羽化の作法[90]現在編 子供の頃の時間感覚を取り戻せ/武 盾一郎

投稿:  著者:  読了時間:11分(本文:約5,300文字)



●寝込んだのは9年ぶり
 
久しぶりに食中毒になりました。なぜ食中毒と分かったかというと、前日に同じものを食べた妹も、同様の症状になって寝込んだからです。

気持ちがすこぶる悪くなり目眩でフラフラ。頭痛と腰痛もあります。熱を計ると38.5度。これはダメだと思って横になりました。腰痛は熱が上がってもなるんだと思いました。

ただ、妹と連絡を取り合って同じ症状だと分かったので、気分的には随分と楽になりました。最初は熱中症かと疑いましたが、なんか違う。原因不明の体調不良か? と思うと、一瞬ものすごく不安になったのです。

熱を出して寝込んだのは2010年以来、9年ぶりです。熱が高いと寝るのもしんどいんですよね。

などと書いておりますが、この原稿では寝込んだ報告がしたいのではなくて、子供の頃の時間感覚がよみがえったことなんです。

一晩寝て大分すっきりしました。朝目覚めて熱を計ると36度台。前日の地獄から、朝日を浴びた天国に居るような気分でした。





例えるならジョン・レノンのイマジンのイメージビデオのような、白い宮殿でオノ・ヨーコが窓の戸を開けて、白い光が入るシーンみたいな気分でした。

ジョン・レノン『イマジン』


起きて階段を降りると、まだ目眩がします。朝ごはんを少し食べ、午前中は安静にしてようと再び布団に戻り、横になってスマホをいじりながらウトウト寝落ちしたりしていました。

ふと気がついて時間を見ると、午前10時過ぎくらい。

その時「ああ、まだ10時なんだ」と退屈混じりに思いました。そこでハッとしました。

「午前の時間を退屈に感じ、時間が過ぎるのが遅く感じた感覚」

これは小学生の頃に風邪引いて学校を休んだ時、病の峠を超えた翌日の午前中の気持ちではないか!?

あの頃、病み上がりの心地良さと退屈さでパジャマのまま起き出し、誰も居ない居間の壁掛時計を見るとまだ9時台。ぶり返すといけないので寝てた方がいいのかも知れないけど、体は元気になって行くので寝る気にならない。

テレビを付けると、どのチャンネルもつまらないので、仕方なく教育テレビに合わせて教材用の番組を観る。普段は学校が休みならいいなあなんて思ってたくせに「早く学校行って友達と遊びたいなぁ」なんて思う、あの退屈感が蘇ったのでした。

思えば毎日毎日、「ああ、もうこんな時間だ」と時間が足りない感覚で過ごしていました。子供の頃のあの「退屈な時間」は、遠く記憶の彼方に忘れていました。

「退屈」を感じることは、実はとても重要なのではないだろうか?

病気がだんだんと良くなって行く段階で実感する、生きている喜び。身体を動かしたくて生命がウズウズしている感じが、この「退屈な時間」にある。

錆びついた頭と身体に「せめてもうちょっと働いておくんなまし……」と、油を注いだりおだてたりして、やっと自分を動かしてた毎日でした。

寝込んだおかげで、久しぶりに自分の命の本性に触れることができたような気がしました。私の命はガッツリ生きようと、凄まじいエネルギーを発しています。しかし、普段は恐らく何かがその生命のマグマに蓋をしているのです。食中毒になり、全身の細胞が菌と戦うために蓋を外したのでしょう。

このリミッターみたいなものは、確かに命を持続させるのに必要だと思います。そして年齢と共に強化されていくのかも知れません。しかし、過剰に働くと生命の瑞々しさを失わせてしまいそうです。

●本当は老化していない

それはアレルギーに似ています。

“私たちの体には、ウイルスや細菌などの異物が入ってきたときに体内に「抗体」がつくられ、これら外敵をやっつけようとする「免疫」というしくみがそなわっています。

ところが、この免疫のしくみが、食べ物や花粉など私たちの体に害を与えない物質に対しても「有害な物質だ!」と過剰に反応して、攻撃をし過ぎる結果、逆にマイナスの症状を引き起こしてしまうのが「アレルギー」です。本来は体を守るはずの反応が、自分自身を傷つけてしまうアレルギー反応に変
わるのです。”
https://allergy72.jp/anaphylaxis/allergy.html

私たちは皆誰でも、爆発的なエネルギーを持った生命体です。それを制御するために、脳と筋肉は成長・変化してきました。

しかし、その脳が逆に生命を抑圧してしまうことがあります。使い方によっては、「思考」が自分を檻に閉じ込めて、自分自身で疲弊してしまうのです。

生命力に蓋をしてるのは、私の場合は「無駄な思考」にあるのかなあって思ってます。

例えば、ここのところ「今この瞬間が楽しいはずなのに、明日のやることを考えて面倒臭くなっている」ことに気が付いたのです。

なんでこんな思考をしてしまうのか、自分でも分からないのですが、自分で自分を凹ませてる思考であることは間違いない。

この無駄な思考を省きたい。そうしたらもっと生命力が溢れてくるんだと思うのです。

「いやいや単なる老化でしょ? 頑張っても変化しないから仕方ないよ」と思う人もいるでしょう。ところが、最近は脳も身体もずっと変化し続けると分かってきたようなのです。

