ネタを訪ねて三万歩[23]一人でイライラしながら機能を理解する楽しみ
── 海津ヨシノリ ──

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●私にとってよい刺激になる新講義

大学で来期から画像処理に関する講義を新たに担当することが決定し、益々グラフィックソフトウェアの勉強が欠かせなくなりました。また、毎月Apple Store Ginzaで開催している『画像処理講座』とも部分的に連動するような形になってしまうかもしれません。

もっとも私の場合、アイデアはコンピュータの中からはほとんど生まれませんので、グラフィックソフトウェアの勉強という表現は的外れかもしれませんね。しいて言えば、画像処理全般の勉強(この表現は堅苦しくて嫌ですね)といったところでしょうか。

なんと言っても、私にとって一番の情報源は人との会話かもしれません。様々な年齢の様々な職業の方とフランクに話す先に、アイデアのヒントは色々と潜んでいます。逆に、同年代の同業者とばかり話していると脳内は確実に酸化してしまいます。酸化しないまでも、悪い意味で保守的になってしまいますね。年齢の異なる異業種の方との触れ合いは、適度な緊張感を生むのでとても刺激になります。


ですから、高飛車な方の気分を損なわないように話を伺う、なんていうのは時間の無駄ですね。最近、異業種の方で、かなりその業界では高名な方たちにお会いする機会が多いのですが、運が良い私は温和で腰の低い方ばかりに遭遇します。もっとも、そうでない方には近づかない動物的な勘のようなものがあるのも確かなので、案外無意識により分けているのかもしれません。何かの本で読んだ記憶ですが、有名になるほど腰が低くなるのが普通で、高慢になるのは偽物の証拠なのだとか。

とにかく年齢的に、だんだんと新しいものを覚える事は避けたくなってきているので、新講義は私にとってよい刺激になると今から少しばかり興奮気味です。例えば通常のセミナーであれば、『始めにPhotoshopありき〜』からスタートしてしまいます。それはそれで構わないのですが、私自身が研究(というと大袈裟ですが一応色々と)していることを率直に整理しながら解説し、更にライブでそれらを提示するというスタンスを実現できるということは、かなりの驚きです。

つまり、益々Photoshop以外のツールの勉強に迫られてきたというわけです。結局、これだけをマスターすれば大丈夫という王道は存在しない世界です。いや、かりに王道があったとしても、それさえマスターすればという発想だけでは、モノを作り出すときのアイデアは生まれてきません。無関係、あるいは無駄と感じることでも、どれだけ多く体験に接してきたかが大切です。

それらは大きな軌道でゆっくりと、自分の目指す方向にかならず近づき影響してくるからです。そして、そんな様々な経験や関わりが多いほどアイデアの箱は大きくなります。クリエイターは直ぐに理屈っぽくなってしまう傾向が強いので、格好など付けずにどれだけバカを続けられるかが一番大切だと感じています。と、ここまで書いて、この文章そのものが理屈っぽいと感じてしまいました。すみません。

●楽しないで頭と体を使う

で、話を変えると、前回のテキストで少し触れた、modoという3Dソフトでこの一か月半は爆発状態を続けました。ネット的に言うと、祭り状態といったところでしょうか。もちろん3Dソフトは、それ一本で万能ということを考えてはダメ(成果物の方向性により定番が数多く存在するため)な世界なので、自分にとって取っ掛かりのいいソフトで掴みを得る、という考え方を実践したような流れです。

これは何も3Dソフトに限定した事ではありません。気持ちよく入り込めるツールとの出会いが大切という意味では、どんなジャンルのツールでも同じです。そして、その気持ちの良いツールというのは人により千差万別です。かつて私は何かの連載で書いたことがありましたが、ソフトウェアは、自分にとって良き恋人のような存在でなければならないと感じています。

とにかくMacBook Proにmodoを忍ばせて色々なところで見せびらかしています。粘土細工のようなものが、目の前で瞬時に形としてでき上がっていく過程をライブで見た人の多くはかなりの衝撃を受けていました。まっ、驚かせるという意味ではZBrushの方が破壊力はありますけど、お気軽にMacBook Proに忍ばせる事が出来ないのでどうしようもありません。ちなみに、私のMacBook ProにはShadeとSTRATAも忍ばせてあります。いつでも素早く色々と遊べる状態というわけです。

そんな流れの中で、多くの方にとって私らしくない(イメージとして)こともかなり行なっています。例えば、Painterなどがそうです。予想外に某所でPainterの簡単なレクチャーをすることになり、おさらいを兼ねてざっくりと全体の機能を復習していて、今度はPainterにはまってしまいました。もちろんアレコレ爆発することには限界がありますので、少しずつ色々と抑えてはいますが、この勢い付いた時のエネルギーは、やっぱり大切ですね。

