歌う田舎者[15]おっぱいバレバレー
── もみのこゆきと ──

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眠れぬ夜を数えた猛々しい夏のかけらは、まだそこここに残っている。記録的な猛暑は地球温暖化がまた歩みを早めたのかと人々を不安にさせるが、地球環境を守っていくために、わたしたちもできる限りの努力を行い、循環型社会を形成していかなければならない。そのためには、3RすなわちReduce:減らす、Reuse:繰り返し使う、Recycle:再資源化の実践が重要である(以上、棒読み)。地球環境を守っていくために、わたしもコラムのReuse・Recycleを実践した。

......なんですと? あんた、いろいろと御託を並べとるけど、要するにコラム書きをサボったいうことですか? すいませんすいません。じ、じ、実は今回、自分の個人ブログからリサイクル&化粧直ししとります。降って沸いた仕事の山で時間切れとなりました。いや、しかし、元ネタを読んだなどという奇特なデジクリ読者は2人しかいないはずなので、どうか許してやってつかあさい。



●わたしの唯一のコンプレックス

持病のため毎日毎日薬を飲んでいる。薬の副作用は乳がんなので、年に一回は検査を受けなければならない。事前にかかりつけの婦人科で乳がんの触診を受けるのだが、ドクターが書き込んだシートを何気なく横目で見ていたら、ある項目で目が止まった。ちなみに「様式第7号乳がん視触診検診結果通知書券マンモグラフィ受診券」というシートなのだが、そのシートの下部に視触診判定欄というところがあり、「乳房の形状」という項目があるのだ。選択肢は三択。「大・中・小」である。つまりは巨乳であるか洗濯板であるかを判定する項目なのだ。その回答欄には「中」に大きな○がまわされていた。

「ちゅう〜っ! ちゅうですか〜っっっ!! マジですか〜っ!」

ドクターの首根っこを捕まえて問い質したかった。「どういう判断基準で"中"と判定したんですかっ! あなたが今まで見た患者の中でホントに"中"なんですかっ! 本心から書きましたかっ! それは上何%下何%の割合ですかっ!わたしの乳房の形状について、あなたが感じたことを仔細に回答してください、仔細にっ!!!」

皆さまから、きれいだ・美人だ・キュートだ・コケティッシュだ・ビューティフルだ・優しい・気立てがいい・お嫁さんにしたい一般人ナンバーワン、と賞賛の言葉を浴びるわたしであるが、ただひとつ、欠点があった。それが貧乳である。

ペチャだの洗濯板だのエグレだのと言われ続けて幾星霜。中学時代に男子に囃し立てられたのを皮切りに、社会人になってからも、出張先で出会った日本が誇るIT企業のマネージャーに、初対面で「おい、Aカップ」と呼ばれる始末。「Aカップじゃねぇよ、ハゲ!」と、ハゲとペチャで悪態をつき続けながら深夜残業を続けた北の町での懐かしい日々(遠い目......)。しかし、おまえさんたちには誰一人として、わたしのおっぱいなど見せた覚えはないんだがねぇ。

そんなわけで、おっぱいコンプレックスなわたしは、人生の一時期、豊胸系グッズ研究家であった。メスを入れてまで巨乳になりたいとは思わなかったので、○川美容外科とか、そういう系統はスルーだったが。

社会人になりたての頃は、クラランスのモデルバストが欲しくて仕方がなかった。今もあるのか調べてみたら、本家サイトにはないがコスメ系通販サイトにはあるようだ。コレである、コレ。
< http://www.ibeautystore.com/detail/detail.asp?pid=35453
>

ホースを蛇口に取り付けてバストにカップをかぶせ水を流すと、カップに装着された羽が水流で回転し、マッサージ効果でバストアップできるという商品である。しかし想像するに、これを使っているのが親に見つかったら、どう言い訳をするんだ? と思うと、小心者なわたしにはどうしても買えなかったシロモノだ。

もしバスタイムに母が扉でも開けようものなら、即刻カップを頭にかぶせて「え? なに? あ、これ? 水流のマッサージ効果で、頭が良くなるんだよ、頭が」と、間抜けな言い訳をせねばならないだろう。

怪しまずに使えるものと言えばマッサージジェル系のものだが、マライア・キャリーもコレで巨乳になりました! といわれるのが、有名なプエラリアエキスの入ったジェルだ。タイ北部に自生するイモのエキスなのだが、海外旅行帰りの同級生の男子からお土産にもらったことがある。君にもおっぱいなんか見せてないんだがね。

そんな彼は、身長が低いことを気にしていて、通販で「みるみる背が伸びるサプリ・牛骨エキス入り」なんて怪しいものを飲んでいた。「でさ、その牛骨、効果はどうなのよ」「ぜんぜん。そっちは?」「いやー、まだ一週間だからわかんねぇ」......そんなうら若き時代のわれらの努力も空しく、身長もおっぱいも成長しなかった。

