羽化の作法[49]「新宿西口地下道段ボールハウス絵画」と「東京大学駒場寮」とのつながり
── 武 盾一郎 ──

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ここでちょっと時間は遡るのだが、96年の夏、東京都が作ったホームレス排除用の突起物に絵を描いて逮捕され、新宿警察署に22日留置されている前後のしばらく間、段ボールハウスに絵を描いていた人がいた。

◎1996年8月6日(火)

その日も新宿西口地下道で段ボールハウスに絵を描いていた。「制作ノート」を見ると、この絵を描いていたと思われる。

https://www.facebook.com/junichiro.take/posts/1747178335327046



二人の男が僕に話しかけてきた。

「あの〜、絵を描きたいんですけど……」





振り向くと十代と思しき、道具箱を持った緑色の髪の毛の男の子と、びっくりするくらい華奢な体でリュックを背負った男の子が立っていた。細身の男の子が、まず僕に話しかけてきたのだった。

続けて緑髪の男の子が、「ボクたちはセツから来ました」と言った。「セツ・モードセミナー」の生徒だった。ところが僕は「施設」から来ました、と勘違いして聞いてしまったのだ。

施設? 何の施設だろう? 孤児たちかな? それとも少年院的なものかな? あるいは病院? 障害者施設とか? とぐるぐると「施設」に関係しそうなことを想像しつつ、返答した。

「僕がここを仕切ってるわけではないので、家主さんに直接訪ねてみるといいよ。僕も一軒一軒訪ねて、許可を貰って描いてるんです」と答えた。

彼らは頷くと、段ボールハウスを見回してどこかに描こうと動き始めたので、僕は制作に戻った。

「大丈夫かな? うまく交渉できるかな?」と、ちょっと思ったが、「自分はここに描きたい」という意思表示が出来ないなら、段ボールハウスに絵を描く必要もないのだから、見守ろう。

二人は難なく絵を描かせて貰う家を獲得したようだった。描く場所が決まって嬉しそうだった。少しホッとした。

彼らの道具箱には、普通に画材屋さんで売っている大きさのアクリル絵の具が入っている。当然と言えば当然なのたが、「絵の具足りるのかな?」と、またちょっと心配になった。

そして彼らは養生用の新聞紙を持ってなかった。新聞紙を持って行って「これを下に敷くといいよ」と渡した。

「突き放して置こう」という気持ちと、「お節介を焼きたくて仕方ない」気持ちが入り混じるのだった。

緑髪の男子は鷹野依登久という名前で、当時18歳。痩せてる男子はエモリハルヒコ。

エモリハルヒコの絵。

https://www.facebook.com/junichiro.take/posts/1747206351990911



ちなみに現在絵芝居師として「なべやかん」一門で活動中である。
http://blog.livedoor.jp/makiko226/archives/8684029.html

https://www.facebook.com/haruhiko.emori


鷹野依登久の絵。

https://www.facebook.com/junichiro.take/posts/1747206355324244



ちなみに鷹野依登久は、剣道界では知らない人はいないという「LET'S KENDO」をやっている。
https://www.youtube.com/user/letsKENDO


東京大学駒場寮の初体験は「ゼロバー」で二晩過ごす、という前のめりさだったのだが、ここで先ほど時間を遡って紹介した鷹野依登久が、駒場寮に部屋を借りていたことを知ったのだ。

これで「新宿西口地下道段ボールハウス絵画」と、「東京大学駒場寮」が繋がった。


●アーティスト「AKIRA」のA倉庫

ここで関根正幸氏の写真を紹介する。1996年の忘年会とあるので12月だろう。


場所は下井草、「A倉庫」と呼ばれた「AKIRA」さんというアーティストの拠点があった。
https://ameblo.jp/akiramania/


僕がここを知ったきっかけは、「清僧」と呼ばれる今でいうところの障害者のお坊さんたちがやっている「ギャーテーズ」というパンクバンドを、渋谷のラママに聴きに行った時だった。

ライブに行くといろんなチラシを貰うのだが、そこにAKIRAさんの主催する「のざらし画廊」の企画が混ざっていたのだ。この時、誰かが「このAKIRAというアーティストには会っておくべきだよ」と言ってくれたので会いに行くことにしたのだった。

その様子が以下のAKIRA氏の『新宿段ボール美術館』にある。
http://www.akiramania.com/profile/ichiko.html


そして、その「のざらし画廊」企画に関根正幸氏もいたのだ。「Scenes Around Me[13]AKIRAさんとの事(2:1996年11月)のざらし画廊・捨て看板展」
https://bn.dgcr.com/archives/20171010110100.html


そこで、上の関根正幸氏の「A倉庫」での写真に戻る。こちらを見てるイケメン男子は大川興業の芸人だった「バンビ高橋」という人物で、仲間からは「ヒデ」と呼ばれていた。ちなみに奥の方で白黒の帽子を被ってるのが僕だ。

AKIRAさんのA倉庫は出会いの場でもあった。実際に先ほどの『新宿段ボール美術館』の文中に「実際「野ざらし画廊」には、すごいメンツが集まってきた。知らない人にはただの変人集団、知ってる人には東京アンダーグラウンドのオールスター。」と書いてある通り、変な連中が集まっていたのだ。

その中に「関根正幸」も「ヒデ」も僕も居たのだった。その後「ヒデ」と駒場寮で再会し、共に『蟻天獄』というサークル部屋を借りることになるのだ。この写真当時ではそんなことになることなんて思ってもいなかっただろう。

「A倉庫」から「東大駒場寮」になだれ込んで行く人たち、そして新宿西口地下道段ボールハウス絵画を描いてる僕たち、廃寮に揺れる駒場寮にどんどん人が合流して行くのであった。(つづく)


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