ところのほんとのところ[109]アートの世界は残酷だ、ということ
── 所 幸則 Tokoro Yukinori ──

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アメリカから帰国したら、成田空港からまず電話。いよいよ、[ところ]が育てた写真家集団「K Lovers Photogrpers」の東京展のオープン直前なので、順調に事が進んでいるかどうかが心配だ。

一番信頼している宮脇くんや穴吹くんに連絡。そしてギャラリーコスモスにも電話する。聞いている分には問題なさそうだったが……なんと、40点近い展示をするというのに、まだ誰もプリントを入れるブックマットの注文を出していないことが判明した。


おいおい、[ところ]は思わず声を出して「おいおい」と言ってしまった。全員が[ところ]のプリントチェックを待っていたというのだ。ちょっと待ってくれよ、すでに半数はチェックしてたはずだぞ。

終わった者からでも順番に送って頼んでおかないと、ブックマットが間に合わない。しかも、プリントもマットも傷まないように、ちゃんと四隅にビニールポケットを付けるように頼んでいるんだから、時間がかかるのが分ってないの?

[ところ]はそう思ったが、写真は上手くなりステートメントも随分書けるようになっても、写真の展示経験がないから、全員そのことに関しては素人同然なのだった。

これは[ところ]のミスだ。第一期・所幸則は29歳くらいで初個展、これまでにグループ展、個展合わせて100以上の展示をして来た[ところ]にとっては空気のようにあたり前のことでも、みんなには全然あたり前じゃないんだということに気がつかなかった。

急いで高松にもどり、全員に連絡をとり、集まれる人からプリンタールームに来てもらう。とにかくチェックできた人からドンドン送ってもらい、なんとか事なきを得た。

[ところ]もプリントをドンドンして、この展示の意味、この集団を作ろうとした意義、そして地元の百十四銀行の援助があって開催できたことへの感謝のテキストなどを書いた。それらも当然展示しないと、なんだかわからないだろう。書いたものがこれ。



百十四銀行学術文化振興財団の助成によりアートとして香川を撮り続けるフォトグラファー集団(所幸則主宰)K lovers photograpers TOKYO展を開催するにあたり

フォトグラファー集団“K lovers Photographers”について一言

いわゆるカメラ雑誌でいうところの“うまい写真”を撮る、あるいはFacebookで「いいね!」をもらえる写真を撮るというのではなく、自分のテーマ、被写体と真摯に向かい合い、作品を紡ぎ出すという写真表現、アートとしての写真に取り組む人々の育成が目的で生まれたものです。

半年間【フォト・ラボK】で基本的なアートについての講義ののち、情熱が高まった人達が“K lovers Photographers”に入り、アート県を標榜する香川県を“ファインアート”として撮り続ける、そういう集団です。

ここ数年のデジタルカメラの普及と飛躍的な技術革新により、良い写真はある程度の写真の知識とセンスや慣れで誰でも撮れるようになっています。つまり、良いカメラを持てば誰でも大衆芸術としての写真は撮れる時代になっているのです。

そこで“ファインアート”としての写真を軸に、フォトジャーナリスト的な方向性等も含め「eとぴあ・かがわ」と、大阪芸大写真学科客員教授でもある私こと所幸則が微力ながら、いわゆる“うまい”だけの写真から頭一個抜け出そうとしている人をバックアップできればと思っています。

普段見慣れた香川の風景も、フォトグラファーの目を通して表現されるとまったく異なる表情を見せます。

初めて香川を被写体にした写真を見る方にも、写真表現の可能性について感じられる写真展になっていると思います。

ぜひ今回の展示を見てなにかを感じていただければと思います。

主宰 所幸則



ということで、展示の設営が終わるところまでこぎつけた。あとはオープニングでどれだけの人を集め、ファインアートおよび写真を理解できる目利き達をどれだけ集めて、その人達の反応をみんなに見せられるかだ。アートの世界は残酷だということを、メンバーたちにわからせなければならない。

主催者紹介として、所幸則もマンハッタン1secondを二枚 高松1secondを二枚、【ところ】の代名詞でもある渋谷1secondを三枚展示した。

会場がオープンした。【ところ】の作品の前で立ち止まらないような目利きはいない。だがその後はスルー、スルー、3秒止まって、またスルー、そして60秒止まって、スルーして、また60秒止まって、またスルー、スルー、そして気になった数点の作品をまた見に行って、何分かいて、最後にまた[ところ]の作品をじっくり見て帰って行く。

もちろん個人差はあって、この時間が二倍だったり三倍だったりするだけで、大体パターンは同じだ。展示作品に対する[ところ]の評価も同じだった。

ハービー山口さんや、織作峰子さん、松本典子さん、東京フォトの実行委員、雑誌の編集長、編集者、美術評論家、あらゆる人に声をかけて来てもらい、その人たちの反応をメンバーたちに見せつけた。これは彼らにとって、今後すごい財産になることだろう。

そして、友人でもありアートコレクターでもあるi氏が、二枚のプリントを買って行った。もちろん将来を期待しての行為ではあるが、メンバーのふたりはすごく興奮していた。だけど儲かったとかじゃない。今回は、売れてもKラバーズの活動のために、少ししか手元に残さないという決まりだ。

売れたメンバーはこの嬉しさを糧にして欲しいし、自分のは売れずにそれを見ていたメンバーも悔しさを糧にして欲しい。ちなみに一万円以上じゃないと大事にされないと[ところ]は思っているので、それよりは高く設定している。

そして、撤収。あっという間だったけれど、自分の個展より疲れた一週間だった。こういった催しは、これからもドンドン続けて行きたいと思う。

さて、終わってまず高松にいったん戻る。高松は高松で、弟分にあたるフォトラボkの展示の真っ最中だ。そして、21日、高松のいろんな分野を盛り上げている〈るいまま〉というキャラのたった方とのトークショーが、フォトラボK3期生の展示会場で行われた。

この高松で、写真に関するトークショーに人が来るのか謎だったけれども、かなりの盛況で成功だった。4期生の募集の説明会がその流れで行われたけれども、これも予想以上の人が来てくれて、またまた抽選で決める事になりそう。せいぜい1.5倍ぐらいの競争率だろう。

とはいっても、落ちる人はいるわけで、それなりに審査もある抽選なので(これで抽選っていえるのだろうか?)まあ、熱く意気込みを書いた人が、くじ運も強いってことでよろしくです。

29日にまた〈るいまま〉とトークショーがある。その時は東京で展示したチームと残りのKラバーズの中から9人の追加で、17人の展示合計点数61点というかなり大きな展示のなかで、また写真について語り合うわけだ。

実際、〈るいまま〉相手だと[ところ]はいくらでも話せるから、21日より盛り上がるのは間違いない。その上、Ustreamでも生中継もするから、結構な人が見ることになるだろうね。その後、説明会もあるので、4期生はもっと応募者数が増えて狭き門になるかもしれない。さらに、31日にはNHKに取材された映像も香川のTVで流れる。

[ところ]は、5月からは大阪芸術大学に教授として講義に行く。東京と高松に大阪も加わることになる。広島はあまり行かなくてもよくなりそうだが、それでも以前より大変だし、また楽しみでもあるけれど、身体持つかなあ。

スキを見てNYやパリ、フィレンツェも撮りに行くし、東南アジアにも行く話が出ているから、健康管理はちゃんとしなければいけない[ところ]です。そこが一番心配でもあります。

【ところ・ゆきのり】写真家
CHIAROSCUARO所幸則 < http://tokoroyukinori.seesaa.net/
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所幸則公式サイト  < http://tokoroyukinori.com/
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