羽化の作法[110]現在編 見えないけど見える 聞こえないけど聞こえる
── 武 盾一郎 ──

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ところで、「盲視」をご存知でしょうか? 脳の一部が損傷して目が見えなくなる脳障害です。

興味深いのは、ライトで壁を照らして「光の点がどこにあるか」と質問すると、ちゃんと指差して答えられるのです。

当然、本人は「光の点は見えない」と答えます。「どうして答えられるの?」と聞くと、「あてずっぽう」と答えるのです。

意識では見えてないけど、光の点を捉える視覚情報処理はちゃんと行われていて、無意識では見えているのです。

視覚情報は後頭部に送られた後、位置や動きを分析する「背側視覚路(どこの経路)」と、色や形を分析する「腹側視覚路(なにの経路)」に分かれます。盲視の人は「背側視覚路(どこの経路)」は大丈夫なのですが、「腹側視覚路(なにの経路)」が損傷しています。意識は「腹側視覚路(なにの経路)」と繋がっているのです。





こちらの動画に盲視の説明があります。

55.中学生でもわかる意識のしくみ 意識の進化とクオリア
ロボマインド・プロジェクト


「盲視」は脳の損傷ケースですが、脳が損傷してなくてもこういうことは結構ありそうです。意識に上らないけど、ちゃんと分かってたりすることって。

歩いていてなんとなく右に曲がったら、左側に物が飛んできて助かったとか、そういうちょっと奇妙な体験って、誰しも一つや二つは思い出せるでしょう。「直感」とか「虫の知らせ」とか言ってるのも、わりとこれに当てはまりそうです。

私たちは意識を通してこの世界を認識していると思っています。そりゃそうですよね、意識がない状態では世界を認識するもへったくれもないですからね。

ところが、私たちはほとんどが意識に上らない無意識で、世界を認識してるのです。たとえば、椅子に座って物体のように動かなければ、お尻の皮膚の同じ場所だけに体重の負担が集中して、壊死してしまいます。なので無意識で体重を移動させて、負担を散らしているはずです。そんなことほとんど意識しませんよね。

自転車に乗ってる時、頬に当たる風の気持ち良さを感じながら、鼻歌に夢中になってたりしますよね。その時、運転はほぼ無意識でしてたりします。

私たちの無意識は、外の世界に対してかなり正確に対応して行動しています。だから「世界」を知ってるのは、むしろ無意識なのです。

それに対して「意識」は、私たちの内部で生成されています。眼前に広がる世界、生々しいこの「クオリア」、生きている実感をもたらしてくれるこの「意識」、「現実」と呼んでいるこれら世界は、本質的にバーチャルなのです。

ところで、「意識」と「無意識」のイメージ図ってありますよね。氷山の一角が海から飛び出していて、そこを「意識」と例える図です。無意識の氷は海の下に隠れています。意識は「外」、無意識は「内」というイメージです。
http://www.hypnotice.jp/wp-content/uploads/2014/08/H2Fig0000

実は逆の見方もできるのかなと思うんです。「意識は内側で作られた閉ざされた世界」で、「無意識は外部と直接やり取りしてる開かれた世界」である、と。

●光と音のクオリア

わたしたちは目というセンサーから電磁波を入力して、脳内で世界を構築しています。

「波長によって色が違って見える」色のクオリアは、脳内での創作ですよね? 本当に不思議です。不思議過ぎて頭がおかしくなりそうです。

だって波ですよ。「波長620-750 nmあたりを赤くしようぜ〜」って一体誰が決めたんだって思いません? それに、私が見た赤の感触は他の人も同じなのか、確かめようがないのももどかしいし。
https://www.nippondenshoku.co.jp/web/japanese/colorstory/images/05_spectrum

仮に電磁波の波が海の波みたく感じられるほど、私がちっちゃくなって行ったとしたら、赤く見えた光線がとあるところで色が見えなくなってしまうのでしょうかね?

音も不思議ですよ。周波数が倍だとオクターブになって、「同じ音」みたいに聞こえてしまうんですから。周波数の整数比を基準にして音階が作られているのも、なんだか不思議でたまりません。

https://pianotuning.jp/wp-content/uploads/2019/04/%E5%BC%A6%E3%81%AE%E6%8C%AF%E5%8B%95%E3%81%A8%E5%80%8D%E9%9F%B32019-04-07

この「電磁波の色」と「音波による音階」は、何か共通する特徴がありそうなのですが、今のところ見つかりません。知ってる方がいましたら、ぜひとも教えていただきたいです。

で、この不思議過ぎる「光」と「音」のクオリアのおかげで芸術はある。でもこれって波を見て、波を聞いてるワケですよ。

光と音を入力しても、色彩とハーモニーのクオリアを持たない知的生命体がいたとしたら、電磁波・音波という「波」を入力してうっとりしてる人類の姿を、不気味に思うかも知れません。

もし、コンピュータがクオリアを持ったとしたら、「0」と「1」の膨大な羅列を入力しながら、うっとりしてるハズです(笑)

そんなコンピュータをなんだか滑稽に感じますが、私たち人類はそれと同じってことですからねえ。

ところで生まれた時から色彩と音階のクオリアってあったのでしょうか?

(つづく)

【武 盾一郎(たけ じゅんいちろう)/断酒180日目】
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