無言が色っぽいとか、どこをどう押したらそんな学説が出てくるのか。工藤静香は完全に間違っている。無言は陰気っぽいに決まっている。
工藤先生におかれましては、キムタクの黒幕なんぞやってる暇があったら、学説の誤りについて吾輩に謝罪していただきたい。でなきゃ、嵐を起こしてすべてを壊すぞ、この野郎。
そんなわけで、吾輩ただいま人生史上2番目に暗い。じめじめイジイジと陰気である。私以外私じゃないの。いや、ここにいる私が私じゃないの。陰々滅々の別人格に乗っ取られてしまった。
前回のデジクリでも書いたが、入社した会社、誰もしゃべらないのである。
しーーーーーーんとしているのである。無言なのである。
前回のデジクリ:歌う田舎者「黒服こわい」
https://bn.dgcr.com/archives/20170607110200.html
いろいろと見誤っていたのだが、入った会社は、いわゆる派遣会社みたいなものであった。そのため、本当の会社の所在地には、ほぼ人がいない。
♪わたしの〜会社の〜まーえで〜 泣かないでください〜
♪そこに〜わたしは〜いません〜 死んでなんか〜いません〜
いや、死んでいる。吾輩はもう死んでいるのやもしれぬ。売り飛ばされた開発現場も無言なのである。死んだ目をしてモニタを見つめ、カタカタカタカタとキーボードを叩き続ける。
何が起こっても無言でカタカタカタカタ……。地震が起きても台風が来てもミサイルが発射されても微動だにせずカタカタカタカタやり続けることこそ、われら流浪の民の使命。
言葉を交わすのは、プロジェクトリーダが、いかめしい顔で夕方の進捗チェックをするときだけである。
「今日の進捗は?」
「サブシステムの10本目が終了したところです」
「予定では12本ですが遅延の理由は?」
「あっ、あーうー……」
「今週末までに何本終わりますか」
「あっ、あのう、14本終わるといいな〜っていうか終わらせたいっていうか」
「希望的観測は聞いていません。実際に終わる見込みを聞いています」
「あっ、あーうー……じゅ、14本」
「わかりました。作業を続けてください」
……おとうさん、こわいよ。魔王がいるよ。きこえないの? 吾輩、毎夕ちびりそうである。
そして、無言でしゃべらない暮らしをしていると、声を出すという機能が退化してしまうのだ。進捗報告のときの声のボリュームたるや、全員が蚊の泣くようなVolume 1である。
すでに老境に差し掛かっている吾輩など、浦辺粂子風に「え、何かおっしゃいましたかね。最近耳が遠くなりましてね(っつーかフツー聞こえねえだろ!)」と嫌味のひとつもぶっ放したくなるのである。
セーラー服おじさんにカラオケで褒められたのも今は昔。歌を忘れたカナリアどころか、声の出し方すら忘れた老婆に成り果てた吾輩、どこかで玉手箱でも開けてしまったのであろうか。
Otakuワールドへようこそ!「ささっと薩摩」
https://bn.dgcr.com/archives/20131224140200.html
派遣会社なるところでは、吾輩たち社畜はスペック一覧表とともに世に売りに出される。
高いスペックを持つものは、お大尽のところで太夫と崇められ、大したスペックを持たぬものは、宿場で夜中まで働く飯盛女となる定め。身請けはご法度。もちろん吾輩は飯盛女の方である。最終バスで帰り、休日出勤で命をすり減らす。帰りたいのに帰れない。
暮れ六つ時の鐘の音とともに、宿場には飯盛女たちが参集している。
「ったく、誰がこんなババアを拾ってきたんだい」
「おっ、おかあさん、ご、ごめんなさい」
「もみのこ、お前におかあさんなんて呼ばれたかないね。だいたいあたしより年食ってるじゃないか。さあ、お前たち、順番にこの十日間に取ったお客の数をお言い。それによっては褒美を出そうじゃないか。茜、お前はどうだい」
「おかあさん、拾八人です」
「そうかい。さすが茜はうちの看板だね。佐助、茜に銀の簪をおやり。絢音、お前はどうだい」
「おかあさん、七人です」
「七人かい。まあ、絢音は入ったばかりだからね。これからいろいろと覚えていくんだよ……ちょいと、もみのこ。なにこそこそしてんだよ。お前逃げようってんじゃないだろうね。お前は何人だい」
「あ、あ〜う〜、二人……」
「ふ、二人だって? いったい何をしてたんだい!」
「あ〜……なにをすればいいのかわからなくて……」
「わからないって、お前、やることは決まってるじゃないか!」
「いや、そのエラーがいろいろと」
「エラー?」
「小数点がうまく処理されなくて……」
「小数点? 小数点はDecimalを使えって、こないだも言っただろ!」
「型宣言しなきゃいけない言語なんて、もう二十年も使ってなくて……年を取ると、聞いたことをすぐ忘れちまうんですよう」
「………おや、なんだかおかしな念仏が聞こえるね。もみのこ、わけのわからないことお言いでないよ!」
「あああ、すみません、おかあさん……堪忍、堪忍してください」
「まったく、昔は遊郭でちょっとしたもんだったって聞いたから、お前みたいに年を食ってても拾ってやったのに、何の役にも立ちゃしない。器量も良くなきゃ技量もないときてる。塩撒いて追い出したいよ。とにかくこれから十日間、二十人のお客を取るまで帰るんじゃないよ。ケッ、忌々しい」
「おかあさん、帰りたい、帰りたいよう………(さめざめ)」
「おだまり! 泣き言は聞かないよ。黙って座敷に戻りな!」
……あの〜、もみのこさん、ちょっといいですか。つまり帰れないのは、もみのこさんが仕事できないからってことでOK?
