雨ニモマケズ
風ニモマケズ
御馳走ヤ酒ノ誘惑ニモマケヌ
強イ意志ヲモチ
体重ガフエレバ オロオロナヤミ
皺ガフエレバ クヨクヨナゲク
ソレデモ イツノヒカ
網タイツヒトツデ 周リヲ悩殺スル
サウイフモノニ
ワタシハナリタイ
これは、わたしの今年の年賀状である。網タイツを身につけたバニーガールのイラストを添えた、ダイエットとアンチエイジングの誓いとでも申し上げようか。ちなみに、去年の年賀状は以下の通りであった。
風ニモマケズ
御馳走ヤ酒ノ誘惑ニモマケヌ
強イ意志ヲモチ
体重ガフエレバ オロオロナヤミ
皺ガフエレバ クヨクヨナゲク
ソレデモ イツノヒカ
網タイツヒトツデ 周リヲ悩殺スル
サウイフモノニ
ワタシハナリタイ
これは、わたしの今年の年賀状である。網タイツを身につけたバニーガールのイラストを添えた、ダイエットとアンチエイジングの誓いとでも申し上げようか。ちなみに、去年の年賀状は以下の通りであった。
朕深ク健康診断ノ大勢ト肉体ノ現状トニ鑑ミ
非常ノ措置ヲ以テ体重ヲ減少セムト欲シ
茲ニ忠良ナル爾臣民ニ告ク
朕ハ二〇一〇年ノ一年間ヲシテ
米英支蘇四国ノ如何ナル誘惑ニ対シテモ耐ヘ
万世ノ為ニ其ノ体重ヲ三キロ減量スルコトニ
最善ヲ尽クス旨通告セシメタリ
『三キロ』という控えめな目標が、慎ましやかな大和撫子を思わせ、全国の殿方の劣情をかきたてたことと思われる。
このところのわたしの年頭目標は、毎年ダイエットである。システムエンジニア退役後、あれよあれよと言う間に増量し、気がつけば8kgも太ってしまった。「今なら8kg増量中!」と言っても、ローソンのからあげクンじゃあるまいし、誰も買ってくれない。
健康相談で保健所のねぇちゃんに「健康上のお悩みは何かありますか?」と聞かれ、ソッコー「ダイエットです」と答えたわたしであるが、「腹囲90cmまではメタボじゃないですから、まだ大丈夫ですよ」って、おまえ、そんな厚労省規格なんか笑顔で持ち出されたって、慰めにもなりゃしねぇ。どこの世界に腹囲90cmで良しとする女がいるんだ? あん?
最近、覚せい剤で新聞・テレビを賑わせている小向美奈子嬢であるが、昨年秋の浅草ロック座「花と蛇3公開記念特別公演」では、ほかの踊り子さんと比べると、ギョッとするほど、ふっくらしておられた。
しかし、若者が太るのと、中高年が太るのでは大違いがあるのだ。うら若き小向美奈子嬢が太っても、細胞ぷりぷりぴちぴちの瑞々しい太り方になるのだが、綾小路きみまろのメイン顧客層の場合、そうはいかない。引力に逆らえなくなった肉が、所在なげにでれんと垂れ下がり、ブラからはみ出した背脂の段差が物悲しい風情を漂わせることになる。
8kgも増量すると、生活のあちこちに支障が出てくる。まず、当然ながらこれまでの服が入らなくなる。スカートをはくとき、太ももの半ばあたりから、右・左・右と少しずつ回転させつつ「頼むから入れ、入ってくれよ」と、祈るような気持ちでウエストまで持ってこなくてはならない。おまじないは、♪ハイレハイレホレハイレホー ハイレハイレフレーホッホー♪である。
まっすぐ通れたはずの机の隙間が、カニ歩きをしないと通れない。ジャズダンスのレッスンに行くと、肉の重力に振り回され、ポーズを決めるべきところで止まれない。太った女には、万有肉力の法則が適用される。
風呂上りにバスタオルで首筋を拭きながら、ふと、足もとに視線を落としたとき、腹の肉の向こうに下の毛が全く見えないという荒涼たる風景が心を凍らせる。そして遠くから、都はるみの歌が...... ♪あなた 下の毛 見えま〜すか〜日ごと お肉が積もり〜ます〜♪
あら、も、も、も、もちろん、あたくしの話じゃなくってよ。たとえばの話よ、たとえばの。失礼しちゃうわね。エレガントで鳴らしたこのあたくしが、し、し、し、下の毛ですって! いやんばか〜ん、んふ〜ん♪ by 林家木久蔵。
