羽化の作法[112]現在編 夏の胸キュン曲
── 武 盾一郎 ──

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胸がキュンとなる曲ってありますよね。

あなたの「夏の胸キュン曲」はなんですか? 一曲だけ選ぶのは難しいですよね。私はですね、今のタイミングで思い浮かべたのはこの曲です。

真心ブラザーズ 『サマーヌード』


95年の曲なんですねえ。リリースされた当時インパクトありました。ノリが良くて切なくて、キュンキュンと痛くて。音楽なのに眩しい光(と日陰)を感じました。





●「胸キュン」は痛み

胸キュン曲、そこには「痛み」と「癒し」があります。というか、「癒される」には「痛み」が必要なのである。

同じ姿勢で長時間パソコンに向かっていると肩が凝る。当然ですよね。そんな人にはちょっと痛みの伴った、ツボ押しマッサージやストレッチが効きます。

これと「胸キュン曲」は原理的に同じだと思う。心だって身体同様、緊張状態を続けたら凝り固まってしまう。そんな人には、「キュン」と痛みを伴う切なさ成分がたっぷり入った音楽が効くのです。

ただし、生命的に死にかけてたら痛くしてはいけません。安静にしてなければならない人にストレッチなどしてはいけないように、生命が危うい状態で「胸キュン曲」は聴けないですよね。必要なのは静かに休息することです。

思春期に入った私は胸キュン曲を探しては密閉式ヘッドホンを耳に当て、オーディオアンプのボリュームを目一杯上げて、膝を抱えて目を閉じて聴き入ってました。と言っても、家にある親のレコードを聴き漁るんですねどね。

まあどうしても、世代的にビートルズ多めになっちゃうんですけどね。だけど、ビートルズのレコードが家にあって良かった。

そのうちレコード屋さんに通うようになるのですが、曲が気に入るかどうかは、胸がキュンと切なく痛みを伴うかどうかが決定的でした。

わんぱく盛りの10歳前半ですが多感な時期だし、今思えば心が凝り固まってしんどいというのも当然あったわけです。肩凝りだって対処しないでデスクワークを続けていれば、下手したら病気になって生命が脅かされてしまいます。

あの時、いっぱい胸キュン音楽を聴いてなければ、心の病になっていたのかもしれません。

なので私は音楽を聴いて「救われた」感が強いんです。絵を描くことも同様に。そこには「ワクワク」も含まれているんでしょうけど。

●「センチメンタル胸キュン」と「ロマティック胸キュン」

曲を聴いてなぜ胸が「キュン」となるのか、不思議で不思議でたまりませんでした。「胸キュン曲」には、とりわけ神秘を感じてしまいます。

「魔法」とはまさにこのことです。

今はもう、あの時ほど不思議感が炸裂しなくなりましたが、やっぱり今でも不思議です。

歳を重ねると「胸キュン」音楽は、「あの時の思い出」になります。十代によく聴いていた音楽を歳をとってから聴くと、音楽をトリガーにして思い出が蘇ります。もう戻らないあの頃の記憶が、胸をキュンとさせます。

その作用はとてもよく分かるのです。しかし、思春期の頃に音楽を聴いて「胸キュン」となってたのは「追憶」ではありません。知らない曲を聴いて「胸キュン」になるのです。

「センチメンタルになる追憶への胸キュン」というより、「ロマンティックな音楽体験への胸キュン」で、不思議なのはまさにそれです。

50歳を過ぎて、知らない最近の曲を聴くと無意識的に記憶を辿り「おいおい、この歌い方はモリッシーじゃね?」とか、「おお、これってジョイ・ディビジョンの末裔か?」みたいな反応をしてしまうことがよくあります。