うるせえ、外野は黙ってろ! 帰りたいのに帰れないのが無言坂だと、香西かおり先生も唱えておるではないか。キーーーーーッ!
無言なだけでなく笑顔もない。しゃべらないのに笑顔でいるっつーのも気持ち悪いような気もするが、そのようなことでは健康に良くないのではないか。
おい、笑え。笑えよ。笑う門には福来たるんだぞ。なんなら音無美紀子を派遣して、えがおの黒酢の試飲販売でもしてもらってはどうか。20種類のアミノ酸効果で全員えびす顔だぞ?
なに? こんなとこでステマやってんじゃねえって? ステマじゃない証拠に、今ググってみたら、えがおの黒酢って飲料じゃなくてカプセル錠剤だったじゃねえか。試飲販売できねえじゃねえかよww。
まあいい。黒酢は我が藩の特産品であるからして、飲め。しのごの言わずに、どこのでもいいから飲め。ただし薩摩藩の黒酢に限る。吾輩は愛藩精神に溢れているのだ。
それはさておき、最終バスまで働いた帰り道、コンビニレジのおっさんやにーちゃんが「ありがとうございました」と言いながら商品を渡してくれる笑顔の眩しさよ。
「ありがとうと笑顔で言ってくれてありがとう!」と涙ぐみながら俳句をしたため、感激のあまり、彼らを熱く抱擁したい。最近、すべてのコンビニ店員と一瞬で恋に落ちる吾輩である。しかしながら、コンビニ店員は吾輩と恋に落ちていないようなのはなぜだろう。
さて、現代の日本において、社員が働きやすい環境を整えることは、喫緊の課題となっている。厚生労働省では、社員が快適に働くことができるホワイト企業の要件として、ワークライフバランスの充実やダイバーシティ推進を挙げている。
これを具体的にブレイクダウンすると、勤務時間中に同僚とXVIDEOの話ができるかということになる。
え、そんなこと書いてあった? とか言ってググりだしたそこのお前。やめろ。吾輩を信じないのか。信じられぬと嘆くよりも、人を信じて傷つくほうがいいのだぞ。
吾輩がかつて勤めた職場は三か所あるのだが、一社目のIT企業、ここでは完全にXVIDEOの話ができた。というか、この時代にXVIDEOはないのだが、今も在職していたら間違いなくできる。
だいたい部長からしてエロオヤジであり、同僚男子がウブな箱入り娘の吾輩に、昨日行ったフーゾクの報告をしてくれたり、よくわからないエロ単語とかをエロエロ……いや、いろいろ教育してくれたのである。
そもそもこの時代、COBOLの長大なソースにコンパイルをかけると、終了まで一時間かかるものも珍しくなかったので、その間が暇なのだ。デジクリで微妙なエロネタを繰り出す基礎は、この時期にできたのである。
二か所目は経営者の相談相手をする団体だったのだが、なんせ話をすること自体が商売なので、勤務時間も半分はしゃべっているようなものである。
ここも、同僚同士でたまにエロネタを話していたような気がする。いや、吾輩がエロネタを周囲に振っていただけかもしれない。……もう記憶にありません。
三か所目がインチキ講師をしていた学校である。さすがに教育現場ではよろしくないだろ、しかも吾輩非正規だし。
ということで、正職員の方々の前では品行方正を装い、XVIDEOの話は封印していたのだが、それでは生活に潤いがなくていかん。代わりに学生を相手にエロネタを振っていた。さすがに教室のプロジェクタには映していない。当たり前だのクラッカー。
そしてもちろん今はXVIDEOの話などできない。エロネタなど永遠のゼロである。言いたいことならどれくらい、あるかわからなくあふれてるというのに。
♪言えないの〜よ〜言えないの〜よ〜。
無言、帰れない、エロネタが永遠のゼロ……吾輩、もー無理;;
ああ、なんというか、もっと楽しくならんのか、この状況。例えば……。
ベルサイユ宮殿の進捗確認の間では、社畜が皆々そろって恭しくひざまずいている。そこに舞台上手からプロジェクトリーダ(PL)がグランジュテしながら白タイツもっこりで登場し、ミュージックスタート。
♪PL「お、ブレ〜ネリ、あな〜たの進捗どう?」
♪吾輩「今日の製造は12本よ〜明日からテストがんばるわよ〜」
♪全員「やーっほーほーどららら、やっほほーどららら、やっほほーどーらーらーらー、やっほっほ」
全員シャンシャンを振りながら退場。
そんな会社ない? ないんですか。そうですか。
もう千の風になってしまいたい;;
※「MUGO・ん…色っぽい」工藤静香
※「嵐の素顔」工藤静香
※「私以外私じゃないの」ゲスの極み乙女。
※「千の風になって」秋川雅史
※「魔王」シューベルト:姿月あさと
※「無言坂」香西かおり
※「贈る言葉」海援隊
【もみのこ ゆきと】qkjgq410(a)yahoo.co.jp
無言が精神を蝕んでいく。マジだめマジ無理もう限界。作業中は無言でもいいんすけどね、休憩中も無言、毎日無言、毎週無言、毎月無言。自分が機械の一部にでもなったかのような錯覚を覚えております(涙)。
ちなみにXVIDEO、XVIDEO云うてますが、実はあまり見たことがありません。ホントです。でも単語は人一倍、口にします。