[5087] ミステリ界の詩人?◇WindowsのIME切り替えをMac風に

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《ずっとWindowsな人はどう思うんだろう?》

■日々の泡[041]
 ミステリ界の詩人?
 【幻の女/ウィリアム・アイリッシュ】
 十河 進
 
■グラフィック薄氷大魔王[671]
 WindowsのIME切り替えをMac風に
 吉井 宏
 



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■日々の泡[041]
ミステリ界の詩人?
【幻の女/ウィリアム・アイリッシュ】

十河 進
https://bn.dgcr.com/archives/20200923110200.html

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先日、「週刊現代」の「酒井和歌子に夢中になった時代」という特集について書いたけれど、その記事の中に僕の「酒井和歌子さんが悪女を演じた二時間ドラマ」についてのコメントが採用されていた。二十分ほどの電話取材だったが、そのことが取り上げられるとは思わなかった。

その二時間ドラマについて話した後、ネットの「テレビドラマ・ベータべース」で調べてみたら、「仮面の花嫁」(1981年3月14日放映)というタイトルだった。酒井和歌子と愛川欽也の共演で、監督が神代辰巳だったのは記憶していた。原作はウィリアム・アイリッシュの「暗闇へのワルツ」だ。

この二時間ドラマは酒井和歌子が出ていたので予備知識もなく見始めたのだけれど、始まってすぐに「これ、『暗闇へのワルツ』だぞ」と気が付いた。その十二年前には、フランソワ・トリュフォー監督によって「暗くなるまでこの恋を」(1969年)として映画化されたミステリだ。

トリュフォー監督は、ウィリアム・アイリッシュ(別名コーネル・ウールリッチ)のミステリが好きなのだろうか。「黒衣の花嫁」(1968年)に続いての映画化である。「黒衣の花嫁」はジャンヌ・モロー主演で、タイトルからも想像できるように、男たちに復讐を果たしていく女の物語だった。

「暗くなるまでこの恋を」(何という邦題だろう)は、ジャン=ポール・ベルモンドとカトリーヌ・ドヌーヴの共演である。南米で成功した農園主はピクチャー・ブライドで本国から花嫁を迎えるが、やってきたのは絶世の美女。女の虜になった農園主は破滅に向かい、やがて犯罪さえ犯すことになる。

カトリーヌ・ドヌーヴが演じた怪しく謎めいた悪女は魅力的ではあったけれど、心底からの悪人で悪魔的だった。二〇〇一年にはアンジェリーナ・ジョリーが同じ原作を「ポアゾン」として映画化し、あの大きな目でゾクリとさせる悪女を演じた。相手役は、ラテン系セクシー男優と言われたスペイン出身のアントニオ・バンデラスだった。

ドヌーヴが演じた悪女を二時間ドラマでやっている酒井和歌子に、僕はひどく戸惑ったものだ。すでに三十をいくつか過ぎた酒井和歌子だったが、僕は彼女を見るとまだ「清純」「清楚」といった文字が頭に思い浮かぶのだった。ただし、相手役の愛川欣也は、女に溺れて犯罪者になっていく気の弱い男の役には向いていた。

「テレビドラマ・ベータべース」で調べて初めて知ったのだけれど、酒井和歌子は神代辰巳監督と組んで「悪女の仮面」(1980年)「愛の牢獄」(1984年)「死角関係」(1987年)「函館殺人夜景」(1990年)といった二時間のミステリドラマを作っているらしい。この時期(要するに彼女の三十代)、悪女ものに傾倒していたのだろうか。

さて、カトリーヌ・ドヌーヴ、酒井和歌子、アンジェリーナ・ジョリーとフランス、日本、アメリカのトップ女優によって何度も映像化されるのだから、「暗闇へのワルツ」は人気のあるミステリなのだろう。昔は早川ポケットミステリで出ていて、けっこう分厚い作品だった。アメリカで出版されたのは一九四七年のことだ。

だが、ウィリアム・アイリッシュの代表作といえば「幻の女」である。世界のミステリ・オールタイムベストテンが選ばれるとき、エラリィ・クイーン「Yの悲劇」、アガサ・クリスティ「アクロイド殺し」「ABC殺人事件」、ヴァン・ダイン「僧正殺人事件」などと並び必ず挙げられる古典的名作である。

