武&山根の展覧会レビュー 印刷博物館で「知」に反応する
── 武 盾一郎&山根康弘 ──

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山: こんばんは! 選ばれない方のかさい、いや山根です!

武: いやー、笠居さんって困った人だなー(笑)。
< https://bn.dgcr.com/archives/20071024140200.html
>

山: ほんまほんま。チャットすっぽかしたり人の話し聞かんかったり、ひどい人やなあ。

武: まつむらさんのご苦労、よおーく分かります(笑)。

山: 僕なんかもうこんな人を友達に持ってほんま大変ですよ。まったく。

武: ってか、山根が笠居さんと被ってるって話しだぞー。

山: え? そうやったっけ? 僕はそんなことした記憶ない。記憶はない。

武: 酒呑むといっつも記憶ないじゃん、キミ。チャットしたこと自体の記憶すら忘れるしよー。

山: よくこれで原稿落とさんよな(笑)。

武: 次の日、俺が編集してるからだっ!!

山: え、そうなん? 記憶にない、記憶にないんだよ。

武: ……なんかその言い回しいいな。俺も使うべ。

山: あかん。二人とも記憶がなくなった場合、今までいいためしがない(笑)。

武: でも、そんなこと繰り返して生きて来れたんだから大丈夫だべ。
参照→『武・山根、記憶を失っている状態での会話。焼酎はボトルじゃなくて一升瓶にするべきだったと、酒が足りないので山根が文句を言っ』
< http://jp.youtube.com/watch?v=0oDrGy4fxXw
>

山: そうか……、そういう考え方もあるな。人生てきとー!

武: なんにも思い出せない真っ白で「うぶ」な記憶に戻って毎日を送りたい。朝起きたら、卵なんさ。

山: 卵かい!

武: 卵の殻の中には全宇宙が入っているんぜよ。全知全能。

山: じゃあそのまま明日の朝ご飯にします。僕が全知全能。わっはっは。

武: 胃の中で孵化して寄生虫になってやる。

山: 武さん、胃の中じゃなくても寄生してるじゃないですか(笑)。実家消失したし。

武: いや、リアルに同意。

山: 素で返さんとってください(笑)。

武: そんな感じで、行ってきましたよー!!って、どこだっけ? 記憶にない。

山: なにーっ! 行ってきましたよ! えーっと……。なんやったっけ。

武: では、二人とも行った場所を忘れてしまったので、そろそろしめにしよう。

山: それではおやすみなさい!

武: 今回の評。☆☆☆☆☆ 星5つ。記憶なくす程楽しかった! おすすめです。ぜひ行きましょう!

山: いいかげんにも程がある、って編集長におこられる! 記憶を取り戻そう、えーっと……。

武: 俺たち冒頭部分しか読まれてないからいいんだよ、本文長いし。で、編集長さま今度ぜひ呑みましょう(笑)。まつかささんと合コンってのもいいなあ、女人禁制(笑)。

山: 呑むんか! で、記憶なくすんか! ……やっぱそれもいいな。

武: そうそう。人生、酔生夢死。


●印刷博物館に行ってきました!


山: というわけで行ってきました! 印刷博物館です!
< http://www.printing-museum.org/
>

武: 覚えてんじゃん(笑)。【百鬼夜行】ですな。

山: ちゃう! 【百学連環】です! 飯田橋です。

武: 俺は、江戸川橋駅から行ったんよ。

山: 僕も雑司が谷から歩いて行ったんですよ。なんかあそこらへんはほんま印刷やら出版やらが多いよなあ。

武: 凸版印刷の博物館なんだね。

山: そうやね。ネットで1割り引きの割引券があります!
< http://www.printing-museum.org/access/map_coupon.html
>

武: 500円が450円! だから俺、帰りに吉野家で豚丼330円じゃなくて牛丼380円を頼んだんさー。

山: お、得したな! 得した得した! ……って、一瞬遠くを見つめてしまうのはなぜだろう……。というわけで、まあ今回の展示があった訳ですが。

武: 博物館って楽しいんだよな。内緒だけど、美術館行くより楽しい。

山: そうなん?

武: アートだと俺、やっぱ構えちゃうっつーか、そういうんはもうクリアしたいんだけどね、博物館だとなんだか素直に楽しめちゃうんだよ。

山: 確かに博物館の楽しさってあって、なんやろ、素直に「へ〜!」って思えるっていうかね。歴史が絡んでるからか? 例えば古典画を見るのも博物館的なわけで。

武: 子供の頃は別に歴史とか分かんないけどさ、展示されてる物、その物質感を眺めるのが楽しかったね。鉄部の無骨な鈍い光沢とか、ミニチュア造形の水の質感とか、家とは違った匂いとか。