アロマテラピーにはまっていた頃は、同じプロジェクトで仕事をしていた年下男子が、誕生日にエッセンシャルオイルを二瓶プレゼントしてくれた。イランイランとゼラニウムである。「おーっ、ありがとう。で、なんでイランイランとゼラニウムなの?」「店で豊胸効果のあるヤツはどれ? って聞いたんすよ。必要でしょ? ね、必要でしょ? うひひ」彼の頭上には、速攻で分厚いデータベースのチューニングマニュアルが降って来たのは言うまでもない。

巨乳にならなければ巨乳に見せかければ良いのだ。

それは10年ほど前のことだったろうか。部の忘年会の日だった。100人近くがひしめく大きな座敷。設えられた食台上の土鍋から白い湯気が威勢よく立ち上っている。わたしの隣に座っていた同期の男子は、頭からつま先までじろじろとわたしを見て、それからこう言った。
「お前よ、今日絶対おかしいよな」
「何が」
「その胸」
人差し指でわたしの胸を指さして疑惑の目を向けた。
「何かしてるだろ、それ」

そうだ、していた。その日、当時発売されたばかりのトリンプの天使のブラをはじめて付けていったのだ。たかがブラ一枚と侮ってはならぬ。「そこはおっぱいじゃねーだろ」って場所のお肉もかき集めて、無理やりカップの中に納めると、このわたしの貧乳でも、かすかに谷間ができちゃったりするんである。

鏡を見て、思わず「ビューナスA、ゴー!」と叫び、滝壺からせり上がりたくなったのは秘密だ。ちなみに、ビューナスAの必殺技は"おっぱいミサイル"(正式名称:光子力ミサイル)なのだが、子供心に「グレートマジンガーって、なんてエッチなアニメなんだ」と、妙にうしろめたい気持になったものだ。

「ば、ばれた?」
「バレバレよ。なんだよ、ソレ」
「天使のブラ」
「ぶわっはっはっはっは!!」
「笑うな!」

すんでのところで、腹を抱えて笑う同期の頭上に、土鍋をひっくりかえしそうになったわたしである。かつて山崎ナオコーラが「人のセックスを笑うな」(※1)という名作(第41回文藝賞)をものしているが、次回作はぜひ「人のおっぱいを笑うな」にしてくれ。

あぁ、Dカップだったら、どんなにステキな日々が待っていることだろう。どこかの首相夫人が「あなたがDになって、いったい日本の何が変わるの」(※2)と言うかもしれないが、日本は変わらなくてもわたしの人生は変わるのだ。

若く美しい男を侍らせ、「香油を塗っておくれ」と腕と足を委ねる。「今宵の夜伽は誰にしようぞ」「姫、ぜひわたくしに」「なにを言う! 姫、わたくしこそ姫にふさわしい!」わたしを巡って男たちは血みどろの戦いを繰り広げる。「ほほほほほほ・・・そなたたち、そんなにわらわが欲しいのか」高笑いするわたしのBGMは、もちろん巨乳な河合奈保子の♪けんかをやめて〜二人をとめて〜♪(※3)だ。Dカップなら、こんな人生が待っていたはずなのだ。

今でも新成長戦略と称して、バストアップエクササイズに励んでみちゃったりなんかするのだが、わたしのおっぱいがDに成長するのと、棺桶に足を突っ込むのと、果たしてどちらが先かを考えると、せつない今日この頃である。


※「おっぱいバレー」
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※1「人のセックスを笑うな」山崎ナオコーラ
< http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4309408141/dgcrcom-22/
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※2「あなたが総理になって、いったい日本の何が変わるの」菅伸子
< http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4344981731/dgcrcom-22/
>
※3「けんかをやめて」河合奈保子
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【もみのこ ゆきと】qkjgq410(a)yahoo.co.jp

働くおじさん・働くおばさんと無駄話するのが仕事の窓際事務員。かつてはシステムエンジニア。前回「わたしがド・ヴォン式トイレに甘んじているのは、ひとえに都市計画課の職務怠慢だ!」などとくだを巻いていたら、どうやら市役所に聞こえたらしい。来年3月までに立ち退けとのお達しがあった。いよいよ黄金の水洗ウォシュレットが現実に!

ところで、白が出るのを待ち切れず、ついにiPhone4を契約。このデジクリが出る頃には届いているやも知れぬ。しかし、販売店のにいちゃんは「正直言って、地方では切れる場所が多いかと思いますが、それでも契約しますか」と脅すのである。聞けば、わたしの地方巡業担当地域は悉くダメっぽい。そう言えばVodafoneの時代、我が住処は圏外だった。いまさら公衆電話の設置場所を確認しておかなければならないのだろうか。