でもね、食べ物というものは、腐る前が一番おいしいのよ。お肉だって、ちゃんとしたレストランじゃ熟成したものをお出しするもの。萎びる前が一番食べごろなの。それなのに、男たちはみんな黙ってあたくしの前を通り過ぎるだけって、どういうことかしら。全く世の中は不条理に満ち満ちているものね。
そんなわけで、今回のコラムでは、血のにじむようなダイエット生活についてしたためようと思う。今年になってからiPhoneの無料アプリ「WeightNote」でレコーディングダイエットを始めたわたしであるが、グラフがちょっと右肩上がりになっただけで自動的に食欲にブレーキがかかるのか、1カ月で2kgの減量に成功。よしよし、この調子でいけば、4ヶ月後には8kgの減量達成となるはずなので、夏はワイハーで男たちの視線を浴びながら、ビーチをモンローウォークよ。
しかし、勝利の栄冠をつかむ前に障害が立ちはだかるのは世の常である。わたしのダイエットを阻むもの。それは"出張"だ。2月半ばの1週間の間に、福岡と沖永良部に出張する予定が組まれていたのだ。
そこでしか食べられぬもの......その誘惑に打ち克つことはむずかしい。ましてや、もう5年以上も封印されたわたしの海外放浪癖をなだめすかすには、出張で訪れた都会で世界の料理を食べ歩き、気分だけでも海外逃亡モードになるしかない。
しかも福岡と言えば、押しも押されもせぬ大都会である。薩摩藩には未来永劫出来る可能性のない国の料理屋が目白押しだ。据え膳食わぬは女の恥。虎穴で喰わずんば男も得ずと言うではないか。千里の道も一歩から。大量の言い訳を並べたて、福岡初日の夜は薬院大通り近くのアルゼンチン料理屋「ポルテーニョ」にて、心のおもむくまま、豪勢に喰いまくることにした。
まず前菜にエンパナーダ。ミンチ・ゆで卵・玉葱などが入ったミートパイなのだが、チミチュリというスパイシーなソース付きで1ケ350円。ほくほくアツアツで超バリうまである。これを食べただけで薬院まで来た甲斐があったというものよ。
メインディッシュはミラネサ・ナポリターナ。とろけるモッツァレラチーズたっぷりの薄めのビーフカツレツで、付け合わせのミニトマトとレタスのサラダもたっぷり。パン付きで1600円。豆料理のモンドンゴは、白豆と牛モツ(ハチノス)のトマトソース煮なのだが、アルゼンチン肉じゃがという感じでうまい。ミニサイズで400円。
「ど、ど、どう考えても喰いすぎじゃね?」と思いながらも、デザートは別腹である。フラン(自家製プリン)をオーダー。このフランにはドルチェ・デ・レチェというアルゼンチンのソフトなミルクキャラメルがとろりと乗っかっているのだが、若干結晶化したキャラメル成分が、歯で噛むときに立てる小さなシャリシャリした音を官能的と言わずに何と言おうか。あぁ、福岡に出張できて本当によかった。うれしさに号泣するわたしである。
そして翌日のランチは大名にあるロシア料理「ツンドラ」である。入口近くのガラスケースには、様々なロシア料理のサンプルと共に、マトリョーシカが微笑みかける。
ここでは、つぼ焼きランチをオーダー。まずは民族衣装ルバーシカを身にまとったウェイターの兄ちゃんが、ボルシチ・ピロシキ・サラダを持ってくる。しかしなんといっても、ロシアっつったらグリバーミなのだ。つまりは、キノコのつぼ焼きなのだが、マグカップの中にキノコ入りのベシャメルソースが入っていて、それにパン生地(店によってはパイ生地のところも)で蓋をして、オーブンでこんがり焼き上げた料理だ。寒い季節にぴったりで、ふくらんだパン生地を、スプーンでマグカップの中に落とし込みながら、ふぅふぅして食べる。
いやはや、やはり世界各国料理はうまい。うますぎて涙が出る......あれ? 今回のコラムって血のにじむようなダイエットの話と違いました? こんなに豪勢に喰いまくって、いったいどないしますの! いいえ、大丈夫。次は沖永良部ですもの。福岡のような大都会と違って、間違ってもナイジェリア料理屋だのボツワナ料理屋だの、ありませんわよ。
そして間髪いれずに沖永良部に旅立ったわたしであるが、ご存じない方のために簡単に説明すると、沖永良部は奄美群島の一部を成す島で、薩摩藩最南の与論島よりひとつ北に位置する「花と鍾乳洞とダイビングの島」だ。映画「東京島」のロケ地にもなっている。