初めて「幻の女」の日本語訳が出たとき、その冒頭の一行が話題になったという。「夜は若く、彼もまた若かった」というフレーズだ。アイリッシュは「ミステリ界の詩人」のように受け取られたのだろうか。ロマンチックでセンチメンタル、謳うようなフレーズが散りばめられている。もっとも、「幻の女」は意外な犯人で有名な作品だ。

「幻の女」を読む前、たぶん中学生の頃だと思うが、僕はNHKが「幻の女」を単発ドラマにしたのを見たことがある。妻が殺され、夫が逮捕される。夫は、死刑を宣告される。夫の愛人(だったか秘書だったか)が夫の友人と一緒に探偵役となり、唯一のアリバイ証人である「幻の女」を捜す。だが、死刑の日は刻々と迫ってくる。

物語を単純に要約するとそうなるのだが、夫の友人を若き山崎努が演じていた記憶がある。その他のキャストはすっかり忘れたが、刑事役で内田稔が出ていたのはなぜかよく憶えている。たぶん、最後のドンデン返しのシーンに内田稔が(確か車のトランクから)飛び出してきたとき、びっくりした僕は画面そのものを絵画のように記憶したのだ。

もっとも、その頃、僕はよく見る脇役俳優だとは思っていたが、「内田稔」という名前を知るのはずっと後のこと。好きな俳優で、映画やテレビにいっぱい出ていた。今、記憶を探ると薬師丸ひろ子の「Wの悲劇」(1984年)での劇団マネージャー役が浮かぶ。記者会見シーンでは、薬師丸を挟んで並んだ気難しげな演出家役の蜷川幸雄とは好対照だった。

その内田稔によって犯人が明かされると僕は本当にびっくりしたから、「幻の女」を初めて読んだときには「こいつが犯人なんだ」とわかっていたので、ミステリとしてのおもしろさはあまり感じなかった。妻が殺された時刻、夫は行きずりの女と一緒に酒を飲み舞台を見ていた。その目立つ帽子をかぶった女を誰も記憶していない、という不自然さの方が僕は気になったものだ。

それでも、やはり「幻の女(ファントム・レディ)」はミステリの名作だと思う。その後、似たような設定やトリックは山のように現れただろうが、最初に書いたのはウィリアム・アイリッシュだったのだ。原作が出て二年後にハリウッドで映画化された「幻の女」(1944年)を、つい最近、見ることができた。当時のニューヨークの雰囲気がよく分ったし、ジャズの演奏シーンも楽しめた。

ただ、どうして原作をズタズタにして、まったく違うものにしてしまったのだろう。原作のプロットでは、観客には理解できないと考えたのだろうか。早々に真犯人をバラしてしまうし、何のために「幻の女」を映画化したのかわからない。「幻の女」の存在を解明しないと観客は満足しないと考えたのだろうなあ。それにしても、ひどい。ウィリアム・アイリッシュは、たぶん納得しなかっただろう。

週刊現代 2020年8月8日・15日号
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■グラフィック薄氷大魔王[671]
WindowsのIME切り替えをMac風に

吉井 宏
https://bn.dgcr.com/archives/20200923110100.html

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●WindowsのIME切り替えをMac風に変更

Windowsでスペースバーの左右にある「無変換」と「変換」キーが、Macの「英数」「かな」キーのように使えるようになる予定らしい件について、ちょうど1年前に書いた。
https://bn.dgcr.com/archives/20190904110100.html


参考にしたのはさらに10か月前の記事だけど、最近何かで「このWindowsアップデートでIME切り替えがMac風にできるようになる」と書かれてて思い出し、そういや今はWindowsマシンがあるんだから試してみなきゃ、と。

IT media NEWS『「半角/全角」キー不要に? WindowsのIME切り替えがMac方式に』
https://www.itmedia.co.jp/news/articles/1812/26/news094.html


しかし、アップデートに含まれてたのかどうか、どこで設定するのかわからない。結局「Windows IME切り替え Mac風」で検索すると出てくる記事を参考に、「無変換」&「変換」キーを「IMEオフ」&「IMEオン」にキー設定をカスタマイズする方法でいちおう成功。おかしいな。一発設定できそうなもんだが。

とりあえず、Mac風のIME切り替えにできたわけだが、ホント便利。かな/英数どちらのモードなのか確認しなくていいのは快適。つまり、かなを打ちたい時は「かな」を押してから打ち始めるわけで、シンプル。「半角/全角キー」よりぜんぜん便利だと思う。ずっとWindowsな人はどう思うんだろう?

