3Dプリンタ奮闘記[15]3Dデータの普及が必要──3Dプリンタの活用、実製作について
── 織田隆治 ──

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前回は造形の基礎である素材選びについて書いた訳だが、今回は実際に3Dプリンタを使った製作について述べてみよう。

最近特にテレビ等でさかんに取り上げられ、いかにも簡単に造形が出来る、ともてはやされているようだが、そんな簡単には出来ないでしょ......とも思うが、それが一概にすべて違うとは言うつもりはない。

一般的には、今は3Dプリンタ自体が珍しい事もあり、パソコンの中にあったデータが魔法のようにが現実のもの、触れるものとして出現するに至っては、まずはその事に驚いて感動する。

3Dデータをパーソナルユーザー向けの3Dプリンタを使って出力する、ができるようになるのは、もうすぐそこまで来ている。

最近は安価で便利な3DCGソフトが出て来ているが、なんだかんだ言ってみても、やはり3Dデータは一般的ではないことは確かだ。

もっと一般に普及させるには、まず3Dデータの共有や配布等で、もっと身近に3Dデータを普及させる必要がある。

これにも色々と問題があり、一度ネットで解放されたデータは、歯止め無く広がってしまう事態は容易に考えられる。

例えば3Dデータを販売するに当たっても、今の音楽データや特殊なソフトのように、データにセキュリティガードをかけて、何回まで出力、コピー出来るとか、スパイ大作戦のように「なおこのテープは自動的に消滅する」とかいったものにしておく必要があるだろう。

また、無料で配布するにも限度もあるのだ。




例えば、工業製品のメーカーが、一般消費者(ユーザー)に対するサポートとして破損箇所の3Dデータをダウンロード出来る、というサービスなら可能だろう。そういったサービスもこれからもっと出て来るだろう。

メーカーはこれまでサポートとして保存しなくてはならなかった、大量の在庫を持たなくても良いことになるだろう。これから出る製品に関しては、その3Dデータをメーカー側が保存、管理する事で、その膨大な在庫管理の束縛から解放される。

全国の代理店や事業所、営業所に3Dプリンタを置いておき、ユーザーから故障箇所の連絡があれば、その3Dデータを元に出力、配送、もしくは取りに来て頂くようにすれば良い。

そういった意味でも、メーカーの側にも利点がもっと沢山あるだろう。

次に、設計、制作者としての場合はどうだろう。

工業製品の設計や製作に携わっている人に関しては、色々な3Dプリンタを使って仕事の効率化を計れる事は言うまでもない。

前にも書いたが、3Dプリンタで扱うデータは元々工業製品等の設計にも用いられる3DCADを使用して作られるソリッドデータだ。

このデータを製作出来る事と、使用する3Dプリンタの特性を把握すれば、これまで試作に費やして来た時間や経費等を、大幅に削減出来る可能性がある。

この3Dプリンタ自体で生産出来るものがあれば、これまでスライド金型等でしか表現出来なかったものや、複雑なスライド金型を使っても製作出来なかったものを作れるようになるだろう。

こういった、継ぎ目のない造形物を作れるという事は、これまで現実不可能とされていた形状を製作出来る可能性がある。

簡単に説明出来るのは、球体の中にある球体。

これまでは中の球体を作り、その上に被せるように半球等の状態のパーツを作って挟み込み、半球パーツを貼り合わせる必要があった。

しかし、3Dプリンタを使えば、その工程を大幅に削る事が可能となる。一回の出力でその造形が可能なのだ。

試作、量産にあたって必須だった金型データの微調整も、3Dデータの中で行え、3Dプリンタで出力しながら調整出来る。

こういった面でも、今後の3Dプリンタの進化に期待したい。

だが、いまの3Dプリンタの精度は、現在の精密な金型の精度にはまったく及んでいない。これは、積層していく工程で、必ずその段が出てしまう事にある。

この積層段をなくす事は出来ないが、そのピッチを細かくする事は可能だ。しかし、そのために製作スピードは当然落ちて行く。

今後、積層ピッチの精度アップ、スピードアップ等の研究、開発されていく事により、実際に量産に適応出来る3Dプリンタが誕生する日もそう遠くはない気がする。

これは、ソフト、ハード、素材とこの三つのバランスの取れた進化が必要だ。ソフトやハード、素材が三位一体となって初めて実現する。機械メーカー、ソフトハウス、素材メーカーの企業共同体等でタッグを組んで開発して行く方向が必須だろう。

【織田隆治】
FULL DIMENSIONS STUDIO(フル ディメンションズ スタジオ)
< http://www.f-d-studio.jp
>

日本製の3Dプリンターの開発に、もっともっと期待していいですよね? がんばって欲しいものです。ほんとに期待してます!