ネタを訪ねて三万歩[81]折り紙本の意味不明な解説図
── 海津ヨシノリ ──

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時間つぶしで何をするか? と飲み会で話題になったとき、私は折り紙と答えました。今回は、折り紙を解説する本に掲載されている、意味不明な解説図について考えてみます。

もともと折り紙は、展開図のみが刷り込まれた本を著者が謎解きしながら折り方を見つけるような流れで進化していった経緯があります。これは江戸時代に発達した和算などの発展と似ています。

和算は1627年に吉田光由によって書かれた『塵劫記』が特に有名ですが、巻末に他の数学者への挑戦として、答えをつけない問題(遺題)を出すことが一般的でした。

先に出された遺題を解き、新たな遺題を出すという連鎖(遺題継承)が始まり、和算で扱われる問題は急速に実用の必要を超え、技巧化・複雑化していきました。詰め将棋なども同様ですね。

折り紙はもともと公家社会が神儀に使うために絹織物を使った事に対し、武家社会が和紙を使った事に端を発しています。1600年に行われた関ヶ原の合戦で、事実上天下は統一され急速に平和な社会となっていく過程で和紙が庶民に広く浸透しました。そして忘れてはならないのが、日本人のどん欲な学習意欲です。



ところがこの折り紙が一癖あるわけです。現代は基本的に幼稚園などで学ぶだけのイメージが強いからかもしれませんが、市販の折り紙本の多くは、大変簡単なものばかりなのです。ですから、簡単なモノであれば説明図もそれほど難しくないので問題はありません。

問題なのは、少し難しい折り紙の本です。大人用(?)ですね。これらはほぼ絶望的に折手順が難解で、意味が分からないものが多いのが実情です。たしかに歴史的には読み手が紐解くといったルールがあり、親切丁寧な方向だけを求めてはいけないのかもしれません。

しかし、明らかにテクニカルイラストレーターと著者の怠慢としか言えないモノを掴んでしまうと、気分は限りなく黒に近いブルーになってしまいます。少なくとも私はそう感じています。実際、私もどう折っていいのか分からない本を数冊所有しています。

もちろん本のすべてのページという意味ではなく、問題の本の一部のページです。ただし、それらの一部は運が良ければYoutTubeなどで有志の方による手順ビデオが公開されていたりします。しかし、あくまでもボランティア行為であるため、すべての作品についてビデオを探し当てることは出来ません。

解説文にムービーを添付したり、購入者だけに公開されているビデオページなど色々と工夫する余地はあると思うのですが、大きな進展がないことに挫折感を覚えます。

例えば私は昭和37年(1962年)発行の折り紙本を持っていますが、説明図は大変丁寧です。巡り巡ってこの本を手にしたときの私は小学2年生でしたが、問題なく折進むことが出来ました。思えば、昔はかなり古い本でも書店で手に入ったのが今となっては懐かしいですね。

話を戻すと、この本は幼稚園児が折るような優しい折り紙本ではなく、大人向けの本でした。正確には部分的にハサミを使うので折り紙とは言えないのかも知れませんが、私自身はそれほど拘っていません。

実はこの本で折り紙にのめり込み、座りっぱなしであったために肝臓をいためて病院にいったほどでした。もちろん急性でしたので大きな問題はあリませんでしたが、しばらく折り紙禁止令が出てしまいました。

そのような幼児体験が災いしたのか(?)それ以後はそれなりに数学の幾何が好きになり、怪しげな図形や時分に関係する統計データを元にしたグラフなどを描いたりすることが多かったように記憶しています。今も幾何学的なモノを見たり読んだりするのが好きなのは、この時にスイッチが入ったからだと思います。

ということで、手持ちの折り紙本を色々調べて見ると、少々面白い事に気が付きました。もちろん、あくまでも私が所有している本に限ってのことです。そもそも趣味人である私が、折り紙に没頭しても食べていけませんので、それど多くの本を所有しているわけではありません。

おおよそ70年代後半ぐらいまでに発行された本は、それなりに図版が丁寧で分かりやすいのです。逆に90年代あたり以降から、よくわからない図版が増えてきているように感じています。80年代はグレーゾーンですね。

表現力やデザインは確実に進んでいるはずなのに、この部分が退化していることに疑問を持たざるを得ません。これは安易なデジタルデータの弊害と感じています。本来写真や映像では分かりずらい手順や説明部分を、線画にして分かりやすくすることがテクニカルイラストであったはずなのに、写真やビデオで見た方が分かりやすいというのは本末転倒ですね。

そこで私なりに出した結論としては、もっとも可能性のある見せ方は、経費を無視すれば3Dによる無駄を省いた映像だと感じています。ただしここで問題がひとつ。どの状況であってもそれは同じなのですが、3Dでなくてもテクニカルイラストを作成するイラストレーターが案件を理解していることが大前提です。

もちろん、紙と鉛筆だけで絵が描けないような人は論外です。つまり、関わっている折り紙本のすべての作例を、作者の説明なしに折り進めるほどの理解力が必要です。当然、制作には時間が掛かるでしょう。その掛かる時間を現代は捻出できないから、妙な説明図が世の中に平気な顔をして出て来てしまうのだと感じています。

