最近、何の気なしに「Quora」というサービスを使い始めました。Yahoo知恵袋の実名版みたいな感じでしょうか。
https://jp.quora.com/
そこに「芸術の目的とは何なのでしょうか?」という質問がありました。
https://jp.quora.com/%E8%8A%B8%E8%A1%93%E3%81%AE%E7%9B%AE%E7%9A%84%E3%81%A8%E3%81%AF%E4%BD%95%E3%81%AA%E3%81%AE%E3%81%A7%E3%81%97%E3%82%87%E3%81%86%E3%81%8B?ch=2
現時点では日本語の回答が2件、英語の回答が1件あります。なるほどなあ感心しつつ読みました。「芸術とはなにか?」について散々考えたり語ったりしてきたのですが、現時点での芸術観を今一度言語化してみようと思いました。
そこで、Quoraの「芸術の目的とは何なのでしょうか?」を自分なりに考えてみました。
●境界上に立ち現れたもの
私にとって芸術とは、「向こう側の世界とこちら側の世界を繋ぐ窓」だと考えています。
「向こう側の世界」とは、例えば、「神(々)の世界」と言ってもいいし、「魂の世界」でもいいし、「死の世界」でも「イデアの世界」でもいい。「真理」でもいいし、「理想」でも「妄想」でもいい。
もうちょっと違う言い方をすれば「(物質に対する)情報の世界」でもいいし、「見えないもの」でもいい。
私の作品『線譜』は「音楽の宇宙」、ガブリエルガブリエラでは「この世(12月世)と織り成すもう一つの世界・13月世」を描いていて、それらは「向こう側の世界」となります。
参照画像:線譜『サークル』
参照画像:ガブリエルガブリエラ『ティリアのお城』
「向こう側の世界」の設定は割と何でもいいのですが、ポイントは芸術とは常に「境界に位置している」ことなんだと思います。
つまり「芸術はどこにあるのか?」というと、美術館とかギャラリーとか個人宅とか公共空間にあるのではなくて、グーグルマップ的にはその場所に位置してたとしても、「こちら側と向こう側の境界上に立ち現れたもの」が芸術なのだと思います。完全にこちら側にあっても、完全に向こう側に行っちゃっても「芸術」にはならないのです。
そうすると、芸術の目的がなんとなく見えてきます。それは「こちら側の世界と向こう側の世界の境界に風穴を開けて風通しを良くする」目的を持っている。と、今のところ私はそう考えています。
作品に触れて「面白いなあ!」と感じる時、きっとそれは作品の向こう側を、イメージできたり触れたりできたような感触を持った時でないでしょうか?
別に言語的でなくても構いません。言葉にできなくても、作品の「向こう側」に誘われた感触があるとドキドキしたり、作品を通してその背後にある世界がブワーっと迫って来たりした時に恍惚としたりするのだと思います。
一方、観てもピンと来ない時は、作品から光が反射されて返ってくるだけで、その奥に行けないような感じを、私は受けたりします。
絵の具の物質感が出てるだけとか、モノがゴロッとあるだけのコンセプトのアートもあったりはするのですが、それもやはり境界上に置かれる感じがあるかどうかが、ピンと来るか来ないかを分けてたりします。
その「向こう側」とやらが、これといって役に立つものでもなかったりして、そこが芸術の芸術らしさだったりします。「向こう側」を「とても有用な情報」と設定した場合、アートと呼ぶ必要がなくなってしまう可能性が高いのです。
例えば、iPhoneは芸術作品である可能性はありますが、芸術作品とは呼ばれていません。「今までにない概念の表現に成功した」と言う意味で、iPhoneはとても芸術的です。
そして「スティーブ・ジョブズはアーティスト」と言っても、そんなに違和感はないでしょう。
しかし、ジョブズをアーティストと呼ぶことも、iPhoneを芸術作品と言うこともあんまりないのは、それが紛れもなく役に立つものであり、「完全にこちら側の世界」にあるからなのだと私は思います。
しかし、だからと言って「役に立たないものを作る」こと自体は、芸術の目的ではありません。そこが芸術のちょっとややこしく感じるところではあります。
とは言うものの、「芸術の目的とは何か?」とか、「芸術とは何か?」という問いに、正しいひとつの答えがあるわけでもないと思います。
「価値観を転換させる」とか、「未来を予言する」とか、「非日常を味わう」とか、「人間の多様性を知る」とか、人によって「芸術の目的と何か?」に対する返答の言葉の使い方はそれぞれだと思います。また、時と共に変わっていくこともあるでしょう。
手法にしても、素材に意味を持たせているアーティストもいますし、概念を絵にするアーティストもいますし、物質を放棄して情報だけを作品とするアーティストもいます。
方法も様々ですが、芸術とは結局のところ「こちら側」と「向こう側」の境界に佇むのです。そして、こちら側と向こう側の境界線上に見事に着地してると感じた時、芸術作品は観るものに向かって輝くのだと思います。
●アートを購入しましょう
生活や功利に追われてしまうと人は苦しくなります。そんな時、ストレス解消に役立つツールとしての消費作品は沢山あります。マーサージ器と芸術は、結果癒されたりするので似たところはあります。
違いは何かと言うと、癒しのためのツールはその機能性で優劣を測れます。そもそもその機能性と、コストの優劣で勝負しているものですから。なぜジャッジし易いのかというと、商品から私に癒しを施してくれて受け身でいられるからなのです。
ところが、芸術は自分から作品にアクセスしないとならないのです。それによって作品はこちら側と向こう側の空気を入れ替え、超越的な、あるいはドロップアウト的な、または宗教的な、何らかの癒しの作用に至るのだと思うのです。
なので、基本的に芸術は「優劣」でジャッジする必要のないものです。
確かにどうしても上手い下手とか価格とか、分かり易い物差しで測りたくはなります。それはそれで一つの基準ではありますが、作品がどんな「向こう側」を垣間見せているかを探りながら、旅をするように芸術作品と向き合うのが醍醐味なのだと思います。合う合わないの好みで良いのだと思います。
ただ、これだけだと芸術は単に鑑賞するものになってしまうので、存命するアーティストの作品なら、思い切って購入することがとても重要だと思うのです。自分が作品を作っている側なので、切にそう思います。
持ち帰って自宅に飾っても、作品は完全に「こちら側の世界もの」にはならないのです。購入した人の所有物になったとしても、芸術作品はずっと「向こう側」との境界に立ち続けてくれるのです。
それは日常である自宅に現れた「神秘への聖なる窓」になるはずです。それだけでも、作品を購入してみる価値はあるのではないでしょうか?(つづく)
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