それはそれで楽しいのですが、なんか過去と記憶に囚われてる感じもします。ピュアで新鮮な音楽衝撃も感じていたい。

追憶・記憶・思い出などといった過去に遡って感じる「胸キュン」と、未知・未来に向かってワクワクする「胸キュン」と、時間軸の「胸キュン」ってあります。

前者を「センチメンタル胸キュン」、後者を「ロマンチック胸キュン」と呼んでもいい。

歳をとると、音楽の楽しみ方は「センチメンタル胸キュン」になりがちです。「ロマンチック胸キュン」も楽しんでいけたらと思っています。

そのためには昔聴いてた馴染みの曲ではなくて、最近の知らない音楽を聴き続けている必要があります。それによって、セレンディップな出会いも生まれるのではないでしょうか。

ということでSpotify( https://open.spotify.com/
)を聴く用のスピーカを買いました。


●元祖「胸キュン」

ところで「胸キュン」という言葉は、いつから使われ始めたのでしょう?

wikipediaに「胸キュン」がありましたので(笑)、そこから参照します。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%83%B8%E3%82%AD%E3%83%A5%E3%83%B3


”河合奈保子の1980年の楽曲「ヤング・ボーイ」(作詞:竜真知子)に「胸がキュンとなるの」という表現が使われている。”

河合奈保子 ヤング・ボーイ


うおーっ、河合奈保子! 音楽と胸キュンを最初に結び付けたのは、なんと河合奈保子だったのか!? 「センチメンタル胸キュン」が張り裂けそうです!

テレビで顔のアップになると、思春期坊主は「胸がキュンとなるの」でした。口元の八重歯と涙袋がたまらなく好きでしたわあ。

また、山下久美子のデビュー当時のファンクラブの名称が「胸キュンClub」だったそうですね。ここでも音楽と胸キュンが繋がりました。

山下久美子といえばなんといっても『赤道小町ドキッ』(1982年)ですよね! 当時の映像がありました。

赤道小町ドキッ 山下久美子


懐かしいですねえ、赤道小町。キュンキュンですっ!当時の歌手やアイドルの発声と全然違っていて、すごく新鮮だったのを覚えています。テレビで山下久美子出てないかなあと、探してたことを思い出します。

そして1983年、いよいよ来ました。YMOが『君に、胸キュン。』をリリースします。これで「胸キュン」という言葉が完全に定着したのではないでしょうか。

君に胸キュン


歌い方というかヴォーカルの音作りは、80年代のニューウェイブっぽさがあって時代を感じますが、曲自体はほとんど昔を感じさせないですよねえ。その証拠に2010年代になって、アニソンとしてカバーされています。

まりあ†ほりっく EDテーマ 「君に、胸キュン。」


今っぽくアレンジされて、やけにハマっています。普通にイマドキの曲って感じします。

それから、YMOの三人が登場してるPVもいいですねえ。この「あえてダサいノリ」は、その後のミュージックビデオに多大な影響を与えていますよね。

●今どきの「胸キュン」

さて、時代を現代に戻します。最近「胸キュン」となったアーティストを紹介して、終わりにしたいと思います。

最近といっても1〜2年くらい前なのですが、Twitterで流れてたのをたまたま聴いて「いいなあ」と思ったアーティストです。もちろん、他にもいろいろ気になったアーティストはいるのですが、今このタイミングで「胸キュン」なのはCucoです。

Cuco - Keeping Tabs (feat. Suscat0) (Official Music Video)


なぜ好きになってしまったのか、自分でもあんまりよく分かってないのですがツボりました。

こんなふうに紹介されています。“LAを拠点とするメキシコ系アメリカンのシンガーソングライター、マルチ・インストゥルメンタリスト。楽曲スタイルはドリームポップ/サイケポップ/チルポップ。”
http://www.yogaku-databank.net/cuco/


ちなみに「クコ」です。「タコ」ではありません。
タコはこちらです↓
Taco Puttin' on the Ritz Original Uncensored Version


最後までお読みくださり有り難うございました!


【武 盾一郎(たけ じゅんいちろう)/断酒229日目】

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