●拘留生活図解
「留置所日誌」にはイラストも描いていたので、拘留生活をイラストとともに解説しようと思う。まず、食事から。
〈朝食〉
朝食はご飯と味噌汁。左側の四角い弁当箱のような容器に白飯が盛られている。米の上にはふりかけが少々かかっていて、昆布みたいなのが乗っかっている。端っこに沢庵が2切れ添えてある。この沢庵が不味い。
味噌汁の具は「ワカメと油揚げ」「ワカメともやし」「ワカメとキャベツ」といった質素なもの。あまり美味しくない。
〈昼食〉
昼食はパンとマーガリンとジャム。ビニール袋にコッペパンが二つ入っている。
ところで昼食には「自弁」というオプションがある。500円を支払うと、ほんの少しだけ豪華な弁当を頼めるのだ。朝に前もって「自弁ください!」と頼む。この「自弁」が留置所で最も贅沢な食事である。
パンの不味さに耐えられなくなって、「自弁」を頼んだことがあるが美味しくはなかった。留置所内でお金を所持することはできないので、出所する時に精算する。
〈昼食時のイベント〉
昼食時に5〜6分ほど音楽がかかる。演歌だったり、小室ファミリーだったり、インストの曲だったりする。なんとなく粋な計らいのようにも感じるが、何しろ音が悪い。その後ニュースが流れるが誰も聞いていない。
〈夕食〉
夕食はご飯とおかず。ご飯の真ん中に梅干しが乗せてある「日の丸弁当」とおかずだ。おかずの箱は区分けしてあって、小さい仕切りが二つ、そして中と大。
「小」には紅生姜みたいなの、昆布みたいなのが入れてある。不味い。「中」には煮物。「大」にはコロッケなどの揚げ物か、魚か、ハンバーグ的なものか、またはよく分からない食べ物が入っている。
〈飯時の支度〉
飯時になると檻の受け渡し窓から、丸められた「むしろ」が差し込まれて来る。それを延ばして食卓代わりにする。食事が終わると丸めて返す。
〈トイレ〉
トイレは長細い部屋の一番奥の右側にある。
左の格子は窓。窓の外は監視用に廊下があり、廊下には鉄格子の窓がある。廊下の窓が開いていれば、外の景色がほんの少し見える。何度か新宿の夜景を眺めたが、いっそう外が恋しくなる。
部屋の人たちも窓の外を眺めることはほとんどない。トイレに入ってることは部屋から丸見えである。
トイレの中。
トイレは和式である。トイレの中用の便所サンダルが置いてある。手を洗う場所のデザインが丸くてちょっと面白い。何か機能があるのだろうか?
イラストにはトイレットペーパーが描いてないがどうしていたのか? 日誌にはトイレットペーパーに言及してる個所がなく、もはや思い出せない。
間違ってるかも知れないが、トイレットペーパーはロールではなくてちり紙タイプで、必要な時に看守さんに頼んだような気がする。
トイレのドア。
トイレで一番印象に残ってるのはドアだった。上の角が丸まっているのだ。多分首吊り自殺防止の為なのだろう。しかし手洗い場も併せて丸いフォルムになってるので、デザインとしてドアの角を丸めてる感もある。
〈天井〉
天井に電灯は四か所、縦にある。一つの電灯に三本の蛍光灯が付いている。就寝時間になると、出入り口から二番目の電灯の真ん中の蛍光灯だけを残して消える。
朝6:30になると看守の「はい、起床!」の掛け声と共に、天井の電灯が一斉に点灯する。ちなみにこのイラストは間違っていると思われる。正面は出入り口なはずだがトイレが描いてある。
〈運動〉
毎朝9時ごろ「運動」と呼ばれる、タバコを二本だけ吸う時間があることは以前書いた。
(羽化の作法[33]拘留生活・その1 自ら感受性を抹殺した日々)
https://bn.dgcr.com/archives/20170221140200.html
そこではどんな感じになってるかが描かれてるのがこのイラストだ。
中国人は中国人同士で集まり、やくざさんはやくざさん同士で集まってタバコを吸う。プロたちはそこで情報をやり取りし、商談が決まったりもするようである。
僕は二十代くらいの若者たちが集まってる場所の、端っこにいることが多かった。若者はほぼ大麻である。まったく誰とも喋らずに、群れにも近づかずに一人でじっとしている人もわりといた。
〈その他〉
床は絨毯。エアコンが効いていたので、夏でも過ごしやすかった。
日誌には書いてないが、喘息が酷くなって留置所から外に出て、普通の医者に行った記憶がある。希望者が診察に行ける日があるのだ。
僕は違う部屋のやくざさんと一緒に診察を受けた。手錠をかけられて社会に出てる感じが奇妙だった。そこで気管支拡張剤を処方して貰った。
以上が拘留生活である。
●釈放されて
1996年9月9日午後6時ごろ、僕は釈放された。拘留期間は22日間。
母と妹が身元引き受け人として新宿署に来てくれた。刑事さんとしばらく話した。どんなことを喋ったかは覚えていないが。
そして新宿署を去る時、異変に気がついた。新宿署から声が聞こえるのだ。見上げると留置所から「タケちゃーん!」と僕に手を降っている影が見えた。窓が開いていたのだ。
僕も手を振り返した。このことはすっかり忘れていた。制作ノートを見てビックリした。拘留は辛かったけど交流があったのだ。
タケヲに会うと、タケヲは開口一番こう言った。
「イチコ、土下座しろ。」
(つづく)
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