例えば、たまたまTEDを見つけたのですが、脳は常にいつでも、そしていつまでも変わり続ける、というスピーチです。

『この講演で、あなたの脳は変わる | ララ・ボイド | TEDxVancouver』


私の脳の状態は、毎日の脳の使い方に合わせて、更新し続けているということです。

ということは、「脳の老化」と普段呼んでる現象は、「老化」ではなくて脳の使い方に対応した変化ということになります。

歳を取って少し偉くなるのと、本当は頭をうんと使う仕事を部下がやることになったり。経験が増えてパターンを獲得していくのは良いのですが、その後はパターンに当て嵌めるだけになっていったり。

ルーチン自体も悪くないのでしょうが、新規探索がなくなってしまったり。確かに年齢を重ねると、社会的にも自己欲求的にも頭を使わなくなって行く感じがします。

「脳が変化し続けるのは分かったけれど、筋肉は老化するよね」と思う方もいるでしょう。ところが、筋肉も同様に老化しないという、ちょっと驚きのレポートがこちらにあります。

【武田邦彦 ブログ 音声】身体を老化させる最大の原因がわかった! 老化の常識が一掃された。【武田教授 youtube】


筋肉も脳と同様に歳を取ると使わなくなっていくから、それに応じて変化してるだけで、老化してるわけではないとのことなのです。筋肉も70歳くらいまでは老化しないという、ちょっと驚きの内容です。

確かに昔はもっと動いてましたよ。毎日あちこち動き回ってました。

日々の脳と身体の使い方の積み重ねに応じた変化が、今の脳と身体に出ているだけで、それは「老化」ではなく暮らし方の結果に過ぎない、ということのようです。

そう思うと、歳のせいにはできなくなりますが、変化し続けるならば今日からでも変えることが可能になるので、希望が湧きますよね。

●子供の頃の時間感覚に戻るには

ところで話は戻りますが、思考についてです。子供の頃のあの時間感覚は「無駄な思考」がなくなると起こるのではないだろうか。

久しぶりの食中毒に、身体の細胞たちがびっくりして全力で治療に当たり、無駄な思考をしなくなったことによって生じた感覚ではないだろうか。

子供の頃はきっと無駄な思考をあんまりしていないのだ。と言うと、いやいや子供の頃の方が無駄なこと考えてたなあって思うのだが、そうではないのだ。

子供の頃の「無駄なことを考える」とは想像である。「無駄な思考」とは、元々は自分を守る為の判断や予測のことである。

雲を眺めてると、犬に見えてきてあんなふわふわした犬に乗りたいなあとか、ちぎって食べたら美味しそう、とかが子供の頃の「無駄なことを考える」ですよね。

雲を眺めたら、雨が降りそうだから窓は閉めて寝よう、のような実用的な判断や予測が「無駄な思考」になって行く、と思うのです。

確かに怪しい雲行きの夜に、窓を閉めて寝るのは賢明だろうが、猫がひょいと窓からやって来て、友達になる物語への可能性は閉ざされてしまう。

歳と共に、自分の身を守るための「無駄な思考」を強化してしまいがちになる。なくなってはならないものだけれど、あまりにも思考が強いと生命力と想像力を阻害してしまい、段々と動かなくなり頭も使わなくなって行く。

「老化」とは自己保全の「無駄な思考」が生み出した、皮肉な知恵の姿なのかも知れない。

子供のままでいることが良いとは思わないが、あの頃の感覚にいつでもチューニングできるようにしておきたい。

そのためには何をしたら良いのだろうか? ちょっとまとめてみました。

私は子供の頃の時間感覚を取り戻せているわけではありませんので、以下は自分用の仮説ノートです。お役に立てたら幸いです。

<子供の頃の時間感覚を取り戻す為のメソッド>

自分を守るために生まれた「判断」と「予測」であるが、それは後に「無駄な思考」となり、生命力と想像力に過大なブレーキをかけてしまうことがある。そんな状態を感じたら、以下を実行する。

1◇判断をしない

何につけてジャッジをしない。他者の作品、他者の言動、時事問題etc。なんでもいったんそのまま受け止めてみる。もし違うと感じたら、ダメージを受け過ぎないようにさっと受け流す。その時に批判や非難の言葉を生み出さないようにする。出てきてしまったら、公言せずに紙に書いて捨てる。

自分を守る為に何かを叩いてしまう思考は、頭を使っているようでいて、最も脳内エントロピーを増大させるだろうから要注意。

批判精神や反骨精神はもちろん重要ですが、それは自分が進む道を塞ごうとした具体的な邪魔者が、マジョリティだったり常識だったりした時にのみ必要なこと。道無き道をかきわけて歩くなら、別に批判精神とか反骨精神とか持ち出さなくても好奇心があれば大丈夫。

2◇予測しない

予測しないで生きていけるのか? と思うかも知れませんが、「無駄な思考」は頼んでもいないのに未来を予測します。そして、勝手に不安になったり悲観したりするので本当に無駄です。

未来を不安に思わないって、ものすごく大切だと思うんです。予測しないで、じゃあ何をするのか?

好きなこと楽しいことを考えるんです。そして、それが実現するにはどうしたらいいか考えるんです。これにはうんと頭を使います。

具体的に何をすれば良いかが分かったら、試してみます。失敗しても構いません。またやり直せばいいのです。そして、未来でも過去でもなく、今に集中することが重要です。

エクササイズとして、やっぱり瞑想が良いでしょう。閉眼片足立ちも良いでしょう。目を瞑って歩くのも良いでしょう。

上記を実践して、子供の頃のあの永遠のような時間感覚が蘇ったら成功です。

今日からまた張り切っていきますよ!


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