気になるデザイン[82]「変形」な本をつくるのは難しいの?
── 津田淳子 ──

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本を読むのも眺めるのも大好きで、書店を日々、うきうき眺めているのだが、内容にまっっっっったく興味がなくても、どうしても買ってしまう本というのがある。それは「変形の本」だ。

通常は四六判だったりA5判、B5判など、長方形(正方形の本もあるけど)の本がほぼ大半。でも中には、丸かったり、凸凹してたりと、変わった形の本がある。それを見るともう、我を忘れてレジへ(笑)。

でも、こうした変形本、日本ではあまり多くない。海外だとけっこう見かけるのだが、これはどうしてだろう? と疑問に思い、それなら自分で一度やってみようと試したのが、『デザインのひきだし12』(ブックデザイン・ASYL)だ。
< http://dhikidashi.exblog.jp/15867083/
>

よく、力持ち自慢の人が、電話帳をビリッと破いたりしているが(でも最近見ないなぁ......)、そんなふうに本の上下をビリビリ破いた感じに型抜きしようということで、実践した。

ちなみにamazonに掲載された画像では、上下の凸凹部分はトリミングされてしまった。とほほ。
< http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4766122135/dgcrcom-22/
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これは変形の本としては、「松」の加工(松竹梅で言って)。大きなクッキー型のような刃型を作成して、出来上がった本をその刃型に押し付けるようにして、力ずくで抜き切る。加工自体も、B5サイズの本を型抜ける会社はあまりなく、もう少し小さなものしかできないと言われることが多い。




この加工は「ブッシュ抜き加工」と呼ばれているが、抜き型もけっこういいお値段なので、まずコストがかかる。またできる会社もさほど多くない。その上、仕上がった本を型抜きするので、一工程増えることになり、時間もかかる。制作上はその辺りがけっこう大きな問題。しかし、一番形が自由で、且つ大量生産できるので、値段も自由度も「松」というわけ。

デザインのひきだしは、こうした加工を紹介する本なので、予算を絞り出して、時間も捻り出したが、私が通常手がけている本だと、この予算は到底無理だろうな......。部数もある程度ないと、型代が出せない。

取次など流通上でも「問題がある」と言われると、事前に人から聞いていたが、『デザインのひきだし12』に関しては、実際には何も言われることはなかったし、書店さんからも、特に扱いづらいというおしかりもなかった(私の耳に届く限りは)。

というわけで、変形「松」加工は、お金や時間はかかるものの、流通上は、この場合は問題なし、という結果。

変形本、二冊目は『予算内でこんなにすてき! 小型グラフィック・コレクション』(ブックデザイン・名久井直子)。
< http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4766123700/dgcrcom-22/
>

これは、A4サイズより小さな印刷物を紹介した本で、「タグ」もいろいろ掲載しているため、本自体もタグ型にしよう、ということでスタート。でも、この本は『デザインのひきだし』に比べると初版部数が少ないこともあり、「松」仕様の型抜きは不可能。

そこで、抜き型はつくらず、本の上左右部分を断裁機でバシッと断ってもらうことにした。その際、どの本でも同じ位置で断裁できるよう、ちょっとした治具はつくってもらったものの、通常の断裁機でできる加工だったため、型代もかからず、かつ、製本所でできる加工だったので、他の作業場に本を移動させる時間もかからずで、めでたく、予算内で実現可能になったのだ。まあ、価格でいうと、こちらは「梅」の加工という感じだろうか。

この本の場合は、結構、大きく変形しているので、流通上で何か問題が起こるかな......と多少ドキドキしたが、実際には特に大きな問題はなし。書店さんからも大きなクレームはなかったが、上部の両肩がないので、平積みでなく書棚に入れた場合に、本に指が引っかかりにくく抜きにくい、というお話はいくつかあった。た、たしかに。盲点だった......。

でもまあ、特に混乱も大きな問題もなく、この「梅」ランクの変形本も世に送り出すことができたのだ。

この二冊を手がける前は、取次から何か言われるよ、とか、すっごい高いから到底予算がたりないよなどと、いろいろ言われたのですが、実際にやってみれば、多少手間ひまや段取りは必要なものの、無事にできた。うーむ、やはり案ずるより産むが易し。これからも、いろいろ試してみるが吉だな!

【つだ・じゅんこ】tsuda@graphicsha.co.jp  twitter: @tsudajunko

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デザインのひきだし・制作日記 < http://dhikidashi.exblog.jp/
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