◎1997年5月19日(月)くもりのち時々雨
“僕は子どもの頃、なんで自分が存在しているのかがよく分からなかった。僕はいつもいつも自分の存在に対して自信が持てなかったのだ。「僕はここに居ないかも知れない。」そんな気持ちが心の奥底に常に流れていた。”(制作ノートNo.10より)
この日のノートに描かれたイラストより多分この絵を描いていただろうことが分かった。
この日の制作ノートに描かれたイラスト。
段ボールハウスに絵を描き、東京シューレに通って子供たちと交流し、AKIRAさんのA倉庫で交流し、東大の駒場寮に出向く。と、活動だけ見てみると忙しくも充実してそうなのだが、なんでか心は荒れ果てていたようだ。
誰にでもある「二十代特有の苛立ち」というものかも知れないが。
◎1997年5月20日(火)
この日は痛い出来事があった。地元上尾駅前の「つぼ八」の全品半額で飲んだあと、同じく駅前にある音楽が流れているバー「K」にひとりで行った。
そこでとある一人のサラリーマンと、トイレで殴り合いになった。なぜ喧嘩になったのかは全く覚えてないが、殴り合いはなんとなくその場で収まった。
カウンターに戻って一通り飲んで店の外に出てみたら、サラリーマンの集団が僕を待ちぶせしていた。殴り合いになったサラリーマンの飲み仲間がいたのだ。5〜6人はいたと思う。
そこで僕は、サラリーマン軍団におもちゃのように殴られ蹴られボコボコにリンチ状態になった。路上に倒れこんだ僕を囲んで、サラリーマンの革靴の蹴りがお腹や顔に入る。
「てめーら、集団にならないと何もできねーのかよ! 卑怯者! 大勢で一人をなぶって楽しいのか! このチキン野郎ども!」と、一方的に蹴られながらも啖呵を切っていた。
アスファルトに顔を打ち付けられる固くて冷たい感触と、口の中に広がる鉛のような酸っぱい血の味と、サラリーマンたちを罵って叫んでいる自分と……、断片が記憶に残っている。
ところで当時は、上尾駅から歩いて50分くらいの公団住宅(団地)に僕が暮らし、今僕が住んでいる富士見のテラスハウス(駅から歩いて10分程度)には妹が暮らしていた。
暴行を受けて、さすがに団地までの50分は歩けない。妹が住んでいるテラスハウスに転がり込んだ。
「バー『K』の前でサラリーマン軍団にやられた」と部屋に着くなりひっくり返ると、妹は復讐をしに包丁を持って自転車で上尾駅に飛んで行ったようだったが、僕はその場で気を失うように寝ていた。
翌朝目覚めると妹は「上尾駅に行ったけど誰も居なかったよ」とポツリと言った。そして僕はそのまま新宿の段ボールハウスに絵を描きに行った。
あとで上尾整形外科に行ったら肋骨3本ひびが入っていた。
◎1997年5月26日(月)
この日描いていた段ボールハウス絵画は多分これ。
この日の制作ノート。
●東大駒場寮北寮門ゲリラペインティング
廃寮問題で揺れていた東大駒場寮だが、寮委員会は学外者たちに「サークル部屋」として貸し出しをしていた。東大生はほとんど駒場寮に入らないようだ。
空き部屋だらけではサクサク廃寮にされてしまうので、学外者を呼んで部屋を埋めようとしたのだろう。部屋に人が大勢暮らしているうちは、大学側も勝手に建物を壊すことが出来ない。
「学外者に貸し出していた」と言っても「サークル部屋」は東大生が借りているようにしないとならなかった。学外者が部屋を借りるには、名前を貸してくれる東大生が必要だったのだ。
それでも「ゼロバー」をはじめ学外者たちは多かった。特にアーティストが多かったような気がする。アーティストというか、無職というか、何やってるのか分からない人たちというか。
駒場寮のユニークな点は、ほとんど20代だと思うが、学外者がいっぱい居たところである。
僕が駒場寮に初めて訪れた時には、鷹野依登久(以降イトヒサ)は駒場寮に「サークル部屋」を借りていた。
そこで、イトヒサから駒場寮のことを聞いたり話したりしているうちに、「どうせこの建物は壊されてみんな追い出されるんじゃあ、駒場寮の外壁にペインティングしちゃおうか」ってことになった。
そこでイトヒサとヤマネと僕の三人で、ゲリラで駒場寮にペインティングすることにした。多分、この時がヤマネとイトヒサの初対面である。
描く場所は北寮の前に建っている「門」にしよう、象徴性の高い門にペインティングとはいいアイデアだ! と、僕たちのテンションは上がった。脚立もハシゴもある。ペンキは青と白がある。みんなで即興で描いていこう。
こうして東大駒場寮北寮門ペインティングが始まった。イトヒサが脚立に登って水色の綺麗なラインを描いて行く。僕はいったん壁を白く塗りつぶしてから描こうとした。
描き始めて間もなく、駒場寮委員の東大生が僕たちを見つけて止めに入ってきてしまった。普段は閑散としてほとんど人を見かけないのだが、たまたま通りかかったようだ。
「えっ? なんで? 駒場寮の部屋の壁なんてみんな落書きだらけじゃん。北寮の門に絵が描かれたら駒場寮の印象が明るくなるじゃん!」と、僕は東大生に言ったが聞き入れて貰えず、ゲリラペインティングはあえなく中止となった。
その後、6月2日(月)僕たちは駒場寮の壁面ペインティングを、駒場寮委員会の会議に提案する。しかし、駒場寮委員会の東大生たちによって否決された。
「クリストの国会議事堂を包む作品は議会で可決されたけどな」「なんだよ、俺たちが壁画を描けば絶対に廃寮反対運動のシンパシーが増えるのに。つまらない連中だなあ東大生は」と、僕たちはゼロバーで呑むのだった。
しばらくすると、駒場寮の壁面の一角に誰がしたのかスプレーの落書きがしてあったが、誰もそれを咎める者も話題にする者もいなかった。(つづく)
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