと思うのですが、実物の表紙を見てみると、中央に印刷された鳥が、なんだか変! キラキラ凸凹、触っても変!

実はこの鳥、モザイク細工のようなビーズで描かれているんです。アップの写真で見ると、少しは様子がわかっていただけるかと。

01.jpg数の子くらいの小さなプツプツのビーズで、カラフルな鳥ができているんです。『デザインのひきだし』って、印刷のこととかを掲載する本でしょ? ってことは、これも印刷!? と思われる方もいらっしゃるでしょう。そう、その通り、印刷なんです、これ。

今回はスクリーン印刷を特集したので、表紙もスクリーン印刷で「ビーズ印刷」をしていただきました。

ビーズ印刷、一見すると、色付きビーズを寄せ集めて模様をつくっているように見えますが、発行部数である一万冊分もそんなことで絵柄をつくるのは至難の業。では、どうやっているかというと、絵柄自体はオフセット印刷で印刷し、その上から、ビーズ加工を施したい部分にだけ、スクリーン印刷で透明の糊を印刷。

その後、透明の丸いビーズ(ガラス玉)を糊部分に振りかけると、下の色と干渉して、あたかも色付きビーズで絵柄をつくっているかのような効果がでる、というわけなんです。おもしろいですね。

もう一冊は『使い方がうまい! 紙もの・紙加工ものコレクション』(グラフィック社編集部編/2800円)装丁は名久井直子さん。
< http://www.graphicsha.co.jp/book_data.php?snumber3=1166
>

画像で見てもどうなっているかよくわからないと思いますが、上から茶色、黄色、ピンク、銀と色が違っている部分は、それぞれ別パーツでできている(いや厳密にはそうではないんですが、それは後述します)。つまり、茶色いカバーに、高さ違いの帯が三種類ついてる感じを思っていただくとわかりやすいでしょうか。

そして、茶色い、黄色、銀の紙は、すべて型抜きされていて、かつ、ピンクの帯はロー引きされているおかげでちょっと透け感がある不思議な感じになっている。

本書はタイトル通り、すてきな紙使いをしていたり、うまい紙加工をしている作品を多数掲載している。そんな本のカバーなので、それに見合ったものにしたい。

そんな考えから最初は、とにかくいろんな種類の紙を高さ違いにして、カバーが五重くらいになるもにしよう、という案で実現を模索していたんですが、予算の都合であっさり却下。多少のオーバーならどこかの紙を変えて予算調整......ということも考えられるんですが、もう笑うしかないほどの予算との格差。

そこでまずは紙をできるだけ安く、かつ普通の白いコート紙みたいのではないものとして、包装や封筒など使われる、茶色いクラフト紙に。色付きのトレーシングペーパーの代わりに、付箋等に使われる派手な色の上質紙にロー引き加工することで同じような雰囲気を出すことにした。

加えて、できるだけたくさんの帯に型抜き加工を施したい(もちろん予算内で)。そこで型抜きは一度に抑えることにした。......でも仕上がったものは、茶色、黄色、銀の三つに型抜き加工がある。これ如何に。

実はこの三つのパーツはすべて同じクラフト紙でできていて、かつ茶色と黄色のカバーと帯は一枚の紙を高さ違いで折って本に巻き、あたかも二つのカバーと帯がかかっているかのように見せている。

そして最後の、一番高さの低い銀色の帯、これは先程の黄色と茶色の一枚もののあまり部分を使用している。そのため、一枚ものと銀色の帯を組み合わせてみるとぴったりくっついて、大きな長方形の紙になる。それぞれ色が違うのは印刷で色ベタを刷ってるから。

とまあ、お金がないと色々知恵を絞るもので、結果として(金額は言えないけど)かなり安く、当初の目標に近いものができたのでした。

今回ご紹介した二冊は、今なら書店のデザイン書コーナーにあると思いますので、書店に行かれた際に、実物をごらんくださいませ。

【つだ・じゅんこ】tsuda@graphicsha.co.jp  twitter: @tsudajunko
デザインのひきだし・制作日記 < http://dhikidashi.exblog.jp/
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