奄美十景に数えられる断崖絶壁の田皆岬は、二時間ドラマの帝王・船越英一郎が「このままでは大門寺から永遠に逃れられない。そう思った貴女は彼をこの崖に誘った。あなたがやったんですね、奥さん!」と叫ぶのにおあつらえ向きの岬である。ちなみにこの崖からは、ゆらゆらとウミガメが泳いでいるのが見える。
さて、確かに島にはナイジェリア料理屋もボツワナ料理屋もない。しかし、新鮮ぴちぴちな島食材が、手ぐすねひいて、わたしを待っていた。島の居酒屋は「若大将」。奄美群島でしか生産されていない、口当たり柔らかな黒糖焼酎をあおりつつ楽しむ島じゅうり(島料理)の数々。
島の正月料理で供されるヒルアギは、葉にんにく、人参、豚バラ、島かまぼこが入っており、ゴーヤチャンプルーのような味付けで食べやすい。刺身や貝の盛り合わせも新鮮でコリコリとしている。しかし何にもまして、そこに鎮座ましましている伊勢海老様。わたしら平民の口にはおいそれと入らない伊勢海老様が、平凡このうえない食材のように横たわり「好きにして」と皿の上で科を作っているのである。あぁ、おまえを喰わずに死ねるものか! 喰うべし、喰うべし、喰うべし!
わたしの辞世の句は、きっとこうなるだろう。
「あらざらむ この世のほかの思い出に いまひとたびの 喰うこともがな」......あれ? 今回のコラムって血のにじむようなダイエットの話と違いました?
出張から戻り、久しぶりに風呂上がりの体重計に乗ってみた。足もとに視線を落とすと、都はるみの歌が遠くから聞こえる。♪あなた 死んでも〜いいで〜すか〜 腹で〜目盛り〜が見えま〜せん〜♪ 目盛りは人生史上最大の数字を指していた。号泣していいですか。
※「号泣する準備はできていた」江國香織
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※ハイリハイリフレハイリホー「丸大ハンバーグ」
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※「北の宿から」都はるみ
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※「いやんばか〜ん」林家木久蔵
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※崖っぷちの船越英一郎
< http://www.nicovideo.jp/watch/sm8818379
>
※アルゼンチン料理「ポルテーニョ」
< http://www.7272.jp/0925235173/
>
※ロシア料理「ツンドラ」
< http://r.gnavi.co.jp/f049400/
>
※沖永良部島
< http://ja.wikipedia.org/w/index.php?oldid=35770683
>
【もみのこ ゆきと】qkjgq410(a)yahoo.co.jp
働くおじさん・働くおばさんと無駄話するのが仕事の窓際事務員。かつてはシステムエンジニア。沖永良部から戻り、現地の観光パンフレットを眺めていると、商店街のはずれに「スナック女ざかり」という文字が。うぅん、素敵なネーミングセンス。ホステスさんは、やはり女ざかりな方々ばかりなのだろうか。気になる。すげぇ気になる。行って確かめてみれば良かった。あな口惜しや。
しかし何の気なしに「スナック女ざかり」でググってみたところ、求人情報の残骸が現れたではないか。しかし応募資格は18歳以上となっている。そりゃ看板に偽りありだろ。「女ざかり」を名乗るには、せめて介護保険料を支払うくらいの成熟度がなければならぬ。店のキャッチコピーは「美容とダイエットに最高の沖永良部島で、楽しくお仕事しちゃおっ」であるらしい。うむむむ......島にとどまり「スナック女ざかり」に応募するべきだったのではあるまいか。