武&山根の展覧会レビュー 動く身体、ブレぬ画家──【フランシス・ベーコン展】を観て
── 武 盾一郎&山根康弘 ──

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武:こんばんは! ぴったり6時半!
山:こんばんはー。今日は予定通りチャットを始められましたよ。

武:もう、風やばすぎ! 昨日、今日。
山:今日(3月11日)そんなに強かったっけ。
武:今日はまあそんなだけど。昨日はひどかった。朝はおだやかだったのに。

山:確かに。空がすごい色になってたな。
武:午前中、「お、晴れてる。窓開けっ放しでも暖かいな」と思って窓を開けておいたんすよ。昼ご飯を食べて昼寝して、気が付いたら部屋が砂まみれ。

山:そりゃひどいw
武:寝室の窓も開けてたから布団も、、夜、眠いのに目がかゆいわ涙は出るわ、、
山:それは花粉症とちゃうんかいな。

武:寝室こそセーフティゾーンでなければならないのに、寝室に入ると目がしぱしぱしてくしゃみが出るなんて、、
山:だから花粉症ちゃうんか、って。
武:春の修羅。

●最近観た中で一番充実感があった「フランシス・ベーコン展」

山:...まあええわ。さて、最近展示に行けてなかったんですが、久々に僕も観て参りました! 東京国立近代美術館、フランシス・ベーコン展です! 僕は最近観た中で一番充実感があった。久々ですよ、この感覚は。
武:俺も! 展示の仕方もよかったよね。見やすかったし。




山:山ほど絵がなかったのがよかったかな。
武:そうそう。ちょうどよかった。なんだかんだ国立近代美術館一番多く観に行ってるんじゃないのか?
山:そうかもな。興味をそそる展示をよくやってるってことか。

武:美術館の存在意義についてまで批判したりしてるけど、結局好きってことだなw

|武:あのさ、実はね、膨大な収蔵作品を観ながら、階段降りてる時に、ふと
|思ったんよ。「この膨大なゴミを保管してどうするんかねえ。。」ってwwww」
|「山:あれと一緒やな、お墓。」
|< https://bn.dgcr.com/archives/20121114140200.html
>

山:常設観ると、やっぱり同じことは思たけど。
武:そういう常設を抱えてるからこそ、良い企画展があるんだよ。どっから見ても「良い人」なんて存在しないw 沢山の駄作があるからこそ素晴らしい作品が生じるw

山:埼玉近美ではあんまりそんなこと思わんのは、常設の数が少ないから、ってことやろか。
武:地元の美術家も収蔵されてるからじゃないのかな。

●ベーコンと同時代の画家

山:ふむ、まあその話はまたするとして、今回はベーコンです。フランシス・ベーコンと言えば、僕が予備校生の時は、周りはみんな好きやったんちゃうかとか思うぐらい人気あったような。もちろん僕自身も、ベーコンは大好きな画家の一人やったけど。

武:ベーコンとか、フロイドとか、デ・クーニングとか。
山:ルシアン・フロイドか。画集持ってるわ。
< http://goo.gl/NGHRY
>

武:身体を描くことにこだわった画家が、その年代で何人かいるよね。身体の抽象表現主義というか。
山:ベーコンは、抽象表現主義全盛の時代に、具象にこだわった画家、ってことになってるよな。デ・クーニングは技法としてはジャクソン・ポロックと同じ、オートマティズム。だからちょっとベーコンとは違うんとちゃうか。ただ、「偶然」を重要視するとか、共通点もありそうやけど。

武:ベーコンは身体の身体らしさであるグロテスクな感じをとどめながら具象から逸脱するっていうか。もし身体を抽象画化してくなら、ほとんどの場合が肉々しさを消してく抽象化なんだけど、肉っぽさだけを抽出してる、そう言った意味で、抽象画であるとも言えないか? 肉っぽさというか、肉体の存在の気持ち悪く怖い感じ。

