Dの憂鬱[31]ユニクロの新サービスに絡むネット上の騒動について考えてみた
── 笠居トシヒロ ──

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まいどー、笠居です。なんかもうすっかり夏の気候ですねー。なにを着たらいいのか、毎朝迷ってしまいますわ。でもよく考えたら、まだ梅雨いりもしてないんですよね。なんかそれ考えると憂鬱(^_^;)

さて、今回は前回の自転車いぢりの続きを書く予定だったんですが、その前にこの週明けにネットで話題になっていた、ユニクロの新サービス「UTme!」に関して、ちょこっとだけオレの意見を書いてみたいと思います。

「UTme!」はスマートフォンアプリ(PC版もあります)を使ってTシャツのプリント柄をデザインし、その場で購入できるサービスで、ユーザーの持つ写真やイラストを使った「自分だけのTシャツ」を作ることができます。
< http://utme.uniqlo.com/
>

システムを作ったのは、かの有名な中村勇吾氏率いる「tha」で、手描きで模様を描く「PAINT」も、写真や文字を配置したあとでスマホをシェイクしてエフェクトを与えるリミックス部分のロジックも非常にセンスよく、誰が作ってもカッコいいデザインが出来上がるように工夫されています。
< http://tha.jp/
>

が、ネットでの話題は、利用規約に書かれていた、このアプリで作成した成果物(Tシャツのデザイン)における「著作権」に関する部分の記述についての非常にネガティブなものでした。




5月19日のサービス開始時の利用規約には、全著作権をユニクロに譲渡することのほか、オリジナルの著作者が持つ公表権などの「著作者人格権」も行使できないと定められてました(現在は修正されています)。
< http://utme.uniqlo.com/terms_ja.php
>

スマホアプリ内の規約はまだ改定されていないはず(Appleの審査期間が少なくとも5〜7日位かかる)なので、アプリを持っているひとは古い利用規約を確認できるかと思いますが、下記のようなことが書かれてました。

"ユーザーは、投稿データについて、その著作物に関する全ての権利(著作権法第27条及び第28条に定める権利を含みます)を、投稿その他送信時に、当社に対し、無償で譲渡します。"

"ユーザーは、当社が実施する各種キャンペーン等に投稿データが使用されることに同意するものとします。"

ようするに、出来上がったTシャツのデザインはユニクロが自由に使用できる、と読めます。また、法律的に譲渡できない「著作人格権」の部分に関しては下記のように。

"ユーザーは、当社及び当社から権利を承継しまたは許諾された者に対して著作者人格権を行使しないことに同意するものとします。"

著作人格権というのは、著作者がその著作物の使用方法について「否」を唱えることが出来る権利ですので、上記の条項に同意するということは、ユニクロがそのデザインを使ってどんなことをしても文句をいう権利がない、ってことになります。

てなわけで、「なんじゃこれ! ひどいな。ワシラが作ったもんをユニクロが勝手に使えて文句も言えないってナニよ!」という反応が各所で沸き上がってきたということなんですね。

で、ユニクロはこういった反応を受け、サービス開始の翌日(5/20)に利用規約の改定を発表しました。
< http://utme.uniqlo.com/news_ja.php
>

"投稿データの著作権はユーザーに帰属します。"

と明記されたことが一番大きな変更点ですね。まぁ、文句を言っていたユーザーからしたら、めでたしめでたしという話。

なんですが、オレは改定前からこの規約については「こういったサービスを提供する企業側からしたら当然」だと思ってました。

オレが最近こういったサービスを企画する側に居るせいかもだけど、このぐらいの予防線は張ってアタリマエと思うわけです。

まず、先に上げたこのアプリの「デザイン制作機能」の部分でも書きましたが、「誰が作ってもカッコいいデザインが出来上がる」わけで、裏返せばデザインの半分くらいは「アプリが作ってる」ということです。

デザインの重要な要素となる、色・形・タイポグラフィ・配置などは、アプリ機能の制約の中で作成されますが、これらがどんなふうに組み合されてもカッコよくなるよう綿密に設計されているので、デザインについて専門的な勉強をしたことがない人はおろか、まーったく美的センスのない人が作っても「それなりにカッコいいもの」が出来上がります。