●Mac標準日本語IMの「ライブ変換」

ATOKを使うのをやめ、Mac標準の日本語IMを使うようになって丸二年。昨年書いた「日本語IMの不便を克服」の段階で、ほぼ慣れてたし、その後も使い続けてる。

何度か変換候補の順番が不自然になって効率が悪くなり、変換学習のリセットを行ったりもしたけど、大きな問題はない。iOSでも同じユーザ辞書が使えるのも快適。

グラフィック薄氷大魔王[619]日本語IMの不便を克服
https://bn.dgcr.com/archives/20190724110200.html


「ライブ変換」はこまめにオンオフする方がいいとか言いつつ、実際にはほとんどライブ変換をオンにすることはなかった。

ところが、最近iPadで滅多に使わないキーボードカバーを使ってテキストを書いてたところ、思いっきりライブ変換される。おかしいな、今までこんなことなかったのに。オフにする方法を探すのも面倒なので、そのまま書いてた。

そしたら、なんかライブ変換がしっくり来た。打ち込む最中に次々と変換されたり、変換語が後で書いた語句によって次々に挿し替わったりするのだが、リズムに乗りさえすればかなり心地良い。

Macに戻ってあらためてライブ変換オンでしばらく使ってみているけど、なかなかいい感じ。少し慣れれば、話すような速さでテキスト打ち込みできるようになるかもしれない。

ファイル名の打ち込みなど、短い言葉ではちょっとイラつくこともある。スペースキーを打つ頻度が少なくなって、効率が格段に上がるように見えるけど、適切でない変換を修正する手間もあるし、変換候補を番号で選べないから、けっこうスペースキーを押すことになる。とんでもなく速いってわけでもなさそうだ。

それでも、ライブ変換でテキスト書きはなかなか新鮮。ちょっと頑張ってライブ変換を使ってみるつもり。

・今年の3月リリースのiPadOS 13.4アップデートで、ライブ変換が搭載されたそう。なんだ最近だったのか。今のところハードウェアキーボードでしか使えないが。

・iPadのライブ変換のオンオフは、「設定 → 一般 → キーボード → ハードウェアキーボード → ライブ変換」です。


【吉井 宏/イラストレーター】
HP  https://www.yoshii.com

Blog https://yoshii-blog.blogspot.com/


「未来少年コナン」で、ラナが可愛がってるアジサシの「ティキ(Tikki)」。ラナの声優さんが「テキ」と言ってるのは、「テーシャツ」「アイステー」などのように世代的なものなんだろう。と思ってたのだが、登場キャラのリストを見たところ、「テキィ」だった! 「テキ」で正しかったんだ。42年ぶりに誤解が解けたw

◯所属してるパリのエージェントCostume3piecesの毎年恒例の展覧会、今年は新型コロナの影響で、バーチャルで開催(9月末まで)。仮想ギャラリーで33名のアーティストの作品が見れます。今回のテーマは「小屋(cabanes)」。僕は回して見れる3D作品を出してます。
https://www.costume3pieces.com/cabanes/


○吉井宏デザインのスワロフスキー

・三猿 Three Wise Monkeys
https://bit.ly/2LYOX8X


・幸運の象 LUCKY ELEPHANTS
https://bit.ly/30RQrqV



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編集後記(09/23)

●偏屈BOOK案内:山口謡司「文豪たちのずるい謝罪文」

帯がうまい。「『先生! それはないでしょう!?』借金、浮気、締め切りの言い訳に文豪の名文が冴える!」。第1章:金! 金をくれ! 第2章:〆切から逃げろ! 第3章:文豪VS文豪 第4章:不倫の言い訳 第5章:死ぬ理屈 という構成である。筆者は大東文化大学文学部教授、専門は書誌学、音韻学、文献学。

原稿料前借りの常習犯ともいうべきなのが、あの文豪、太宰治。この本で公開された借金の依頼状が、あまりに情けなすぎてガックリくる。本人もまさか後世で公開されるとは思っていなかっただろう。わたしは太宰は数作読んで投げ出したから、こんな裏事情を読んでも、フン、恥知らずな男だねえとしか思わないが、本当の太宰の姿を知った太宰ファンは、そうとう落胆するに違いない。

筆者はその前借り依頼状の、言葉遊びをみごとだと評する。「その二百円ではうばうの不義理支払ふことができます」と書くが、「不義理」とは、人が守るべき道、あるいは他人に対して、立場上努めなければならないと意識することを「義理」というのだろうが、それを否定する言葉であり、金の返済を怠ることとして使われていたのが、太宰治くらいの世代までだろうと筆者は考える。