山:ベーコンはグロテスクさ、肉っぽさを抽出したかったのか、っていうとそうでもないかも。展示の中で「リアリティへと至る単純化」というベーコンの言葉があったけど、グロテスクさはあくまでもその結果であって、なんやろ、もうちょっと違うものを求めていたような気がするが。でも、フロイドも肉々しいなw

武:フロイドとベーコンは共通点ある気がしたよ。
山:友人やしね。フロイドを描いた絵が展示されてた。三幅対(トリプティック)ですか。三枚の絵で作られている。

武:あったね、それ観た時、ベーコンってフロイドの影響受けてるっぽいなあって思った、肉感の出し方とか。フロイドは徹底的に肉感を出すんだけど、それはフィックスしてる「塊」なんだよね。ベーコンは動いてる肉。

山:おお、フロイドもベーコンを描いてる。
  < http://www.tate.org.uk/art/artworks/freud-francis-bacon-n06040
>
武:似てるw できてたんかな?
山:ゲイみたいやしな。

武:フロイドも?
山:どうやらフロイドが描く男性はほとんどゲイらしいけど、フロイドはゲイじゃないそうですw

武:フロイドはゲイじゃないのか。ベーコンはゲイであるってのがなあ、やっぱなあ、強いというか。。てか、イギリスのアートってさ、なんかグロテスクなの多くね?

山:言われてみれば多い気がする。
武:牛を輪切りにしたのとかってイギリス人じゃなかったけ?
山:ダミアン・ハーストか。
武:そそ。そういうグロテスクさ。

山:ホックニーもゲイやな。ホックニーはそんなにグロくないけど。
武:けど似た匂いあるよね。洗練されてるけど、どこかキモチワルイの。キモチワルイけど、洗練されてるの。って言った方がいいのか。

山:なんなんやろ。あ、バンクシーもイギリスか。
武:破壊的なんだけど、洗練されてるよね。
山:ギルバート&ジョージ、ジュリアン・オピー、、いろいろいるな。
武:日本人と逆だな、日本人だと、破壊的ではないけど、破綻しちゃってるんだよね。

山:なんでやろ。
武:無理やり開国させられて、戦争で負けたからかな。。
山:ああ、でもそれってさ、そこをどう捉えるかによってだいぶ変わるんとちゃうの。納得してしまうという。実際そこが日本人っぽいところもある。まあそこをたたかれたりもするんやろうけど。

●ベーコンのブレなさ

武:ベーコンは画風というか、テーマが初期ですでに決着がついてるよね。例えば、ポロックや前回のデジクリで書いたポール・デルヴォーは違うじゃん。ちゃんと絵画の歴史変遷を辿ったり真似たりしてるんだよね。ベーコンは50年代で既に手法の原型が登場していて、ずっとそのまんまブレない。

山:ただ、ベーコンは1909年生れで、1944年頃をデビューの年として考えてるみたいだけど、それ以前の絵はほとんど自分で破棄した、と。
武:なるほど! 若い頃の試行錯誤作品は残さなかったわけだ! それはそれですごいな。

山:すごい意識的やな。
武:晩年もブレないんだよね。
山:一貫性はすごくある。生い立ちが謎やけど。
  < http://ja.wikipedia.org/wiki/フランシス・ベーコン_(芸術家)
>

武:アイルランドだっけ?
山:そうやな。この本に詳しくあるらしい。
  < http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4105448013/
>
  そう言えば売ってたか、美術館のショップに。映画もあるね。
  <
>
  俳優そっくりやなーw

武:とても意識的ではあるけど、理屈っぽい感じではないよね。それはやっぱり肉体を描いてるからなんだろうな。
山:不思議やね。絵を作る上でのコンセプトというか、意図はおそらくはっきりあるんやろうけど、結果理屈ではない。本人が偶然を重要視していたってのは、かなり大きいんやろうけど。