オレの感覚では、成果物の著作権の半分はアプリ(を制作したtha)が持つことになるんじゃないか、と思うわけです。

以上のことは「自分で描いた(あるいは撮影した)画像を使用し、アプリのエフェクト・描画などは全く使わずにデザインを作成した」ひとには当てはまりませんよ、もちろん。そういったひとは、ホントに注意して投稿・注文してね、ってことになります。

で、このアプリの機能を使用した成果物をもって、作成したユーザが最大限その「権利」を主張した場合、どんなことが起こるか考えてみましょう。

まず、作成したデータを何らかの方法で取り出し(スクリーンショット撮れば簡単ですね)、他の業者に安く大量に印刷させて販売する、なんてことができちゃいます。

利用規約には転売の禁止を謳う項目がありますが、自分が権利を有するデザインを使用して別途製作しちゃダメとは書いてありません。

また、将来ユニクロがこのアプリを進化させた「自動デザインシステム」なんてものを作り、このシステムで作ったオリジナルデザインを販売したとします(ホントにそんなことがあるかどうかは知らんでー)。

ところが、そのデザインが「たまたま」今回のアプリでとあるユーザが作成したものによく似ていたという場合(いや似るでしょ普通に)、ユーザーから著作権侵害で訴えられるなんて危険性もあるわけですよね。

まぁ、上記2点に関しては、権利帰属の一番最初に「アプリ(システム)そのものの知的財産権」が記載されているので、「そのデザイン作れたのはこのアプリのおかげでしょう?」ってユニクロ側からの反論はもちろん出来ると思います。

"当社ウェブサイト及び本サービスに関する知的財産権は全て当社または当社にライセンスを許諾している者に帰属しており、本サービスのご利用によって、当社ウェブサイトまたは本サービスに関する当社または当社にライセンスを許諾している者の知的財産権の使用が許諾されるものではありません。"

もう一つ、禁止事項の部分で「投稿データが第三者の権利を侵害」しないように、という項目がありますが、ハッキリ言って一般ユーザーがイチバン信用出来ないところ、イチバン無知なところがこの部分だと思います。

「自分たちの権利が侵害されるんだ!」って騒いでいるひとが「ミッキーのイラスト使ってデザイン作っちゃお」なんてことをやる人とイコールだなんてことはザラにあります。

やっちゃダメ、って規約に書かれててもアプリからの投稿は自由にできちゃうので、この場合は「半分以上アプリが作った」の部分が、逆にユニクロ側の枷になってしまうこともありえます。

そういったことを出来るだけまるくおさめるとしたらどうするか? というと、いったん権利は全部ユニクロが預かり、真の著作権者の不利益が生じないうちに闇へ葬る、ってのが一番妥当な策なんじゃないかな、と思うわけです。

正直、著作権の部分を全面改訂しちゃって、上記のような問題が起こった場合の対策が考えられてるのか、ってのが非常に心配ですが。

で、ふつうの企業なら、この規約原案から予想されるこういったことを聞いた時点で「そんな面倒なことになるんだったらこんな企画やめるわ」っていうと思うんですよね。

ユニクロについてはいろんな批判もありますが、こういった新しいことに取り組み実行に移していく姿勢ってのは、評価されてもいいとオレは思うんですけどね。

なんか徒然に思ったことをそのまんま書いちゃいましたが、とりあえず今回はこれまで。また次回は自転車話に戻りますんで、よろしくおつきあいの程をー。

【笠居 トシヒロ/WEBディレクター、デジタルハリウッド大学院客員教授】
< http://www.mad-c.com/
> < kasai@mad-c.com >

なんとなーく吉井さんとネタかぶりしそうなヨカーン(笑)
梅雨が来る前にどこか気持ちのいいところをポタリングしたいなーなんて思ってる今日このごろ。お仕事絶賛募集中ですw よろしくお願いします(^^)v。

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