歌う田舎者[50]私をサイゼに連れてって
── もみのこゆきと ──

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いつもお上品極まりないコラムタイトルで、柴田編集長やデスクの濱村女史を困らせているわたくしでございます。こんなことでは今にクビを言い渡されるかもしれないと反省し、映画のような美しいタイトルを付けることにいたしました。やはり年齢を重ねる記念すべき一日は、美しく始めなければなりません。

そう、本日はわたくしの誕生日。11月は30日もあるというのに、わざわざ登板日が14日になっているということは、「デジクリ読者の皆々様に誕生日の願いごとをしてもよろしい」という編集サイドの深情けに違いありませぬ。

全国からも続々とお祝いのメッセージが届いております。差出人を見てみると、無印良品、DHC、オルビス、コンタクトレンズ屋、どこかの洋服屋......全部DMじゃござんせんか。なにやらもの悲しくなる秋の夜更けにございます。

皆さま、こんなわたくしを哀れと思し召しなら、今すぐ励ましのメールをお送りください。また、わたくしに直接お祝い状を手渡しても、宮内庁からクレームが来るとか、参議院議長から厳重注意されるなどということはございませんので、ご遠慮なさいますな。

もとい、そのようなわけで、誕生日のお願いごとをしようと思いますの。




♪四つのお願い聞いて〜聞いてくれたら〜♪
♪あなたにわたしは夢中〜恋をしちゃうわ〜♪

つい歌ってしまいましたが、慎ましやかなわたくし、もちろん四つもお願い事をするなんて強欲なことはいたしません。ひとつだけでございます。都会にお住まいの方々なら簡単なこと。それは「私をサイゼに連れてって」なのでございます。

覚えていらっしゃるかしら。バブル華やかなりし時代に流行ったあの映画......。一流企業勤めながら冴えない会社員の三上博史は、ゲレンデに出ると誰もが羨む名スキーヤー。内気な三上博史が、サイゼリヤでワインを飲みすぎてゲロってるところを、通りかかった原田知世が介抱し、めでたしめでたしというあのお話ですわよ。

主題歌はもちろんユーミンのあのナンバー。

♪ゲレンデのサイゼリヤで 食べるあなたにくぎづけ
♪派手に飲みすぎころんで 寝ゲロを垂れ流す

たしか、「ワイン天国、パスタ天国」とか、そういうタイトルの歌でございましたね。え? なんか微妙に話が違います? まぁ、そんな些細なことに目くじら立てるようでは男らしくないわね、いけません。芝エビとザリガニほどの違いもございませんでしょう。

都会の皆々様におかれましては、サイゼリヤなど掃いて捨てるほど転がっているのでありましょうが、薩摩藩にはないのでございます。ないものは欲しくなる、行ってみたくなるのが人情というもの。

スタバがない頃は、東京に出張などあれば、絶対にスタバに行かなければと意気込んでいたものでございました。注文の仕方もわからないので、前後左右の方々の行動様式を横目で観察。粗相のないように注文するだけで、一日分のエネルギーを使い果たした気がしたものでございます。

確かあれは黒木瞳主演の「TOKYO TOWER」という映画だったでしょうか。どこぞのシアトル系コーヒーショップで、ドリンクにかぶせられたプラスティックの蓋を取ろうとした瞳を岡田准一が注意します。「え、これってそのまま飲むの?」かわいらしく微笑む瞳。

そうか、あの蓋はかぶせたまま飲むものなんだな。准一に注意されてはいかん。都会の女とは、唇が火傷しようとも、あのプラスティックの蓋にちんまりと開いた穴からコーヒーを飲まねばならんものなのだ。さすれば准一が潤んだ目で「恋はするものじゃなくて、落ちるものなんだ」と言ってくれるのか。うむ、都会の女に化けるのも大変である。ぐび。

そうして、「TOKYO TOWER」のこのエピソードに洗脳されたわたくしは、内心「あち、あちちちち、あちーじゃねぇか、この野郎!」と思いながらも、都会の女を気取るために、あの小さな穴からコーヒーを飲みつづけたわけでございます。

しかしながら、今や薩摩藩には4軒もスタバがあり、ありがたみも薄れた今日この頃。こんな穴から熱い液体飲めるか! とばかりに、テーブルについたら即刻蓋を取る田舎者に堕落してしまいました。そのうち、このお口が「蓋要らんから10円割り引かんかい」と言い出しそうで怖い毎日でございます。

スタバも日常生活に溶け込んでしまうと、このような扱いになってしまうのもいたしかたなきこと。最近スタバができたばかりの島根県の皆様におかれましても、きっと横目で周囲の様子を伺いながら注文なされていることでありましょう。しかしご安心ください。あと少しで薩摩藩の民のように、どーでもいい境地に至れるものと存じます。

そのようなわけで、スタバもタリーズもドトールもセブンイレブンもドン・キホーテもできてしまった今、わたくしが焦がれてやまない店は、サイゼリヤなのでございます。サイゼリヤ、あぁサイゼリヤ、サイゼリヤ(←高木東六風)

しかも、最近になって、都会の方々はサイゼリヤのことを「サイゼ」と略して呼ぶということを知りました。ひょ、ひょっとして正式名称で呼ぶのは田舎者なのでございましょうか?