武:ああ、ある意味オートマティズムは肯定してるんだね。
山:当時の美術の状況として、それが重要な事柄やったんやろうけど。出し方はいろいろあった、ってことなんかな。心理学も関係してんのやろね。ユングとか。で、ベーコンその人っていうのは全然知らなかったんですが、今回の展示を観たおかげで若干印象変わりました。

武:ほう、どんなふうに?
山:そうとう強欲なんやな、と。まあ、芸術家ってそんなもんかもしらんけど、僕はもうちょっとストイックなイメージしてたからw

武:最晩年に主治医の忠告に逆らって、若い恋人のところへ行ったりしちゃうしねw 晩年の絵はものっそいパワフルで肉。肉欲。けど要素や色数が抑えられてるからかな、確かにベーコンの絵からはストイックな感じを受けるのも分かるよ。
山:絵の要素のせいでそう思ってたんかな。

武:藤田嗣治とかって晩年の絵はがらっと変わるでしょ。最晩年で絵が変わる人ってわりといるよ。「悟る」というか。けど、ベーコンは悟らないんだよね。
山:年食えば枯れるってのが普通な気がするんだが。
武:けど、ベーコンの晩年の絵は枯れてないぞ。

山:うーん、例えばベーコンは最初から「枯れてる」、とか。無理矢理っぽいけど。
武:ああ、なるほど。その解釈は面白いね。
山:「枯れ」的なものから始まってる。ただ、日本人的な情緒が一切ない。美はあるんだけど。

武:情緒を表現してるんじゃないんだけど、見え隠れする。新しい恋人を描いてる絵とかはちょっと嬉しそうだし。ジョン・エドワーズか。ジョージ・ダイアが死んでやっぱり暗い絵が登場するし。けど、その感情や感傷が表現のテーマじゃないんだよね。

山:セクシャリティは重要やったんやろね。非常に即物的でもある訳だ。でも、手仕事そのものは変わんないから、「枯れ」て見える。

武:肉体が好きだったんでしょうな。けどさ、人体ばかり描いてるじゃん。歳食うと「自然」に目が向いちゃうじゃん、木とか山とか空とか海とか。ふわっとした抽象とかにも行かなかったってのがね、すごいよ。
山:強烈に身体に魅せられてたんかな。

武:頑固って意味じゃなくて、変えられない何かを持ち続けた人、ではあるよね。それが驚きなんだよな。好きであり続けるって、ひょっとしてその人の努力の問題というよりかは、偶然好きであり続けられた、ってだけなんかもしれないよな。

  もちろんベーコンだっていろいろ努力してるだろうけどさ。天才と言われるピカソの方が「努力」の痕跡が見えてこないか? ベーコンからは努力の痕跡が見えにくい。。

山:確かに努力を重ねて辿り着いた、って印象は受けへんな。
武:好きでやってただけだとしたら本当に凄い話だよw
山:だから歴史に残ったんとちゃうか。

●ベーコンとダンス

武:そうそう、ベーコンとダンス。土方巽の映像、と誰だっけ、最後の展示のダンサーは、ウィリアム・フォーサイスとかいう人。
山:ペーター・ヴェルツ、と二人で作った映像が展示されてたな。ドイツ人やね、二人とも。

武:土方巽のダンス「舞踏」は精神なんだよね。けど、外人のダンスは「身体表現」なんだよね。ベーコンの絵はその両方を捉えてる感じする。
山:それも面白いよな。だって、絵やで? いくら身体を描いてるって言っても。なぜそこまで魅了するんやろ。身体で表現している人達を。

武:絵だからこそ、現実にはダンス・舞踏じゃ出来ない身体を表現している。そして、絵の身体の「有り様」は、ダンス・舞踏が目指したい動きを醸し出してる。とかかな?

山:ほう。絵コンテ的な。確かにベーコンの絵には、動き、スピード感、時間、とかを感じるけど。
武:映像的、なのかな? うーん、映像的って言うと違うか。映像指示書?