そして、その次に大切なのは失敗を恐れない気持ちです。どこかに恥ずかしいという気持ちが生まれてしまうと、少しずつ守りに入ってしまいます。これはクリエイターにとっては致命的な動きだと感じています。例えば、作り上げた作品は完成した瞬間に後悔が生まれることが当たり前なのです。もし、後悔が生まれず最高傑作だと自賛できたとしたら、そのクリエイターはそこで終わりなのではないでしょうか。

modoもZBrushの時と同様に分かる範囲からスタートし、ライブでBlogに作品を公開し続けています。最初はレンダリングもないプレビュー状態からのスタートです。解らないからこそ、解る範囲で作品(もどき)を作り続けることでなんとなく理解が進んできます。もちろん、しっかりしたマニュアルが添付されていますが、じっくり読んでいるよりも作ることが先というのが私のスタンスです。体で覚えないと直ぐに忘れてしまうからです。

もしかしたら、私は心情とは裏腹に体育系(スーパーマンが地球を逆回転させてもあり得ないと思いますけど)なのかもしれないですね。もっとも、日本語マニュアルがあるから分からないことは直ぐに理解できるなんて可能性は少ないですからね。ものによっては英語マニュアルの方が理解しやすい場合もあります。だから、あまり期待していないんですよ。考えてみたらIllustratorもPhotoshopも英語版でマスターしたわけですから。人間の底力は計り知れません。自分にそんなパワーがあったのか疑問符も付きますが……。

そんなとき、吉井宏さんから届いたメールに書いてあった『一人でイライラしながら機能を理解する楽しみ』というフレーズが気に入ってしまいました。詳しい人に聞くのは簡単だけど、この楽しみは今しか味わえないと思うと、なんだかワクワクしてきます。IllustratorもPhotoshopをマスターした時は、ワクワク感のボルテージを振り切っていたからこそ成し得たのかもしれません。そんな、楽しないで頭と体を使う行動はクリエイターにとって重要な儀式かもしれません。しかし、もしかして私はサディスト? もっと刺激が欲しい〜。

刺激と言えば11月2日、初めて「デザインフェスタ」を体験しました。今年の私にとって学園祭以降で最大のイベントとなりました。いや、次回以降も絶対に入場したくなるほど癖になりました。

この雑然とした世界観とエネルギーは、怪しいペルシャの路地裏のような錯覚すら覚えます。私は小心者なので危険な場所へは近づかないようにしているので、憧れている本物のペルシャの路地裏を訪れることは当分ないでしょうから、この「デザインフェスタ」の世界観は病みつきといったところです。きっと何かの臨界点なんですよ、吉井さん。(←このフレーズの意味の分からない方はデジクリ2101号の吉井さんの記事を参照)私もそれまでは見たいとも思っていませんでしたから。きっと、メディアの取り上げ方が間違っていたんでしょうね〜。

【海津ヨシノリ】グラフィックデザイナー/イラストレーター
今年は色々なモノが壊れたり故障したりする年でした。プリンタ、テレビ、車、ビデオデッキ、洗濯機、冷蔵庫、浄水器、給湯器、水道管、床暖房、エアコン、ベッド、複写機、キーボード、電話機、携帯電話、カセットデッキ……etc。あまりにも色々ありすぎて、怒りを通り越して脱力感の塊と化してしまいました。しかし、修理に来た業者が修理代金をごまかしたりするのには、さすがに怒りを隠せませんでした。何事もまず見積もりをメーカーから取り寄せてから対処しないと、修理担当者のタバコ銭を上乗せされるのがオチです。また、修理中に処理内容をしっかりと確認しておくことも大切です。だんだんと世の中が信用できなくなってきているような気がします。悲しいことですね。

まっ、暗い話ばかりで今年が終わってしまうのも情けないので、少しだけ明るい話はないかと探してみたら、USから写真撮影のオファーが入ってきました。仕事ではなくてボランティア活動なのですが、私の妙な写真が気に入っていただけたようで、それはそれで面白いかもしれないと安請け合いしてしまいました。評価していただける人がいればそれなりに頑張ってしまうのは、私が祖父(さすがに曽祖父の名前は知りません)から父を経由して受け継いだDNAのなせる技、といったところかもしれません。そんなわけで、今後もこんな具合にヨタ話を綴り続けてみたいと思いますので、宜しくお願いいたしします。

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海津ヨシノリのイメージング&デザインスーパーテクニック
海津 ヨシノリ
ソーテック社 2005-07
おすすめ平均 star
star結構役に立ちます。


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modo 202 日本語版 /パッケージ
マーズ 2006-09-27

by G-Tools , 2006/12/13