ところのほんとのところ[134]カメラ大国だからアート教育が貧弱?
── 所 幸則 Tokoro Yukinori ──

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初めての広島での個展、若手クリエイターたちが共同で借りているスペースでやらせてもらった。意外な反応だったかな。

広島は現代美術は頑張ってるほうだし、写真も昔からあるコンサバなスナップというか、数十年前からストップしているような写真の世界で充分頑張ってる人たちもいるようだ。その話はまた後でするとして。

初日は15時からオープンの予定だったが、タイトルの位置やら細かいところを15時半くらいまでいじっていたら、[ところ]より年齢はちょっと上のご夫婦が入ってきた。

そう広くない会場をものすごくじっくり眺めて、写真集も「アインシュタインロマン」と「ワンセコンド渋谷」の二冊をじっくり眺めてくれていた。

まだ外に個展の告知板も出せていない16時過ぎ、面白いわねー、見たことがないわ、これなんか好きだわ〜、といった話を[ところ]も交えてしていた。そのうちに告知板も出て、なんとか形になったのは16時半近くにもなっていた。




現代アートは好きでよく見ているらしい二人は、楽しかった〜といって帰って行った。その5分後、男性の方がまた入ってきて、本一冊くださいと言いうので「アインシュタインロマン」にサインをしてお渡しした。

聞いてみると、広島といっても地域は広く、二時間近くかけて来てくださったようだ。写真集を買うのも何年ぶりかなあ、とのこと。それほど大々的な告知をしたわけでもない。口コミとfacebookぐらいだろうか。

二人が帰った後から、じわじわ人が集まり始めた。[ところ]が大学時代に担当だった、助手の長谷川さんが来て下さって、およそ35年ぶりの再会だった。

画家の方がなんども来てくれたり、わざわざ香川県から来てくれた人も。香川の人は[ところ]が高松市で「フォトラボk」をやっていることを知らなかったけれど、個展はfacebookで知ったそうだ。「フォトラボk」は、ちょっと広報が不足しているかなと思う。

個展に来た人の、すげえ!、脳に衝撃が走った、見たこともないような写真だ、といった反応がとても面白かった。なかでも巨大プリントは、ほとんどの人が反応していた。

ここでも写真を楽しんでいる人は多いが、現代アートとしての写真の活動はほとんどない。でも現代アートで活動している人も、それを楽しむオーディエンスもいる。だから「アインシュタインロマン」を見て感動する人が多い。

広島とはちょっと面白い場所だなあと思う。だが、写真で自分ならではの表現を考える、考えさせるような教育機関はここにはない。とはいっても、実は関東以外にはほとんどないと言ってもいい。いや関東ですら危ない。日本以外の先進諸国の多くでは、アート教育自体が小さい頃からなされている。日本はもともとないに等しい。

最近では私立の幼稚園や小学校あたりで、地元のアーティスト達との交流が盛んな町もあったりするが、中学高校になるとどうなんだろうか。

特に写真に関しては、日本はカメラ大国であるゆえに、アート教育は邪魔な存在かもしれない。どこの世界でも施政者にとっては国民がバカな方がいいわけなのだから。そこに刃向かうものは邪魔な存在かもしれないと思ったりする。

いま「写真はjpegでいいじゃないか」と、メーカーは言いたくて仕方がない。カメラによっては、あらゆるフィルターワークでいいトーンを出してくれる。ただし、データはjpegになってしまう。

今のカメラのrawデータは、すごいデータ量をその中に持っている。かつてのの銀塩フィルムはすごい種類があって、現像液も何十種類もあって、数え切れない組み合わせと、数え切れないテクニックで、作家ならではの表現スタイルを選んできた。そこにプリントという要素も加わる。

RAWデータは、現像ソフトできちんと現像することで、銀塩よりもっと幅が広がる可能性を秘めている。そしてプリントワークも、昔の写真家が命がけでやっていたのと同等のことができるようになってきているのだ。例えば、ライトルームとプロ用のちゃんとしたプリンターを駆使すれば。

それなのに、メーカーはjpeg押しで、楽してきれいに撮れるといった広告や記事をばら撒く。逆に、もはやフィルムも現像液の選択肢もほとんどないのに、銀塩をやるのが本格的、というような幻想を抱く人も増えてるのは皮肉なことではないか。

しかも話を聞くと、「銀塩でやってる僕ってカッコイイ」と思っている人は、大手チェーンのカメラ屋さんに現像に出している。信じられない思いの[ところ]です。みんな「フォトラボK」に来い。と言いたいけれど、そんなに沢山の人を受け入れるキャパは持ってない。難しい問題だなあ。


さて、週末はスペシャル対談2です。写真家同士のトークショーになります。1月30日(土)16:00〜 所幸則×河西春奈場所についてはこちらで確認ください。入場無料です。
http://tokoroyukinori.com/exhibition/einstein_romance/


「ファインアートに於いての写真」について語りあう予定ですが、河西さんは[ところ]の作品の持つ身体性のようなものを語れたらいいなと思ってるそうで、どんな話になるか楽しみですね。

河西さんは、映像作家時代からの世界的な賞を数多く受賞され、また写真家と
しても同様の活躍をされています。写真家同士ならではの興味深い話になるのではないかと思います。
http://www.haruna-kawanishi.com/japanese/index.htm



【ところ・ゆきのり】写真家
CHIAROSCUARO所幸則  http://tokoroyukinori.seesaa.net/

所幸則公式サイト   http://tokoroyukinori.com/