山:映像的、ないし絵コンテ的だとすると、次がある、ってことやんな。そこで終わらない、という。ある状況を説明した絵ではなくて。
武:確かに。スナップ写真みたいな「そこだけ切り取った永遠のポーズ」ではないよな。

山:次の状態を指し示している、指し示すとまでは言わないまでも、暗示させる、絵やと。
武:どうしても次を想像せざるを得ない絵になってるわけか。理想や結論がバーンと提示されてるんじゃないってことだね。

山:そういうことなんやろね。
武:途中っぽくなってるのもそういうのを感じさせるのかな。

山:まあ単純に連続写真をモチーフとして使ってたから、ってだけかもしらんがw さっきも言ったけど、「リアリティへと至る単純化」というベーコンの言葉がある。途中っぽいってのは、過程やからってことなんかな。

武:動いてる写真って、「途中の絵」みたいになるよね。けど、リアリティを追求してるのに、ガラスで隔てて遠くさせちゃうんだよな。

●デザインと色彩

山:つまりリアリティというものをそもそも疑ってるふしもある、ってことなんかな。ガラス。絵の中に出て来る枠もそうやし。
武:絵の内容はガラス額の向こうにある絵の中に作られた枠のそのまた向こうなんだよね。

山:「出来る限り遠ざけたい」って書いてた。ガラスの板が一枚はいることによって、統一感がでる、って言ってたみたいやけど、それはすごくよくわかる。
武:絵の中に更に枠を作りたくなる感じもなんとなく分かる。

山:今それと同じことやってもあかんやろけどねw でもやりたくなる。ベーコンあたりからなんやろね。あと、デュシャンか。
武:「成立しちゃう」ってことなのかな。枠って。

山:仕組みなりを理解するってことか。
武:枠を作れば仕組みが出来たことになっちゃう。理解してる必要はないんだよ、「枠」ってのは、きっとw
山:ほんまかいな。

武:50年代の、暗いバックに口を開けた絵が印象的だけど、グロテスクっちゃあそうなんだけど、色彩はすんごい綺麗よね。
山:深い色やね。

武:あの色が汚らしかったらグロテスクどころじゃなくなるもんな、すごくバランスとれてるんだよね。破綻してないてのはやっぱインテリアデザインの仕事してたからかな。色彩もインテリアっぽいよ。色が収まってるんだよね。
山:いちいちかっこいい。

武:ベーコンってグロテスクと言われてるけど、見る人に不快感を与えたいという気持ちではないよね?
山:うーん、多分違うと思うけど、、わからんなw

武:今回の展示観て思ったのは、ベーコンの特徴って言うと「グロテスクな動く肉体」なんだろうけど、俺としては「色彩の綺麗さ」と「デザイン性」だったなあ。気持ち悪い具象かもだけど、デザインと色彩が効いてるので、成立してる。

山:結局は絵やからね。どこかで美しさを感じないと、伝わらない、とか。理屈っぽくはないが、美的である。美学的、とでもいうのか。
武:肉体を描いてるけど土着っぽくない。かといって観念的でもないんだよな。

山:そういうパラドックスというのかギャップというのかが、絵を非常に魅力的なものにしてるんかね。いやー、なんかまったくまとまらんw
武:ギュッと詰まったベーコンは、やっぱりちょっと切りにくい。

【フランシス・ベーコン展/東京国立近代美術館】
< http://www.momat.go.jp/Honkan/bacon2013.html
>
会期:2013年3月8日(金)〜5月26日(日)10:00〜17:00 金曜日20:00
休館日:毎週月曜日(ただし3/25、4/1、4/8、4/29、5/6は開館)、5/7
観覧料:一般1500円、大学生1100円、高校生700円

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【山根康弘(やまね やすひろ)/日本酒はやっぱりあかん】
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