山: なんかみょーに興奮したりするよな。人形とか。

武: そうそう。で、今回の【百学連環】ですが、こういうことだそうです。

「知るたのしみ 見るおどろき
私たちは、長い歴史の中で、さまざまな出版物から大量の情報と知識を得るとともに、多大な影響を受けてきました。その中で、博物誌と百科事典は、人類が観察したさまざまな事物を、集成、分類、記載・記述することで、知の体系化を目論んだ出版物であり、幅広い知識と教養を私たちに提供してきました。特に、印刷誕生以降は、文字と図版を通して、より多くの読者に知識を提供し、科学や学問、文化の発展を促し、社会の成立に大きく貢献しました。本企画展では、私たち人類が、歴史を通じて、いかに、どのようにして知の体系化を図り、普及に努め、そして知的遺産を継承してきたかを古今東西の博物誌と百科事典ならびにさまざまな図譜により紹介します。また併せて、これらのさまざまな博物誌と百科事典の誕生に対して役割を担った印刷技術についても紹介します」(印刷博物館HPより)。

●百学連環って何よ?


武: というか、「百学連環」ってなに?

山: 「エンサイクロペディアとは、一定の分野の知識をおおい、百般にわたる学科を記述・口授するものであり、円環のうちに、初心者をかこいいれて、教育するための手段である」(『百学連環』カタログより)。エンサイクロペディアは百学連環の語源ね。西周(にしあまね)という人がヨーロッパに留学して学んで来た事を日本に伝えるために作った語らしい。

武: ふぇー。ウィキペディアだと「西周(啓蒙家)」とある。すごいな、啓蒙家だって。そんな職業あったんか(笑)。

山: わはは。確かに。

武: ちょっとでも難しいのう。。。

山: ペリーが来た時ぐらいの人の話やし。

武: 「読み書きそろばん」という現実的訓練とは違った教育法ってことなんだろうかのう。

山: そうみたい。ちなみに「哲学」という語も西周が作ったみたいやな、日本語訳として。で、「実際、十八世紀の前半になって、まずはイギリスにあって出現したエンサイクロペディアにあっては、学問上の知識は、それぞれに個別の価値をもち、その体系上の地位にもかかわらず、断片としても存立が可能であると断言した。このために、あえてアルファベットによる配列を採用して、利用者の用に供した。しかし、このことは諸断片の知識が、孤立して存立することを意味するのではなく、おのずから連環をなして、並立することが、含意されている」(『百学連環』カタログより)。

武: ウーム……。ん? つまり今のネットの情報共有並列化じゃねーのか?

山: わはは。今となってはそういうことかもしれんな。

武: アルファベット順どころじゃないし(笑)。

山: なんぼでもあるわな。検索一発(笑)。

武: 知による宇宙的体系化を理想としたのかなーって思うんだけど。今のネットだと「知」ではなく「情報」という単語になるんだけどね。

山: 「知」は「情報」でもあるよな。それは「叡智」であるのかもしれんが。「知」らんとわからんねんけどな。

武: 「知」る為に何が必要か。まずはそれを知れる場所に行く。これが一番だよね。

山: 人で言えば、何かを知っている人、というのはやっぱり一目置かれるしな。

武: 通常それは年上だよな。

山: そうやね。経験だとかはやはり年上が多いわけで。ただ、経験だけでは知っていることは限られるんだろうが。

武: その経験がやったら多くて面白い奴はやっぱり今だって一目置かれるよな。

山: やっぱおもろいもんな。畏怖すら感じたりするかもね(笑)。

武: 百学連環の言葉に戻るけどさ、「初心者をかこいいれて、」ってあるならば、何も特別な人だけでなく、誰でも「百学連環」の一端を成せるってことだよね。西周は特権階級だったけど、今や誰だってその「知」や「経験」を公開・共有出来る。「啓蒙」という時代は終わった。とも言えるんじゃないのかなあ。山根がよく言っていたように。

山: そう思うんよな。過去の人々が一生懸命一般に啓蒙して来た事柄はもうすでに行き渡ってて、それらをかなり自由に使える状況になってるわけやんな。例えば検索のシステムというのはやっぱり、最初はアルファベットを順番にやったからこそあるんやろし。

武: 今の出版は、かつての「理想に基づいた使命的啓蒙」よりも「知的権威遺産に寄りすがっていたい」ってことだったりして(笑)。


●インターネットと本


山: 「現代において私たちは、インターネットで瞬時のうちに世界中の膨大な情報にアクセスできます。しかし、そうして得られた情報は単なる情報でしかありません。」(社団法人日本書籍出版協会理事長小峰紀雄ごあいさつより)って言われておるんですが、確かにそうなんやろうけど、それは今の状況をあんまり考えてないような言葉に聞こえてしまうところがある。

武: 「知」を広める、あるいは「共有」するためにかつての人たち(主に支配階級の人だけど)が心血注いできたのは確かだべ。その中で、「本」という存在は抜きにして語れない。ただ、百学連環の根幹を考えると、それは「本」という形態は関係ないんじゃないのか?