「ご休心ください」という言葉も出てくる。いまは「ご安心ください」か。借金魔にそう言われてもなあ。安心の「安」の字は、うかんむりの下に女と書くが、古代中国では女性は家から出られなかったため、家の中にゆったりと坐っている姿を現すことで、ホッとするという意味合いになる。「休」の字は木陰に休んでいる人を表す。という具合に、漢字の構造と意味の説明が興味深い。

太宰の殺し文句は「死にます」ってんだから、どこまで情けない男なんだ。鰭崎潤宛ての手紙では「生涯いちどの、生命がけのおねがひ」で、五十円貸してくれと書く。「貴兄に対しては、私、終始、誠実、厳粛、おたがひ尊敬の念もてつき合いました。貴兄に五十円ことわられたら、私、死にます。それより他ないのです。ぎりぎり結着のおねがひでございます」。依頼というより脅迫だ。

さらに「どんなにおそくとも三日には、キット、キット、お返しできます。充分御信用下さい。お友達に『太宰に三日まで貸すのだ』と申して友人からお借りしても、かまひませぬ。雑誌に新聞に堂々たる広告出すつもりでございます。五十円、どんなに苦しいか承知して居ります。その上で、たのみます」。「ドッサリオムクイデキマス」とあえてカタカナで書く。その擦り寄りが気味悪い。

太宰は、自分には文学の才能があると信じていた。才能があるからお金は他人から借りてもいい、お金を借りてでも自分の才能を磨かないといけないといった強烈な自意識があった。芥川賞が欲しいあまり、川端康成に「刺す」とまで言った。しかし、他人はそう簡単に助けてはくれない。苦労に苦労を重ねて、身も心もボロボロになり、昭和23年、愛人の山崎富栄と心中した。

今東光がつけた「ミミズクみてえな顔」とは言い得て妙、川端康成の顔だ。大正10年頃、今は川端と一緒に菊地寛を訪ねた。川端は何も言わない。一時間くらい黙っていてから「二百円要るんです」といきなり言う。「いつ要るの」「きょう」まるで借金取り。菊地は大きな財布から十円札を揃えて出し「さよなら」、それでおしまい。借用書なし。言葉よりも目で殺すノーベル文学賞作家の交渉術。それにしても、いわゆる文豪たち、イヤな人物ばかり。(柴田)

山口謡司「文豪たちのずるい謝罪文」2020 宝島社
https://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4299007700/dgcrcom-22/



●宝塚続き。いや、伝統的なのもあります。上品で清く美しいのもあります。パステルカラーな感じのもあれば、赤黒金銀っていうのもあります。そしてジェンダーフリーなのとか、ボーイズラブなのとか、人間動物怪物妖怪、現代過去未来、日本海外宇宙異空間とかもアリなんですわ。

こんなに柔らかいのに、以前は写真・映像での飲食禁止でしたわよ。カップを手にしてもいいけど、飲んじゃダメみたいな。スターに非現実を求める、というか。

だいたい、小説やマンガでいい台詞だって、舞台とはいえ、リアルでやったら超恥ずかしいもので。それを直視するには、あのメイクと女性が男性を演じるという嘘でもないと。

ベルばらのラスト、ペガサスの馬車に乗る(天国)の描写は、もーねもーね、変なテンションになるよ。クレーンで空中を動くのよ。何これ、変だってば! って笑っちゃったのに、演ずる人たちは真顔で歌い上げて、感動的になってきて、だんだんとこれはこれでアリよね……と思わせてくれるんだってば! (hammer.mule)

【月刊タカラヅカ】「ベルサイユのばら」
http://www.asahi.com/showbiz/stage/gallery/130115/20130107OPHO0052AGOC.html


(5)ダメ押しは、驚くほどの高さの「空飛ぶ馬車」
http://astand.asahi.com/entertainment/starfile/OSK201301100050.html

「オーケストラボックスも越えて、銀橋の上までせり出し、なんと2階席と同じ高さまで2人が迫ってくる」

オスカルだけバージョン
http://www.sankei.co.jp/enak/sumirestyle/2006/apr/kiji/theroseofversaillesOscar/14.html


グリシーヌの合体攻撃
http://blog.livedoor.jp/yanagi470-sakura/archives/8253691.html

サクラ大戦のワンシーンの元ネタになったらしい