羽化の作法[117]意識の謎の解明に本当に必要なことは何か?
── 武 盾一郎 ──

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●純粋記憶について

「思い出す」にもざっくり二種類あって、ひとつはその時のことを俯瞰して客観視してる感じなのと、もうひとつはその時の心情に入り込んで主観的になる場合と。

前者はアルバムをめくるような感じで、後者はタイムスリップして過去の自分になってしまった感じ、と言ったらいいのでしょうかね。そこでちょっと思うのは、ひょっとしたら本当に過去に一瞬行ってるのかもって。

「いやいや、そんなことはないでしょ」ってあなたは思うでしょう。
ところがですね、ベルクソンが面白いことを言っているのです。
「脳はなくても記憶は残る」と。

茂木健一郎さんのこの動画はデジクリで何回か紹介していますが、やっぱり興味深いのでまたまたリンクを貼らせていただきます。

ベルグソンの純粋記憶について






この動画で茂木さんは、小林秀雄がベルグソンについて言及していることを紹介、ベルグソンは脳をハンガー、記憶を外套に喩え、ハンガーはなくても外套は残る、つまり脳はなくても記憶は残ると言っています。

そして、「レプリカントの私」という、別の喩えを持ち出しています。

仮に私の完璧なレプリカントが、たった今作られたとします。そうすると「レプリカントの私」にも5歳の記憶があるわけですよね。今、50歳だとしたら25年前の出来事なのですが、25年前に存在していない「レプリカントの私」にも、25年前の記憶があるわけです。

過去から生きてきた私、つまり「自然状態の私」も当然5歳の記憶があります。この「レプリカントの私」と「自然状態の私」の違いはあるのか? という思考実験です。

体験(クオリア)が今ここの脳状態に規定されるドグマを採用すると、両者は区別できないことになります。

ところが、直感的には「レプリカントの私」と「自然状態の私」は違う気がしますよね。それが「ベルグソンの純粋記憶」と関係しているのではないか、と。

以上が動画の内容なのですが、このことって、「過去を思い出している時、昔の自分の主観状態になっている瞬間は、本当に過去にタイムスリップしている」としても、そんなに無理がないことになりませんかね?

私たちが過去を思い出す時、ハードディスク(頭脳)に書き込まれたデータをピックアップするのとは別に、何か他のことをしている可能性はゼロではないと思うんです。

●チューリングテストに合格したら意識は発生してるのか?

ところで、デジクリの執筆者であった「セーラー服おじさん」ことケバヤシさんの、意識をテーマにしたYouTubeライブ講義が11月14日にありました。

超学校ONLINE シンギュラリティサロン@SpringX:意識の謎に迫る(シンギュラリティサロン #44)


さすがケバヤシさんだなあって思ったのは動画冒頭の絵、本でいえば装幀画か扉絵にあたる絵をまんま見せて、タイトル文字を被せていないんですよね。


動画の中で、私的に気になったことをあげておきます。

登壇者の塚本昌彦氏、松田卓也氏は、もしAIが意識があるとしか思えない振る舞いができたとしたら、そこには自動的になんらか意識が発生しているだろう、と、ざっくりと言えばそのような見解のようでした。(松田氏は「それは分からん」とおっしゃってましたが、ニュアンス的にはそこ(AI)には人間と共感し合うことのない意識が宿る、という感じでしょうか)

ケバヤシさんは懐疑的で、「いやいやそれだけでは哲学的ゾンビに違いない」という意見です。

「意識があるような振る舞い」とは、動きや返答する言語が、人間の意識と同じアルゴリズムを成しているということで、それなら意識も宿っているだろうということのようなのです。

神経系は電気制御ですよね。身体の動きと思考は電気信号と化学反応で動いてます。なので私からハラワタを削ぎ落として脳と身体だけにすると、「モロに機械」です。内臓部分に電池を埋め込んで、うまく繋いだら動くんじゃないでしょうかね。だから、機械に意識が宿ってもおかしくない理屈にはなります。