山: 「本」という形態がかつて重要であったことはまぎれもない事実で、それによって多くの利益なりなんなりがあったことは誰も疑う余地がない。だからといって、それが今もまったく通用するか、というと難しいよな。

武: 確かにね。

山: 今までは「本」、「書物」という形態は広めることを前提として作られていた。「本」と「印刷」はその意味では不可分やな。

武: 「思想」「哲学」「知識」を伝える媒体はもはや書物である必要がないと思うんさよ。「本」は「物体」そのものの価値性を持つっていうか、つまり脳内だけでは無理な物、ここに「アーティストブック」としての「本」のアイデンティティーを感じるんだけどね。

山: つまり「本」というものを情報を伝達するだけのものではなく、何かしら、もうちっと違うものも伝達する手段として捉えている、ってことですかね。

武: 何しろ本は手に取れる物質ですから。

山: 紙やしな。ま、紙じゃない本もあるけど、物質よな。じゃあ、インターネット上の情報はなんやろ? 物質ではなくてなんなんやろ? 電子?

武: 「情報」でいいんじゃない(笑)。

山: そうか。

武: 情報は「並立」だし、百学連環の思想とリンクすると思うよ。小峰紀雄さんのあいさつには論理的矛盾点があるよな気がするんさ(笑)。印刷会社が印刷(複製)の長い長い歴史を肯定するのは当然だけど、その上に今があるのも確かだが、今は複製の意味合いと方法が全く変わってしまった。その中で印刷の意味を問いただした時、印刷会社だったら「印刷こそ素晴らしきものだ」っていうのが、まあ当然なんだけどね。

山: まあな。当然利害が絡んでるからなあ。儲けるか、儲けないか(笑)。

武: なるほど、西周は儲けるか儲けないか考えなくてもいい程の人だしの。


●学問って何?


山: っていうか、展示の事はまるで話してないな。

武: そうだのー(笑)。「知」というところでいろいろ反応してしてしまったからの。ここで俺が思ったのは「知」ってのは「知識」じゃなくて「考える」ってことじゃないんかな?

山: 考えることはもちろん大事やけどそれ以上に、何かを知った上で感じることとちゃうんかね。

武: もちろんそうだけど。何かを感じると、それに伴って考えたくなる、考えるとそれに伴っていろいろ知って行く。それを繰り返して行くうちに、いろいろな分野のことを少しづつ知っていって、きっと、あるときそれらが円環のように繋がっていることに気がつく。

山: アカシックレコード(笑)。
< http://ja.wikipedia.org/w/index.php?oldid=15431414
>
百学というのはむしろ百の学問と言うよりも、百の「知」ということかね。

武: 百学連環自体がひとつの学問かも知れんし。

山: うーん、学問、ってしてしまうとなんか大上段に構えてる感じがするけど、今回の展示とか観ててもおもうんやけど、結局ただみんな自分のやりたいことやってるだけとちゃうん?

武: 一つ一つは断片ってことだと思うんですよ。でも、それらが体系を成して、何らかの宇宙・世界観が築かれて行くと、何かを作った(思想した)ことになるんかもしれない。

山: 結局、始まりとしては何かを知りたいとか何かをやりたいとかっていう所から始まっている訳で、それをどこまで信じてやるかってことなんかね。

武: 純粋なところではそうだと思う。そういうロマン(笑)。

山: そう考えると「学問」なんて言葉はなんや、アホらしいな(笑)。そんなん自分やん。

武: いやあ、そうでしょ。


●結局呑んで忘れる


山: つまりこうやってさんざん話して、結局の所すべて忘れて何も体系化だとかなんもしなくっても、まあええとしよう(笑)。学び、問えばいいのだ。

武: っていうか、今回、展示の話ししてないんだけど(笑)。

山: うーん、この話はまだまだできるはずやのに話せないのんはなんでやろ。

武: 俺は、「複製」ってなんだろう? っていうところまで話しを持って行きたかったんだけど、すでにへべれけ。

山: ま、僕はすでに記憶にはない。

武: 俺も記憶にない予感。

山: 二人とも記憶にないとすると、これはよろしくないはずや!

武: だから残すんじゃね?

山: 残したらこれはまたやっかいやな……。

武: 残すからこそ、未来に繋がるかも知れない、とか。。。

山: 未来もすでに記憶がない(笑)。先取り(笑)。

武: それいいねー。貰っとこ。

山: 明日の分まで呑んでしまった!

武: 明日呑まないってことだよな、それって。

山: あ、呑みます。明後日の分(笑)。


●印刷博物館【百学連環】評

武: ☆☆☆☆☆ 星5つ。博物館の可愛いおねえさんに微笑まれたから。

山: ☆☆☆ 星3つ。もっといい展示出来るはず。嫌いじゃないけど。

印刷博物館【雑協・書協創立50周年記念世界出版文化史展「百学連環−百科事典と博物図譜の饗宴」】
会期:9月22日(土)〜12月9日(日)10:00〜18:00 月休
入場料:一般500円、学生300円、中高生200円、小学生以下無料

【武 盾一郎(たけ じゅんいちろう)/朝起きたら、卵なんさ】
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【山根康弘(やまね やすひろ)/選ばれない方、いやきっと選んでくれる】
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