羽化の作法[21]段ボール村と段ボールハウス建築
── 武 盾一郎 ──

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●1996年2月15日

1月24日の強制撤去から一か月経たずに、僕らは段ボールハウス絵画制作を再開する。ヤマネが抜けたのでタケヲと二人だけになるが、段ボールハウス絵画の描き始めも二人だった。

一周して振り出しに戻ったようでもあるが、新宿西口地下道の様子は変わっていた。強制撤去でB通路が封鎖されたため、西口地下広場、当時の通称〈インフォメ前〉に路上生活者が溢れて出していたのだ。

壁面に沿って並んで建っていた段ボールハウスが、徐々に二重三重にせり出してきた。ちょうど広場のたまりの空間なので、地下道を塞がず、通行の妨げにはなってないのだ。段ボールハウスが幾重にも立ち並び、路地の入り組んだ下町のようになっていく。

普通「家」と言ったら自分の背丈より高い。ところが段ボールハウスは腰くらいの高さがほとんどで、ちょっとミニチュアの都市のようでもあった。ここに実際に人々が暮らしているのだ。

子どもの頃描く絵は、人間が家より大きかったりする。そんな普通のスケール感と違った絵の世界に居るような感じもあってか、ちょっとばかりウキウキする感触もあった。

強制撤去という悲劇で産まれた村ではあるのだが、強制撤去直後なので当分は撤去の心配はない。段ボールハウスはどんどん作られていくのだった。




●新宿西口地下道段ボール村の段ボールハウス建築様式

段ボールで作る家といったら、おおよそ同じようなものになると思うでしょう。けれどよく見ると形も大きさもバラバラ。回りを囲むだけの家から頑丈に建てる家まで。強制撤去前までの段ボールハウスは個人個人違っていた。

強制撤去後、路上に溢れる人々を受け入れていく地下道が「村」に成っていく過程で、段ボールハウスの建築様式が定まっていく。

最大の特徴は、新宿西口地下道段ボール村の段ボールハウスは「二人」で建てる。しかも面白いことに紐で編んで建てるのだ。

以前は一人で自分の分だけを作ってるのがほとんどな感じだったが、強制撤去後からは野宿者たちが協力し合って建てる段ボールハウスに変わってきたのだ。大きさはまちまちではあるが、家の形は直方体に統一されていく。建設の基礎手順が共有されていったのだ。

段ボールハウスは紙なので、雨ざらしの野外では建てられない。そしてコミュティが形成され得るに充分な広場、通行を塞がない空間が必要になる。

新宿西口地下道にはたまたま広場があった。また、この辺は土地所有者が複数入り組み、統一決定を出すのに手間取り放置されがちになるようで、そのことが「村」を育む時間を与えたようだ。

しかも、村が産まれる直接的原因は東京都による野宿者強制排除なのだから、なんとも複雑だ。こうやって様々な奇跡的な条件が重なり、「段ボール村」は産まれたのだ。

●新宿西口地下道段ボール村オリジナル! 段ボールハウスの作り方

ここで段ボール村オリジナルの段ボールハウスの作り方を紹介しよう。

〈準備するもの〉

・段ボール:いっぱい集める。カッターで切り開いて一枚に伸ばしておく。大きい方が望ましいがまちまちで良い。

・カッター:必需品。

・ビニール紐:段ボールを縫う建材。どんなタイプのでも良い。

・手元側に紐が通してある菜箸:ビニール紐で段ボールを縫うための道具。箸の先はカッターで尖らせて段ボールに突き刺して縫う。建築中に折れることがよくあるので複数あるとよい。

・ヘアピン:上記の菜箸がない場合、ビニール紐で段ボールを縫うための道具。

・割り箸:同じく菜箸がない場合、先をカッターで尖らせて段ボールに突き刺して穴を開ける用。建築中に折れることがよくあるので複数あるとよい。ヘアピンを使わなくても、割り箸の手元側に紐を引っ掛けて縫うことも可能。

普通、段ボールときたらガムテープ・クラフトテープが付きものだと思うでしょう。しかし、テープは使わない。ここが最大のポイント。

〈手順〉

1)段ボールハウスの床の広さを決めて一段目の囲い壁を作る

自分が寝られる大きさの長方形に沿って段ボールを配置する。その際に、家の角がちょうど段ボールの折れ目になるようにする。段ボールと段ボールは縫うので重ねて良い。割としっかりと長方形を作れるはずである。

2)重なっている段ボールをビニール紐で縫う

段ボール壁の内側から箸紐を刺し、5センチ位離して外側から内側に刺し戻して、紐を縛る。紐を縫って縛る箇所を最小数にして、最大限の強度を保たせるように場所を選ぶ。

最初は非効率に何箇所も縫うので時間がかかるが、慣れてくると縫うポイントが少なくなってくる、はず。囲いが出来たら床の段ボールを敷く。

3)二段目以降は、二人は家の内外に別れて段ボールを重ねて縫って行く。内側が家主。二段目以降は外側から刺して、内側から外側に刺し返し外側で紐を縛る。内側の人が徐々に壁に覆われて行くので、まず刺す場所を内側の人に段ボールを叩いて伝える。

「(トントン)ここらへんに刺すよ〜」「はいよ〜」内側の人が箸・紐を受け取ったら今度は外側の人に伝える。「5センチ位上に戻すよ〜」「はいよ〜」受け取った外側の人が紐を縛る。

4)段ボールハウスの高さが決まり、天井を作って内側の人が閉じ込められる。家主がなぜ内側なのかというと、家主の座高に合わせて天井の高さが決められるからである。ここで重要なポイントは「3」の手順段階で家の高さを決めておくことである。

四隅の角から高さを決めて段ボールを縫って行く。内側の人は段ボールで覆われて暗くなるので、手順「3」で縫う箇所のやり取りがスムーズに行えるようにしておくのである。

内側の人は最終的に真っ暗になる。段ボールハウスの中は縫い目の穴の隙間から光が見えて夜空の星のようになる。洞窟のプラネタリウムみたいなのだ。

5)外側の人が出入り口をカッターで四角く切り開く。中から家主が出てきて祝福。出入り口は通常、直方体の狭い面積の方に作る。その方が強度が保てるからだ。その時に出入り口は床から少し上げて四角く切る。砂埃などが入りにくい。

6)玄関ドアを取り付けて完成!

段ボール村では家作りの専門家が出てきて、次々に段ボールハウスを建設していきました。当時、実際に段ボールハウスを作っていた方による段ボールハウス再現が「新宿区段ボール絵画研究会」のブログでご覧になれます。

2005年10月20日 「段ボールハウス再現」
http://kenkyukai.cardboard-house-painting.jp?eid=363620

(つづく)


【武盾一郎(たけじゅんいちろう)/更なる美へ!】

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