KNNエンパワーメントコラム 東京拘置所獄中記(4)
── 神田敏晶 ──

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●暇がこれほどまでにつらいなんて…


また、いつになったら仕事ができるんだろう。ボクは拘置所に遊びにきたのではなく、労役しにきたんだぞ! と声を大にして言いたい。給食係は意外に楽しそうだ。拘置所内には他にもいろんなところで、労役をしている先輩たちがいる。なんだか、「猿の惑星」で働く人間のようだ。手術をされて猿に反抗できない人間に成り下がってしまっているんだけどネ。

「ワニ分署」などで見た世界とはかなりちがう。ここもひとつの社会としてモメ事ひとつ起きていない社会だった。それにしてもなぜ、雑居房に入れなかったのだろうか? モーホーさんに狙われるからか? もしくはそっち系に思われたのか? まあ、ケーシー先生が来たら聞いてみよう…と思った時にアイデアがひらめいた! そうだ! ブザーで呼べばいいんだ。部屋には万一の時に呼ぶブザーが設置されてあった。用事がある時に使うそうだ。

しかし、そんな質問くらいで簡単にブザーをすると、ケーシーは、ユナイテッド航空のフライトアテンダントよりもイヤーな態度をされそうなので、お願いした「使い捨てのコンタクトレンズ」を使いたいんですがという質問を追加して、ボクはブザーを押した。鳴ったかどうかがわからないので、5回くらい押してみた。


そんなことをして遊んでいても、一向に時は経ってくれない。今は何時なんだろう…。暇だなあ。パソコンとネットがあればここは旅館以上に幸せかもと思った。規則正しい人間ドックホテルにしてもいいかなあ。もしくは禅を習得できるとか、拘置所+αのビジネスモデルを考えていく。ギターがあれば上手になるだろうなあとも思った。

すると体感時間30分ほどで、ケーシーがやってきた。ケーシーの顔には、「お前ごときが俺様を呼び出しやがって」という文字がモリサワの見出しゴシックほどの大きさで書かれていて、「なんのようだ? カンダ!」という。そこで空気を読み取り、ボクは、質問の順番を突然変えた。

「あのう…ですね。お願いしていました。使いすてのコンタクトレンズを…」と言うと、ケーシーは自分の非を認め、「ああ、そうか、そうか、目が見えないんだ…。すぐにもってきてやるからな!」といい、ゆさゆさと体をゆらしていってしまった。「なぜ独房か?」というケーシーにとってどうでもいいような質問はそれからにした…。本当はそちらのほうが大事なんだが。毎日とりかえていないけど、こういう時には、ワンデイアキュビューはブザーのいい口実となった。

しかし、それからしばらくしてもケーシーは帰ってこなかった。多分、ケーシーは何かの目的で動いていても、他の用事が入ると、その目的を見失ってしまうタイプのような人間だった。それはそれでいい、暇で死にそうな時にブザーを押す権利を僕はゲットしたのだから…。

それにしても暇がこれほどまでにつらいなんて…。たっぷり寝ているので寝ることすらできない。仕事がしたいと願った瞬間。優しい先輩が、仕事の先輩と刑務官を連れてきた。

「200番さん、これから仕事の説明をします」と台本を読まされるような説明をしはじめた。はじめてドアの鍵があけられた。「脱走するなら今だ!」と思ったが、ダースベイダー卿の要塞のようなところなので、すぐにあきらめた。

「小机をこちらに向けて」と言われて向けると、どさっと紙の束が渡された。「200番さんの仕事は"封筒はり"です」と言われた。

本当にこんな仕事なんだと納得しながら、初めてアルバイトをした時のような、妙な緊張感を感じることができた。しかし、何よりも、「封筒はり」でも暇とサヨナラできたことがうれしかった。

次回へつづく…。



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