これは先程の茂木健一郎さんの動画の「レプリカントの私」と、「自然状態の私」がイコールで結ばれることを意味します。

もしそうすると、意識の仮想世界仮説に基づいてAIに心を実装させるプログラムを作ろうとしている「ロボマインドプロジェクト」が、会話ロボットをしっかり構築させたなら、すでにそこに意識が発生していることになります。

ロボマインド・プロジェクト
https://www.youtube.com/channel/UCF7k8BrfIwPSennLMByxyuQ


私は、振る舞いを人間に似せることに成功しても、チューリングテストに合格するプログラムを実装できても、そこにクオリアって発生してないだろうなあって思ってます。

いくつか理由があります。例えば、もし超弦理論が正しいとするなら、この宇宙は11次元になるらしいんですが、だとすると高次元に意識は関わってないのだろうか? という極めて素朴な疑問です。

あと、宇宙がダークマターとダークエネルギーで95%を占めているなら、意識の発生源にそういう物質の影響ってないのだろうか? とか。それから量子力学が意識と関係してないのか? とか。

これらは理論物理学をちゃんと理解してないから産まれる疑問なのかも知れませんが、気になるところです。

そしてもう一つあるのが、「音」です。耳の穴に指を突っ込むと「ゴォーッ!」という轟音がしますが、これは筋肉の動く音なんだそうです。

指先ですらこんな轟音です。身体の真ん中の方とか、心音などが合わさると私の身体は、さながら湿った生温かいライブハウスで聴く「爆音ノイズ」です。ところが、これらは自分には全く聴こえませんよね。身体のノイズ音をキャンセルしてる装置ってどこにあるのでしょうか。

私はこの「音」って、意識と関係があるような気がしているんです。これ以上は分からないので、言語化できないのがもどかしいのですが、何か音(振動)にも意識に関わる重要な要素がある気がしているのです。

それから、植物には神経系がないので当然意識なんてないってことになります。しかし、私は植物に意識ってあると思いたいので、脳(神経系)以外に意識の発生源を求めたいのです。

●意識の謎を解明するために本当に必要なこと

そして、あともう一つ気になる点があります。今回の講義に登壇した方々は全員男性でした。

そして日本を代表する意識研究者も、なぜか全員男性ですよね。人工意識に対して真摯に批判的な茂木さんも男性。意識の謎に興味津々の私も男性です。これって、何かすごく重要なことを見落さないですかね? つい最近こんなニュースがありました。

9000年前に女性ハンター、「男は狩り、女は採集」覆す発見
https://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/20/110600646/


この記事には「大型動物ハンターの30~50%が女性だった可能性が明らかになった」とあります。「狩りは男」というジェンダーバイアスが当たり前すぎて、疑問にも思わなかったのでしょう。なのでこの事実の発見に遅れてしまったのです。

このようなことが、意識の謎を解き明かそうとする科学にも、大きく影響してないでしょうかね? ちょっと(いや、かなり)心配です。

SFの生みの親、メアリー・シェリーは女性です。コンピュータプログラムの生みの親、エイダ・ラブレスも女性です。

メアリー・シェリー
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%A1%E3%82%A2%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%83%BB%E3%82%B7%E3%82%A7%E3%83%AA%E3%83%BC


エイダ・ラブレス
https://blog.tinkers.jp/12017071041/


なので、意識の謎を解明する天才も女性だったら面白いのになあって思うのです。

もちろん研究は一人で成立するものではありません。しかし、ジェンダーギャップが激しい社会だと伸びないことは確かです。

ここで、我が国のジェンダーギャップがどの程度なのか気になったので、世界のジェンダーギャップ指数(2020年)を調べてみました。

そしたら、な、なんと153カ国中121位! しかも、前回より順位を落としている!

世界経済フォーラムが「ジェンダー・ギャップ指数2020」を公表
内閣府男女共同参画局総務課
https://www.gender.go.jp/public/kyodosankaku/2019/202003/202003_07.html


いやこれは、、、気を取り直して、結論。

意識の謎を解明するためには、女性の意識研究者を増やすこと! そういう社会に日本が変わること! まさかの結論に辿り着きました。(つづく)


【武 盾一郎(たけ じゅんいちろう)/断酒313日目】

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