そもそも薩摩藩の民にとって、「サイゼリヤ」という音を聞いて思い出すのは、小林亜星の ♪パッ!とさいでりあ〜♪ の方でございます。おや、ググってみたら、さいでりあの新興産業はすでに倒産しておいでではありませんか。おいたわしや。いや、本筋とは何の関係もございませんが。

略語というのは田舎者にとってハードルが高いものでございます。使いこなせば都会人に化けられるのでありましょうが、推測で略して外すと、こんなに恥ずかしいことはございません。

「イケブー行く? イケブー」これでどうだよ、これで。え? 違うの? なに、池袋はブクロって略すの? ......後ろで略すのか、前で略すのか、後ろから前からどうぞなのか、それが問題でございます。

よって東京の方々が、六本木のことを「ポンギ」、中目黒のことを「ナカメ」、二子玉川を「ニコタマ」と呼んでいるのを知った時の絶望たるや、いかばかりかとご推察ください。

じゃあなんですか。目白は「ジロー」ですか。御徒町は「カチカチ」ですか。小伝馬町は「電マ」ですか。なんでそこだけ漢字使うんですか。誰かわたくしに誕生日プレゼントとして、東京の地名略語集を送ってください。涙目。

申し訳ございません。いったい何の話をしていたんだか、わけがわからなくなりました。もとい、サイゼリヤでございます。そのサイゼリヤなるところ、グラスワインが1杯100円だというではありませんか。そのようなところ、田舎町には一軒もございません。そもそも真昼間っからワインを飲める場所がないのでございます。

九州を根城に勢力拡大中の、JOYFULというファミレスがあるのでございますが、かつてはここにも100円台のグラスワインがございました。

すでに時効でありましょうから告白いたしますと、システムエンジニア時代に田舎町の某役場を訪問する際、入社したばかりのイケメン君を何度もJOYFULに拉致して、一杯ひっかけてから役場に行っていたのはわたくしでございます。

えぇ、一杯だけですよ、一杯だけ。酒飲んでも顔色が変わらないということもあって、若いツバメとのひとときは、深夜残業続きの毎日の清涼剤でございましたわ。

思い起こしますれば、わたくしの人生には数々のイケメン君が散りばめられていたのですが、彼らはすべて通勤特急のごとく、各駅停車の駅に佇むわたくしの前を通り過ぎ、気がつけば、カビが生えた熟女一人......というのがわたくしの人生でございます。あぁ、おいたわしや。自分で言うな。

そんな思い出のJOYFULのグラスワインも、今やメニューからは消えてしまいました。だいたい田舎町では昼ワインなど生き残れない運命なのでございます。

ついでに言えば、外国の料理屋も田舎町では生き残れません。中国、韓国、フランス、イタリア、インド以外の国の料理は、たとえできたとしても時の徒花。泡のように消え去る運命でございます。

数年前に薩摩藩にロシア料理屋ができました。マトリョーシカという名前の店でございます。おぉ、Матрёшка。よいではないか、よいではないか。ロシア料理といえば、わたくしにとっては福岡に行かねば食べられない都会臭ぷんぷんの料理でございます。それはもう小躍りしてマトリョーシカに食べに馳せ参じましたとも。

なのに、しばらく放置プレイしているうちに、その店は「鳥将軍マトリョーシカ」となり、地鶏の炭火焼屋に変わっているではありませぬか。なんということでしょう。北方領土が返還されないのは、マトリョーシカが鳥将軍になったせいに違いありません。やはり薩摩藩のような田舎町では、ロシア料理の店など続かないのでございます。

申し訳ございません。ますます何の話をしているんだかわからなくなりました。サイゼリヤでございますよ、サイゼリヤ。

サイゼリヤがある30の都道府県にお住まいの皆さま。わたくしが訪問する機会を得ましたら、ぜひとも「私をサイゼに連れてって」でございます。サイゼリヤの正垣社長が書いた「おいしいから売れるのではない 売れているのがおいしい料理だ」も読んで予習は万端でございます。

毎日豚の貯金箱に10円ずつ貯金しております。グラスワイン白1杯、赤1杯、エスカルゴのオーブン焼き+セットプチフォッカなら67日目に食べられます。

貯金箱を持って薩摩藩を出奔する際はTwitterあたりで宣言いたしますゆえ、なにとぞお連れあそばせでございます。ホントに何を書いてるんだか、わけがわからなくなりました。

本日は、これをもちまして誕生日の願いごとに代えさせていただきます。

※「四つのお願い 〜女の一生Ver〜」ちあきなおみ
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※「私をスキーに連れてって」原田知世・三上博史
< http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B0000DJWIN/dgcrcom-22/
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※「サーフ天国、スキー天国」松任谷由実
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※「TOKYO TOWER」黒木瞳・岡田准一
< http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B0003052WI/dgcrcom-22/
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※「パッ!とさいでりあ」小林亜星
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※「おいしいから売れるのではない 売れているのがおいしい料理だ」
 正垣泰彦
< http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4822233480/dgcrcom-22/
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【もみのこ ゆきと】qkjgq410(a)yahoo.co.jp
< https://twitter.com/m_yukito
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ロイヤルホストのグランドメニューがアツイらしい。「菊地成孔 ロイヤルホスト新グランドメニューを熱く語る」
< http://miyearnzzlabo.com/archives/14859
>

アンガス牛の目が赤く光っていたり、ひとつのグラタンの説明に『小さい』が3か所も入っていたり、お食事セットにAセットとCセットはあるのにBセットがなかったり......なかなかファンキーな出来である。ホントかどうか近所のロイホに確かめに行き、記念撮影までしてしまった。ホントだった。そんなわけで薩摩藩にはロイホはあるのだった。