羽化の作法[109]現在編 犬のうんこ踏んじゃったの法則
── 武 盾一郎 ──

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例えがシモネタで本当に申し訳ないのですが、「犬のうんこ踏んじゃったの法則」ってのがあります。

子どもの頃、友達とふざけながら下校してる時とか、ふとしたことで犬の糞を踏んずけてしまうことがしばしばありました。当時はまだ野良犬もいたし、飼い主もそんなにちゃんと犬の糞を片付けてなかったのでしょう。

「犬の糞」はメジャーな存在だったのです。僕はよく犬の糞にたかる銀蝿の輝きを、不思議な気持ちで見つめていました。

さて、犬の糞を踏むと大変です。「うわぁ! 武、犬の糞踏んでる! きったねー! エンガチョ!!」と言われて、友達はサーッと逃げていくのです。




ところで、汚いモノを触った後に、誰かにタッチすると「菌」をその人に感染させることができるという遊びがありました。

その時に、人差し指と中指を絡ませて「エンガチョ!」(縁を切った)と唱えると、バリアが張られてタッチできないというルールがあるのです。この自然発生的な遊びは、子どもの頃とてもポピュラーでした。

話を元に戻します。ここで「犬の糞」を踏んだ人間は二重にダメージを受けることになります。一つ目は、不本意に犬の糞を踏んでしまった自分に対する、不運や情けなさに対するダメージ。二つ目は、周りの友達から避けられ忌み嫌われてしまうダメージ。

こんなゲームが子どもたちの間で自然発生的に生じていたのです。あなたのところはどうでしたか?

これは子供の遊びと思いきや、「原型」はそのまま大人の社会に移行されています。例えば、仕事でうっかりミスをした時、ミスした自分に落ち込む上に、さらに上司や同僚から非難されたりします。ダブルショックです。

また、これは差別の原型かも知れないとも私は考えています。本人の意図しないことで受けた「何か」によって、自分でも落ち込み、かつ周りからも責められる、ことだから。

例えば、伝染病の感染、肌の色による差別は、本人の意図とは関係なく感染したり、遺伝子で肌の色が決まったりするだけなのに、社会から不当な扱いを受けてしまいます。

なんでこんな理不尽が今なお世界中でまかり通ってるのでしょうか?ひょっとしたら、人類に備わったとても根源的なものだからかも知れない。

それを私は「犬のうんこ踏んじゃったの法則」と呼んでいます。一見ライトな現象だけど、極めてヘヴィなことである、と。

現在、「コロナ禍」と「Black Lives Matter」が重なって起こってますが、これは偶然ではなく、何か重要なところが同根でしょう。

そして、ひょっとしたら今、人類はその深層部から変化する時期なのかもしれない、とも感じています。ダブルショックを受ける人を排除することが、種の保存に繋がらない。そのように、遺伝子レベルで変化が起きているのかもしれないのです。

●アラレちゃん

ところで話は唐突に変わりますが、『Dr.スランプ』(鳥山明)という漫画はご存知ですよね。あの「アラレちゃん」です。

Dr.スランプ 完全版
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アラレちゃんは「うんち」を突っついて、棒に刺して振り回します。これには、「うんち」がそこら辺に落ちていることが前提になっている。
http://lineup.toei-anim.co.jp/upload/save_image/episode/5144/story_img_1

「ペンギン村」は一風変わった村とはいえ、当時『Dr.スランプ』を読んだ私ら子供たちの日常の中で、「落ちてるうんち」は風景として当たり前だったからこそ成立してる行為なのです。
https://img.aucfree.com/p671608906.1

触ると「エンガチョ」されてしまう「うんち」を積極的に扱うアラレちゃんに、私は子ども心にかなりの衝撃を受けた記憶があります。これは「穢れ」による差別意識への、天真爛漫な革命行為だと言っていい。

作者に「差別撤廃」の意図があったかは分かりませんが、例えば、「梅干し食べてスッパマン!」と言って登場する、まったく役に立たないスーパーマン・パロディキャラクタが登場したりと、ヒーロー像の逆転も描かれていることから、何か価値観を反転させようとするパワーを子供心ながら感じた気がします。

もし差別をなくそうと作品で表現するなら、「差別」を持ち出してそれに「反対」する表現ではなく、アラレちゃんのように楽しそうに「うんち」を持って共に走り出すような表現をした方が断然クオリティが高い。

「忌み嫌われていた存在」を「愛くるしい存在」にリフレーミングさせることこそが、表現の最大の魅力のひとつですからね。名作と云われる物語は、ほぼほぼこのリフレーミングをしています。

害獣でしかなかったウサギを愛らしくさせた『ピーター・ラビット』、そしてまた害獣でしかなかったネズミを愛らしくさせた『ミッキー・マウス』、気味の悪い妖怪だったトロールを愛くるしくさせた『ムーミン』、などなど。

なので私は、ゴキブリを愛くるしく描いた漫画『気分は形而上』(須賀原洋行)は名作だと思っています。
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手前の話になるのですが、ガブリエルガブリエラが描く『13月世の物語』に登場する精霊に「ピッピ」がいますが、虫の中でも嫌われがちな毛虫の精霊だったりします。


また、働くのが大嫌いなアリの精霊ダリズくんもいます。


この社会では排除されがちなモノやコト、そして悲しみや怒りを愛くるしく描けたらなあと思っています。

●犬のうんこを踏んだらどうする?

さて、最後にダブルパンチの「犬のうんこ踏んじゃったの法則」から抜け出す方法はないか考えてみました。

答えはこうです。「犬のうんこを踏んだら喜ぶ」

身体に悪い菌とかいるかもしれないので、慎重に扱う必要はありますが、こうなったら喜んでしまいましょう。仕事でうっかりミスしたら喜んでしまいましょう。感染したら喜んでしまいましょう。実際、肌が白くなくても、私は充分嬉しいです。まずは自ら凹むことを回避するのです。

これ、口で言うのは簡単ですがなかなか難しいです。ちょっとずつやっていきましょう!


【武 盾一郎(たけ じゅんいちろう)/断酒166日目】

ガブリエルガブリエラ動画配信開始しました!

『ギャラリー13月世大使館!001:御予約開廊日』


これからは「13月世の物語」や「作品解説」も動画にしていこうと思います。

《ギャラリー13月世大使館》御予約開廊日のお知らせ
・2020年6月27日(土)13〜15時
・2020年7月14日(火)13〜15時・16〜18時
・2020年7月18日(土)13〜15時・16〜18時

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