予算がないから時間も掛けられない。なんだかこの悪循環のような気がしています。印刷物が激減している現代において、作り手の経費は削られっぱなしです。予算の掛かる本ほど販売期間は短く経費が掛かるのが実情なので、余計にその傾向に拍車が掛かってしまうのでしょう。

かくして、折り紙本の解説が理解できないことが、そのまま折り紙が理解できないと人、という刷り込みになっているのではないでしょうか。そして、実はこの傾向は折り紙だけではないような気がしています。

ところで現在、多摩美術大学造形表現学部デザイン学科の学生と不定期に折り紙ゼミを楽しんでいますが、実は数年前に折り紙の講義についての具体的な話が発生した事がありました。しかし、非常勤講師には担当授業数に規定があるために、残念ながら実現しませんでした。

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■今月のお気に入りミュージックと映画

[Can't smile without you]by Barry Manilow in 1978(USA)

邦題は"涙色の微笑み"で、誰もが知っている超有名な曲ですが、映画「Hellboy II: The Golden Army(ヘルボーイ/ゴールデン・アーミー)」でも挿入歌として使われており、その使われ方がとってもお洒落。ストレス溜まった時の私の特効薬です。

[Red]by Robert Schwentke in 2010(アメリカ)

Redとは「Retired Extremely Dangerous(引退した超危険人物)」の事で、邦題は「RED/レッド」。とにかくフランク・モーゼズ役のブルース・ウィリスはこうでなくっちゃ的暴れ方。ただし「ダイハード4」とは違ってクールな役ですが、相変わらずスキンヘッドで無敵の主人公を演じきっているので見ている側は少々混乱するかもしれません。

しかし、スティーブンセガールなどと違ってリアル感があって安心してアクションを堪能できます。そして、ブルース・ウィリスと同世代なの妙に老けているマーヴィン・ボッグス役のジョン・マルコヴィッチのキレ具合もイイ感じ。「Old man, my ass」の決め台詞は惚れ惚れしてしまいます。

そして、なんと言ってもヴィクトリア役のヘレン・ミレンがキュートで魅力的。実年齢66歳にして、ブローニングM2重機関銃やMP5短機関銃を瞬きもせずにぶっぱなすシーンは強烈&エレガンス。良い意味でのイギリス人の気品みたいなものがしっかりオーラで出ていますね。だから余計にこの役はバッチリ。

ところで、もうひとりの共演者(設定はノーコメント)であるウィリアム・クーパー役のカール・アーバン(「ロード・オブ・ザ・リング」のエオメル役と言った方が分かりやすいかも)のキレのある演技もいいですね。

とにかくテンポがよくて、中高年主演のアクションという切り口だけでもナイスなのに、この完成度はさすがです。ちなみに、続編が計画されているそうです。続編と言わずにシリーズ化してほしいです。ところで、御年94歳のアーネスト・ボーグナインが出演していたのには、ビックリを通り越して感動してしまいました。

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■アップルストア銀座でのセッション

11月21日(月)18:30〜20:00 Apple Store Ginza
< http://www.apple.com/jp/retail/ginza/
>
Hands on a Macとしての画像処理セッション
『海津ヨシノリの画像処理テクニック講座Vol. 62』Adobe Photoshop CS5の可能性及びイラストレーション手法として、Photoshopのブラシ機能のインタククティブ性について整理してみます。なお、ハンズオンセミナーは予約制で申し込みに関してはAppleに一任しております。

【海津ヨシノリ】グラフィックデザイナー/イラストレーター/写真家/怪しいお菓子研究家
yoshinori@kaizu.com
< http://www.kaizu.com
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< http://kaizu-blog.blogspot.com
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< http://web.me.com/kaizu
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10月5日に世界中を駆け抜けたSteve Jobs氏訃報のニュース。東日本大震災に福島原発事故とともに、生涯忘れぬことの出来ない年になってしまいました。思えば2000年と2002年の「Mac World Expo Tokyo」会場で私はニアミスをしたのですが、今となっては海外のアーティストと大騒ぎしたことなどとともに、本当に懐かしい思い出です。私にとってのAppleはSteve Jobsそのもの。

そして私の歴史は、1989年にLaserWriter II NTXとMacintosh SEを購入したのが始まりだと言っても過言ではありません。その頃のデザイン業界は、コンピュータを利用することを悪しき行為と考えている方が大変多かった時代でした。

私はそれ以前にもMS-DOSやWindows 2.0なども使い続けていましたが、Appleの革新的かつフレンドリーなインターフェースと遊び心の虜になってしまったのです。あの時否定していた人達は、今どうしているのでしょう。もちろん、ソフトウェアは英語版しかなかった時代で大変でした。でも、毎日が新しい発見の連続で本当に楽しい時代でした。

その後、IllustratorやPhotoshopで遊んでいるうちに、今のような仕事の流れにシフトしたわけです。もしあの時、Macintosh SEを購入していなかったら、私の人生はかなり違った結果になっていたと思います。ニュースを知ったと同時に、そんなことが頭の中を過ぎりました。

謹んでご冥福をお祈りします。