3Dプリンター奮闘記[92]3Dプリンターと楽しい未来
── 織田隆治 ──

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あっと言う間に2月が終ってしまいました。普通なら30日あるのに、この2日は大きい! ですよねぇ…。とにかく頑張るしかないのです。

さて、すでにコンシューマー機として、3Dプリンターが世間に登場して5年ほどの時間が流れてきました。

大型家電量販店等にも、少しながらも3Dプリンターのコーナーができたり、企業内にも3Dプリンターが設置されたり、大学や専門学校等にも3Dプリンターが導入され、それを教える学科も設けられてきました。

僕的には、かなり3Dプリンターの普及度、認知度も上がってきたなぁ〜って思っています。そういったお問い合わせも多くなってきていますし。

しかし、現実はまだまだなんだと実感する出来事がありました。

「3Dプリンター、というモノが、あるのは知っている」というのが、実際のところなのです。「3Dプリンターというモノがあり、簡単に立体を作る事が出来ることは知っている」という感じが正しいですかね。





先日、僕が以前勤めていた会社の先輩デザイナーから電話がありました。先輩も、会社を辞めて独立されて、色々な世界で活躍されている方です。

「織田君、久しぶり! ちょっと相談があるんだけど……」

という言葉から始まったのが、ある展示会に出品する展示物の一部を、せっかくなので3Dプリンターで作ってみたいんだけど、その制作をお願い出来ないか? というものでした。

僕的には、先輩デザイナーのお役に立てるし、面白い展示会なので協力したいところ。内容を聞いてみると、3Dプリンターで出来る案件。

先輩「そこをさ、ちゃちゃっと作って欲しい訳なのよね」

……ん!?

僕「えっと、3Dプリンターで作るには、3Dデータからまず制作しないといけないんですよね」

先輩「そうなの? 3Dプリンターがあったら、簡単にササっと出来るものだと思ってた!」

僕「3Dデータを現実の世界に出現させるのが3Dプリンターなんですよ」

先輩「そうなんだ。知らなかった。3Dデータってどうやって作るの?」

僕「ええっと、まずデザイン画なんかを用意して、それを見ながら僕が3Dモデリングする訳です」

先輩「それって、結構手間かかるよね〜」

僕「そうなんですよ。形にもよりますけど、ある程度はかかりますね」

先輩「それじゃ、二〜三日はかかるよね」

僕「そうですね〜。それから出力して、研磨して仕上げて……」

先輩「え! テレビとか見たら、きれいなのがササっと出てくるじゃん」

僕「あ…。あれ、テレビだからです……。面倒なところはカットされてる事多いっすよ。実際、積層して立体を造形して行くわけで、等高線みたいに積層痕が出来るんですよ」

先輩「うわぁ、そうなんだ…。知らなかった。って事は、結構コストもかかるよね」

僕「そうなんですよねぇ」

先輩「めちゃくちゃ急ぎで、しかもコストが結構かかるんじゃ、ちょっと無理かなぁ」

僕「そうですねぇ……。さすがにその納期では難しいかも……」

という感じで、結局時間的、諸費用的に協力する事は出来ませんでした。

ジャンルは違えど、デザイナーとして活躍している人がこんな感じですので、まだまだ一般には浸透してないんだろうなぁ……なんて思ってしまいます。

僕が学校等で教えているのは、まさにそういった「手間」の部分です。

やっぱりテレビなどの特集では、そういった「手間」の部分がハショって放送される事がほとんどで、3Dプリンターによる制作の一部しか紹介されていないんですよね。

まあ、自分から日頃興味を持って、情報を取っている人は別なんですが、一般
的にはまだまだこんな感じなんでしょうね。

そういえば、そういった工程を紹介している記事や番組を見た事ないですね。

猛烈に簡単にその工程を説明すると、こんな感じになる訳です。

1)まず、3Dモデリングをして3Dデータを制作

2)後工程の事を考えて分割等

3)3Dプリンターに合ったデータを制作して出力角度調整

4)出力。結構時間かかる。たまに失敗する(笑)

5)出来上がったものの積層痕をひたすら研磨して消す

6)下地処理をして塗装する

7)出来上がり〜

そこまでの工程を説明する必要があるのか、って事にもなるんですが、今の現状はそんなものです。正しい知識として、こういった事も取り上げて欲しいなぁ、なんて思います。

模型雑誌や、専門書にはそういった事もかなり書かれてきていますが、一般向けにね。

前にも紹介しましたが、コンシューマー向けの3Dプリンターも、積層ピッチがかなり細かくなり、積層痕もかなり目立たなくなってきたり、プリント速度も上がってきました。

3Dデータもフリーデータがかなり出て来ていますし、そういった3Dデータを販売するサイトも出て来ました。

でも、今のところまだ一般的に普及、もしくは認知された、という状況ではなく、まだまだ発展途上なんですね。

その原因として、やっぱり「3Dデータ」という壁があるんですね。現在のところはまだ「3Dデータ」ってのは敷居が高いもので、気軽に扱えるものではありません。

インクジェットプリンターの普及の時にも、同じような段階を踏んでましたね。

いつか、そう遠くない未来(って聞いた事あるフレーズだな)、インクジェットプリンターみたいに普及する時が来るのかもしれませんね。

ま、その時が来るまでは、僕の仕事もなくならない訳でして(笑)

今、IoTなんかの発展で、3Dプリンターもそうとう注目されています。3Dプリンターって、ある意味、転送装置でもある訳ですよ。そう、あの「スタートレック」や「ザ・フライ」の「立体物の転送装置」ですね。

離れた所に「Gコード」(3Dプリンターで出力するための積層データ)を送ると、それが3Dプリンターで再現される。

まあ「元の物体」が消えてしまう訳ではないので、「スタートレック」って訳にも行かないんですけど。

世界のどこにいても。同じ3Dプリンターと環境さえあれば、そういった事も可能な訳です。いやはや、ちょっと前までは「SF」的なモノですねぇ。

今では、宇宙にもデータが送れる時代になってますし、そういった「Gコード」さえ送れたら、いつでもどこでも同じものが手元に出現する時代になりました。

そう考えると、「3Dプリンター」ってロマンがありませんか?

まさに「夢の機械」!

ま、現実はそう簡単には行かないんですけど、完璧なデータと3Dプリンターさ
えあれば、それが本当に出来ちゃうんですよね。

裏には色々な問題も沢山あるんですが……。特に著作権の問題とか、意匠権の問題とかね。

簡単に(昔から比べると)そういったコピーが出来る時代になった訳ですが、そういうデータの取り扱いにも、色々な工夫が考え出されて来るんでしょう。

未来は楽しい!(はず!)

最近は暗い未来しか話題にならないですが、そういった事だけでなく、「楽しい未来」も、もっと取り上げられてもいいんじゃないかなぁ。

ほら、オッサン世代の子供の頃って、「楽しい未来」ってのが色々あった訳です。未来はこんな感じになる! とか、少年雑誌には特集されてたりして。

そういった「楽しい未来」ってのをどんどん作っていかないと、若い人の夢とか希望とかなくなっちゃうじゃないですか。

やっぱり未来は「ロマン」ですよ。ね? そう思いませんか?


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